来訪の打ち合わせ
思考情報部が終わったオレは人目を避けながら急いで図書室へと向かう。
普段は特段人目を避けたりしないのだが、今日ばかりはそういうわけにはいかない。
なにせ謎のメッセージ事件を起こした上に、オレと陰浦には以前の噂がある。加えて、陰浦はメッセージの残された一年二組の生徒だ。
面倒ごとになるかは不明だが、リスクは極力避けるに限る。
『来てるかしらね、陰浦さん』
「そこは心配してない。問題は図書室に邪魔者がいないかどうかだ。他の人がいると陰浦栞は間違いなく会話にならないからな」
オレはとりあえず図書室の近くのトイレへと駆け込む。
「トーカ、図書室の様子を見て来てくれるか?」
『オーケー』
頼むから誰もいてくれるなよ?
トーカの奴、遅いな……。
オレがトイレに籠ってからそろそろ30分が経つ。
『鏡夜、鏡夜!』
「遅かったな」
『ごめんごめん。さっきまで図書室で委員会やってたんだ。で、終わったから戻ってきた』
委員会?
よく考えたらそうか、今日で一学期が終わるわけだし、会議をやるならこのタイミングか。
「図書室に人は残りそうか?」
『ううん。先生も含めてたぶん全員図書室から出て行ったよ』
全員!?
と言うことは、陰浦も一度退室したということか……。
戻ってきてくれよ~。
オレは一応警戒しながら図書室の中へと静かに入る。
『誰もいないわね』
「だな」
図書室は普段と変わらずものの見事に誰もいない。
空調の利いた快適な温度、薄っすらとインクの混じった本の香り、遠くの方から僅かに部活動に励む声が聞こえる静寂。
やっぱここはいいな。
オレは陰浦が来ると信じて、いつもの席でゲームをしながら待つ。
しばらくそうしていると、図書室の扉がカラカラと音を立てて開く。
信じてたぞ!
「あっ、あああの~……」
陰浦を確認するとオレは隣の席を引き、ここに座るようにジェスチャーする。
ここでオレの方から陰浦に近づこうとすると逃げる可能性があるからな。逃げられないようにオレの間合いへと誘い込む。
陰浦はおろおろと迷った後、隣の席に座った。
まずは過去の清算からだな。しこりが残ってると前に進めん。
「来てくれてよかった。怪我させたことちゃんと謝れてなかったしな。ごめん!」
オレは座った状態で膝と目が重なるほど深々と頭を下げる。
「え!?あ、あの……顔上げて……」
「せっかく友達になってくれって言ってもらえたのに、怪我させたし嫌いになっただろ?」
「け、怪我……してないです……」
「え!?でも、気失っちゃたし……」
「そ、それは……」
陰浦はボンっと顔を赤くしながら鞄から紙とペンと出すと、なにやら書いてこちらへ渡してくる。
またこれか……。
えーと、なになに。
”どこもは打ってないから怪我してないの”
え!?そうなの!?
「じゃあ、なんで気を失って……?」
オレの質問に陰浦は再びペンを走らせる。
”男の子の友達初めてで 押し倒されたし、顔が近かったしでパニックになっちゃって”
まじかよ……。
「じゃあ、嫌いになったとか……」
陰浦はプルプルと首を横に振る。
「よかった~。じゃあ、友達ってことでいいんだよな?」
陰浦は今度は首を縦に振る。
ふーーー。
と言うことは、また友達になるまでの好感度上げをやらなくていいわけだ!
助かったー。
しかし、陰浦って本当に喋らないな。
10文字も喋ってないんじゃなかろうか?
メールでの会話と言う手もあるが、アドレス交換は出来る限りしたくないし。
「なぁ、陰浦さん。友達なんだし、筆談禁止ね!」
「へ!?」
「陰浦さんの字はきれいで好きだけど、オレとしてはやっぱ声が聞きたいかな?ダメ?」
「…………」
「…………」
「……わかりました」
「ありがと!」
さて、アイドリングトークはこの辺にしとくか。
グダグダやっててもしょうがないし。
「じゃあ、本題ね!なんでなかなかここに来てくれなかったの?」
「!?……そ、それは…………私、やっぱり……!」
席から立ち上がって逃げようとする陰浦の肩をオレは即座に掴む。
「ダメ。逃げないで」
「あっ……う……はい……」
オレに捕まった陰浦は緊張でカチコチになりながら席へと座り直す。
「別に責めてるとかそういうんじゃないんだ。もしオレによくないところがあったなら聞いておきたいなと思って」
「あ……わ、湾月くんが悪いとかじゃないの……その……せっかくお友達になってくれたのに気絶しちゃったのが、恥ずかしくて……情けなかったし……め、迷惑もかけちゃったしとか……いろいろ考えてたらその……ごめんなさい」
「大丈夫。理由を聞かせてくれてありがとね。それと、強引に聞いちゃってごめん」
「私も大丈夫……です……」
やはりな。引っ込み思案に加えて、陰浦には逃げ癖がある。
となると、攻略するには今まで以上にこちらがアグレッシブになる必要がありそうだな。
「そう言えば、ご両親に友達がいるって証明する必要があるとか言ってたよね?どうやって証明するの?」
「……家に遊びに来てもらいなさいって……」
「なるほど……」
家に!?
そう言う話だっけ!?前回どんな会話してたか覚えてない。
連れて来いということは暗に親に紹介しなさいってことだよな?
「えーっと、陰浦さん的にはオレが家にお邪魔しても問題ないの?」
「え!?……は……はい」
陰浦の親とご対面か……。
と言うか、高校生の女の子が男を家に連れてくるのは……友達とは言えどうなんだ?ちゃんと友達と認めてもらえんのか?どう考えても娘が友達作る前に恋人作ってきたって思うよな。
拒絶されるとかは……ないか。
親としても、娘に友達がいないんじゃないかと心配していたわけだもんな?
そこに娘が嬉しそうに友達として野郎連れてきてしまったという状況になるわけだから、複雑だろうが受け入れざるを得ないだろう。
ただ、確実に地獄みたいな空気になるだろうな……。
彩夜がそうだったと考えると……うぉお、背筋がぞわってなったわ!
楓が女の子で本当によかった~。
「じゃあ、いつにするとかある?」
「は……早い方が……パパもママも疑ってるみたいですし……」
「あー、そうなんだ……」
早い方がいいってのはオレとしてもありがたい。
可能なら陰浦の攻略は夏休みの間にエンディングを迎えたい。
それに、オレの予想だと思考情報部の活動が夏休みの中盤から後半にかけて発生すると思われるから、余裕がある序盤の方に予定を入れておきたい。
と言うか、親に友達いないだろって疑われてるって……。
まぁ、普段の感じがアレだし当然か。
ん?ちょっと待てよ?
「さっき、男友達は初めてって言ったよね?てことは女の子の友達は以前いたんでしょ?その子は?」
「…………」
「……陰浦さん?」
「言いたくありません」
あちゃ~、地雷だったか。
うかつだったな。
「そっか。わかった!誰しも言いたくないことや言えないことってあるもんな!」
「わ、湾月くんにもあるんですか?」
「あるよ」
ミッションのこととかは墓場まで持ってくつもりだしな。
「ごめん、脱線しちゃったね。いつにしよっか。友達の証明をするためにはご両親が家にいる日がいいよね?ご両親っていつなら家にいそうとかわかる?」
「土日なら家にいると思います」
「土日か……」
親にオレが来ることを伝えて、あともしかしたら掃除とかの必要もあるかもだよな?
で、早い方がいいんだろ?
となると──
「今週は急すぎるだろうし、来週の日曜日とかはどうかな?」
「だ、大丈夫です」
「じゃあ、オレが行くことはご両親に伝えといてね?急に来たらビックリさせちゃうだろうし、それに証明するためには家にいてもらわないとだから」
「わかりました」
親の居ぬ間に男が家に遊びに来たとか親からしたら発狂もんだろうしな。
ご両親の記憶には残るわけだし、正直好印象を残したくはないのだが……かと言って反感を買うようなことも避けた方がいいだろう。
また、気を揉む攻略になりそうだな……。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の63話です!!
今回は陰浦栞との打ち合わせ回!!
今回の鏡夜は相手に合わせるのではなく押せ押せ状態!!
かわいい娘が友達として男を連れてくるのは親としては考えたくないだろうね。
次回の夏休み初週!!とある人物が訪問!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




