ハイパースキンシップ
オレは陰浦の自作小説を参考に心の距離を詰めに行く。
「ねえ、陰浦。この作品内でカオリとトウヤはお互いを特別な存在と意識して、名前で呼び合うようになるよね?
せっかくだしオレも栞って呼んでいい?」
「へ!?あ、えーっと、だ、大丈夫です」
『別に許可取らなくても名前なんてさらっと呼べばいいじゃない!?』
わかってねーな。
詞や楓や阿雲姉妹なんかのオレの周りにいる奴らは涼しい顔してやってるが、人見知りにとっては名前呼びは一定のハードルがあんだよ。
んで、許可を取るという行為はそのことをことさら強く意識させることができるメリットがある。
オレのプレイした複数の作品でも同様の手法が散見されたし、実績ある攻略法だ!
「じゃあ、栞。オレのことも名前で呼んでよ」
「え、えっと……」
めちゃくちゃ目が泳いでるな。
「栞?」
「ゔ……」
「栞?」
「はぅ……」
オレが名前を呼ぶたびに、陰浦の顔が茹でダコのように赤くなっていく。
名前呼ばれ慣れてないんだな。反応が面白い。
「栞はオレのこと呼んでくれないの?」
「きょ、鏡夜さん……?」
──ごはっ!
さん付け……だと……。
初めて呼ばれたが、恥ずかしそうな上目遣いと合わせて破壊力やばいな。
「も、もう一回」
「むむむ無理です。あっ、えっと、いやとかじゃなくて恥ずかしくて……もうちょっと時間を下しゃい……」
くそう、なんだこいつ。かわいいな。
そんな弱弱しい小動物みたいな目でお願いされたら、これ以上強要できない。
次の手に切り替えるか。
「栞って耳かきやって欲しいと思ったりするの?」
「……へ!?なんでですか!?」
「小説に耳かきのシーンが出てきたから。しかも結構長尺で」
「あれは、その……そのシーンを書く前に耳かきAMSRを聞いたから……」
「エー……なにそれ?」
「AMSR知らないんですか?立体音響をイヤホンやヘッドホンで聞くことで音だけですけど疑似体験できるんです。それなりに流行ってると思うんですけど」
「はえー、疑似体験ねー」
「ム。結構リアルで本当にやってもらってる感覚になれるんですよ!
それにほら、耳かきやってもらうのは子どもうちだけで大きくなると機会がなくなるじゃないですか!だから懐かしい気分にもなれます」
「でもさー、わざわざ疑似体験しに行くってことは、実際はリアルでやって欲しいってことだよな?」
「そ、それは……まぁ……」
「耳かき貸して。やってあげるから」
「え、でも……」
「遠慮しなくていいぞ、妹にもよくやってあげてたし」
チラッと迷った陰浦はなにも言わずに部屋から出て行った。
そして、耳かきを持っていそいそと戻ってきた。
陰浦って思ったより素直だよな。
「じゃあ、ベットに寝っ転がってくれ」
「え?」
「どうした?」
「膝枕……」
「野郎の膝枕は硬くて気持ちよくないだろ?」
「でも、耳かきと言ったら膝枕ですし……」
「ベットの方が耳にも近いし安全だと思うんだけどなー」
「でも……」
どんだけ膝枕がいいんだよ?
そこまで喰い下がることか?
「わかった。栞がそっちの方がいいならいいよ」
オレは正座すると膝をポンポンと叩く。
陰浦は一瞬パッと表情を明るくすると、遠慮ぎみに頭をオレの膝に乗せる。
「じゃあ始めるからな」
陰浦は体を強張らせる。
が、次第に肩の力が抜けていく。
陰浦の小説では耳に息を吹きかけたり、舐めたりしてたよな……やった方がいいんだろうか?
いやしかし、息はまだしも舐めるのは……恥ずかしい。
と、とりあえず息を吹きかけるやつをやって、大丈夫そうなら舐める奴を……。
オレは陰浦の耳にゆっくりと息を吹き込む。
「ひゃん!?」
「す、すまん。小説に書いてあったからつい……」
陰浦の耳がすごい熱を持ってるのがわかる。
しまった……一声かけるべきだったか?
小説でも不意打ちでやってたから不意打ちしたんだが、やはりフィクションとリアルは別だな。
耳を舐めるのはやめておこう……。
「逆側向いてくれるか、栞?」
「…………しい……」
栞は動こうとしない。
寝てはないよな。
「栞?」
「もうちょっとして欲しいです……」
……思ったより心を許してくれるの早かったな。
普通に要求してくるし、普通にしゃべれるようになってるし。
その後、陰浦の要求に応えながらオレは両耳の耳掃除を完遂した。
「どうだ?」
「よ、よかったです」
「そいつはよかった」
陰浦は今頃恥ずかしくなったのか、顔を押えながら寝転がり悶絶している。
他に出来そうなのは……?
オレはチラリと小説を確認する。
この何度も登場するあすなろ抱きとか言うのはなんだ?四十八手ではないよな?
「栞、あすなろ抱きってなに?」
「え、えっと、あすなろ抱きって言うのは後ろから抱きつくハグのことです」
「ふーん。やってみていい?」
「うぇ!?あ、ああっ、えっと……ちょっと待ってくださいね?」
そう言うと陰浦はパタパタと部屋から出て行ってしまった。
『今日の鏡夜すごいプレイボーイみたいね?このまま一線超えるんじゃないの?』
「ちゃかすなよ。これでもオレだって緊張でギリギリなんだ」
『そうなの!?』
「当たり前だろ。やり過ぎたら嫌われそうだし内心冷や汗が止まらん」
「……なぁ、もしかして嫌われた?あすなろ抱きって実はハードルめっちゃ高いやつじゃないか!?」
『後ろからハグするだけでしょ?正面からハグした雷歌先輩の時の方がよっぽどじゃない?』
「じゃあ、なんで30分近く戻ってこないんだよ、しかも他人を部屋に残して?女の子のお手洗いってこんなもんなの?」
『それは人によるんじゃない?』
「トーカ、確認してきてくれ」
『えー、いやよ!』
オレがしびれを切らしたタイミングで陰浦が部屋へと戻ってくる。
「お、お待たせ……」
「おう」
陰浦の服装が変わっている。
部屋着ではないよな?
陰浦は両手を胸の前でギュッと握りしめ、緊張した面持ちでオレの前に歩み出ると、くるりと後ろを向く。
「ど、どうぞ」
後ろからハグしろってことだよな?
オレは陰浦の後ろに立ち、ハグするために手を広げる。
やべー、なんか緊張してきた。落ち着けー落ち着けー抱き付いたら心音が陰浦に伝わるんだ。冷静に冷静に。
あーダメだー。考えないように意識すればするほど考えちまって緊張する。
邪念を振り払うように頭を振ると、陰浦の部屋の姿見にオレの姿が映っているのが目に入る。
今の格好女の子を背後から襲う変態の図だな。
緊張がスッと解け、オレはゆっくりと陰浦の身体に腕を絡ませる。
ん?
陰浦の髪は妙にしっとりとしており、ふわっといい匂いが香ってくる。
「栞、シャワー浴びてきた?」
オレは普通に聞くつもりであったが、先ほどまでトーカと小声でやり取りしていたこともあり、耳元で囁くようになってしまった。
「ふふぇっ!?」
「ぐぇ」
驚いた陰浦の肘がオレの脇腹に突き刺さる。
オレと陰浦は背後からハグした状態でベットの上へと体勢を崩す。
ゴン!
勢いよくベットに座り込んだ反動で陰浦の後頭部がオレの顔面にヒットし、さらなる反動でオレは壁に頭を強打する。
「ッつー」
「だ、大丈夫ですか!?」
陰浦は振り返ってオレを心配してくれる。
「は、鼻血が!?」
「え!?」
オレが鼻を押さえると手にドロッとした感触が付着する。
陰浦はオレに跨った状態で近くにあったティッシュを取り、オレの鼻血を拭う。
「ちょ!?」
「動かないでください。私がやります!」
「いや、栞が汚れるから!」
「私は汚れても大丈夫です!」
いや、汚れるのもそうなんだけど、ベットの上でこの体勢は──!?
ッバタン!
「栞!?」
「あらあら」
最悪のタイミングで陰浦の両親が部屋に飛び込んできた。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の69話です!!
今回は陰浦栞とのイチャイチャ回!!
部屋でこのスキンシップはもう恋人じゃろ!!
そして、両親乱入!?
次回は陰浦家の仲の良さがわかる回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




