妄想小説
このサイトって小説投稿サイトだよな?
そんで『根暗な私が学校一の不良に溺愛されています』ってこのタイトル、女性に人気があるという溺愛系と言われるやつか?まぁ、陰浦からオススメされた作品もこの系統だったし変ではない。
ただ……どう見てもこれ、読んでる途中ってより、書いてる途中って感じだよな?
『へー、ネットでも小説って読めるのね?』
「んー。読めるって言うか……これ陰浦栞が書いてる自作小説だと思うぞ?」
『そうなの!?どんな内容なのかしら?』
「いや、さすがに勝手に読むのは……」
『なんでよ?ミッションの役に立つかもでしょ?
それに、ネットに投稿してんのよね?だったら読んでも問題ないんじゃない?誰でも読めるんだし』
「それは……まぁ……」
そう言われると読んでもいいような……と言うか、普通に興味ある……。
ちょいと失礼。
オレは陰浦の自作小説のあらすじに目を通す。
なになに。
人間関係が苦手で人の頼みを断れない性格のカオリ。カオリは図書委員の仕事を押し付けられ毎日一人で受付をやるはめに。
そんなある時、誰もいない図書室に学校一の不良のトウヤがやってくる。トウヤは何度か図書室に通ううちに徐々にカオリのことを意識し始める。
だが、カオリにアプローチをかける別の男の影が!?
焦ったトウヤは恥ずかしがるカオリを強引に……。
『これって……投影型小説ってやつ?』
「うーん。むしろ主人公が陰浦栞で不良がオレの妄想小説だろ完全に」
栞がカオリで鏡夜がトウヤって安直すぎるだろ……カオリの設定は陰浦そのまんまだし……。
『こんなもの書くってことは脈ありなんじゃないの?』
「どうだろうな~?
普通に考えたらほぼほぼ勝ち確だと思うんだが……陰浦栞の場合は友達どころか会話相手すらいないっぽいからな。
妄想しやすいシチュエーションの相手がオレしかいなかったって可能性が無きにしもどころかかなり高いんだよな~」
『それは……確かに』
ただ、少なからず陰浦的にはオレはそういう相手になり得るということだろう。さすがに、嫌い相手をモデルにはしないだろうし。
それにこの妄想小説はありがたいな。
要は陰浦の願望が書いてあるわけだからな。どういうのが理想かわかりやすい。
「あっ……あっ……あっ……」
背後に気配を感じてオレは後ろを振り返る。
しまった……。
読むのに集中し過ぎて戻ってきた陰浦に気付かなかった。
「……それ」
「あっ、いや、これは──」
──ッバタン!
やばい!
オレは勢いよくドアを閉めて逃げ出した陰浦を追いかけようとドアノブに手をかける。
が、ドアが開かない!?
逃げたんじゃなくて、ドアを押さえてオレを閉じ込めようとしてんのか!?
陰浦との体重差を考えたら簡単に押し切れるだろう。しかし、それでは悪印象が残り状況はよくならないだろう。
幸い、陰浦も部屋から離れていないわけだし、ここは誠心誠意の謝罪と説得だな。
「あの~陰浦さん?」
「……」
「つい出来心で……本当にすみませんでした!」
オレは膝を折り額を床につける。
『ドア越しで見えてないから意味なくない?』
そんなことねーんだよ!
よくサラリーマンの人も電話越しに腰を直角に曲げてんだろ!誠意と言うのは姿勢から発露するもんなんだよ!
「いで」
オレの頭にゴスンとドアがぶつかる。
「頭あげてください……部屋入れないので……」
「お、おう」
……足が痺れる。
オレと陰浦は机を挟んだ状態で向き合って座っている。
長時間の沈黙。互いに一言も発していない。
気まずさから逃げたいんだが、ここでオレがペラペラとしゃべりだすのは違うよな。
なにかしゃべってくれーーー!!
「ちょっと待っててください」
「はい」
陰浦は一度部屋から出るとすぐに戻ってきた。
「これ飲み物」
「あ、ありがと……」
オレは言われるがままに出されたものに口をつける。
「ど、どうでした?」
「へ?」
「よ、読んだんですよね?その~、感想……」
「あ、ああ……」
いや、感想って!
オレと陰浦をモチーフにしたキャラクターがイチャイチャする作品の感想を当の本人であるオレに求めんの!?陰浦って意外と鋼メンタルなのか?
「タイトルとあらすじしか読んでないんだけど……」
「そそそうですよね!そんなに時間なかったですもんね!」
鋼メンタルなんじゃなくて、パニックで正常な思考ができてないだけだなこりゃ。
このままふわーっと誤魔化して……いや、陰浦に対しては押せ押せで行くと決めただろ!
陰浦は押しに弱い。情報を得るにも堕とすにもこちらから距離を詰めるのがベスト。
ここは攻める!
「あらすじで気になったことがあるんだけど聞いてもいいかな?」
「ふぇ!?え、な、なんでしょう?」
「あの作品ってオレと陰浦がモチーフだよね?」
「それはっ……勝手にごめんなさい……」
陰浦は怒られたと思って悲しそうな表情でうな垂れてしまう。
「違う違う。怒ってるんじゃないよ!むしろモデルにしてくれたのは嬉しいくらいだし!」
「そ、そうなんですか!?モデルにされるのとか嫌じゃないですか?」
「多少むず痒いけど嫌ではないよ」
他の人はどうか知らんが、今のオレにとってはありがたいことこの上ない。
陰浦が自前で攻略法を用意してくれたようなもんだからな。
「よかった……あっ、でもそれじゃあ、なにが気になったんでしょうか?」
「あらすじに出てきたカオリにアプローチかけてるって男。誰がモチーフ?」
オレは陰浦に詰め寄る。
「え!?それは……」
「陰浦にアプローチかけてる人がいるってこと?」
オレはさらに距離を詰める。
「あ、あっ、あのあのあの……」
別に陰浦がそいつのことを好きだと言うならそれでいい。
そいつと陰浦をくっつければいいって話だからな。
……よくねーわ!
陰浦って誰とも話してねーんだろ?しかも、二次元に毒されてて理想が高そうだし。
そんな陰浦が好きになる相手とか、絶対超絶イケメンだろ!
そんな奴間違いなく彼女いるよな~。
別れさせた後に陰浦に振り向かせるとか……。
陰浦に可能性がないってわけじゃないぞ!
ルックスだけでいったら陰浦は地味だが可愛い方だ。磨けば今や学園のアイドルと化してる日菜にだって負けてないと思う。
ただ、まともに会話できないのはな~……絶望的だろ。
「ダンマリってことはいるんだ?陰浦さんはそいつのことが好きなの?」
「いないよ!こんな暗くて、地味で、まともに人と目も合わせられない私なんかににアプローチしてくれる人なんているわけないです……」
「そんなことないと思うけどな……」
謎の人物がいないならいろいろと考慮する必要はないってことか。
「わ、湾月くん……近いです」
「あっと、すまん!」
って、ここで引いてどうすんだよ!!
「なあ、陰浦。陰浦の小説読んでもいい?」
「え!?……でも」
「読みたい」
「わかりました」
陰浦の許可を得て、オレは陰浦の自作小説を読み始める。
『せっかく二人きりなのにそんなことしてていいの?』
いいんだよ。
正直この小説はゲームよりもより明確な攻略法だ。
と言うか、ゲームにこんな展開は存在しない。
多少遠回りに見えても、きちんと攻略法を知ることこそがエンディングへの最短ルートだ。
にしても、このトウヤとかいう奴舐めるの好きすぎだろ!
ディープキスはもちろん、耳に首筋にへそに足にとどんだけ舐めるんだよ。ほぼ全身舐めまわししてるだろ?ちょっとキモいな。
「どうですか?」
「面白いよ。展開が早くて飽きないし、難しい表現も少ないから読みやすい。あと、カオリがかわいい」
「そ……そう……」
「小説書くの上手だね。昔から書いてたの?」
「ううん。書き始めたのは最近なんです。
『恋は通り雨より激しく長く』っていう作品を読んだ時に私もこんな小説書いてみたいって思って!
あっ、『恋は通り雨より激しく長く』って作品はね──……」
長い……そして半分以上なに言ってるかわかんなかった……。
陰浦ってこんなにしゃべれるんだな。
「ご、ごめんなさい……いっぱいしゃべっちゃって……つまんなかったよね?」
「そんなことないよ。陰浦の好きなこともたくさん知れたしね!」
さて、オレのターンを始めるか!
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の68話です!!
今回は覗き見発覚回!!
小説のモデルにした当の本人にその小説を読まれるのはなかなか恥ずかしい。
でもせっかくなら感想が欲しい!!
次回は小説をを参考に陰浦栞とのイチャイチャ回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




