やばい噂
彩夜の看病をしたオレは彩夜の願いもあり、遅ればせながら登校する。
学校に到着したころには既に正午を回っていた。
登校したオレは遅刻理由を報告するため、教室へ行く前に職員室へと寄る。
「あら、湾月くんじゃない」
「あ、どうも」
オレは職員室でばったりと艶縞先生と鉢合わせる。
「今登校してきたの?おサボりはダメよ」
「いや、サボりじゃなくて、妹が体調不良だったので病院へ付き添いに行ってたんです」
「あらそうなの?」
「じゃあ、その遅刻理由と登校時間をこの用紙に書いてもらえる?」
「了解っす」
大幅に遅刻するとこういうのがあるのか。
「あら、湾月くんって意外と字キレイなのね」
「そうすか?」
「ええ。先生、字キレイな子好きよ」
「そりゃどうも。ところで先生、陰浦さんどうなりましたか?」
「陰浦さん?ああ、昨日気絶しちゃった子ね。大丈夫よ。検査した結果、どこにも異常がなかったって今日連絡あったから」
「そうですか」
ホッ、よかった。
こっちも無事だったか。
オレが用紙を書き終わるとほぼ同時にチャイムが鳴る。
「あら、四限目が終わったみたいね。記入はこれでオッケーだから、湾月くんは教室行きなさい」
「はい」
職員室での用が終わったオレは教室へと向かう。
しかし、なにかが変だ。さっきから周りの連中に妙に見られている気がする。
妙な空気をオレが気にしていると、前方から桔梗律が歩いてくる。
「久しぶり、桔梗さ──」
え……無視された?
今、目合ったよね?なんかめっちゃ嫌われてる?
和やかに挨拶したオレの横を桔梗はまるでオレがそこに存在していないかのように通り過ぎた。
理解の追い付かないオレは無意識に桔梗の背中を目で追う。
すると、急に腕を掴まれ体を引っ張られる。
「ちょっと来て!」
「風歌先輩!?あのオレ今登校してきたばっかで鞄やらなにやら持ったままなんですが──」
「いいから」
なにがなんだかわからないまま、オレは思い出深い校舎の陰にある花壇へと手を引かれる。
「いったいどういうことかな、鏡夜くん?」
オレを連行した風歌先輩は頬を膨らましながらぷりぷりと怒っている。
オレの思考はこの状況に全く追い付いていない。
なんで風歌先輩も不機嫌なんだ。これってさっきの桔梗の態度とも関係あったりするのか?
「あの~すんません。ちょっと状況がわかっていなくて……」
「誤魔化す気?鏡夜くん、誰とも付き合う気がないって言ってたよね?まぁ、百歩譲って心変わりしたとしても……それでもちょっと早すぎるかな~っと思うけど……ついこの間勇気を出した私に一言くらい欲しかったと言うか……なんと言うか……」
「え~っと、話が見えてこないんですけど……」
「だから!彼女ができたなら教えてくれてもよかったんじゃないかなって……。も、もしかして、あの時もう彼女いたとか!?」
「……彼女!?いやいやいや、なんでそんな話になったんすか!?は?え?どういうこと!?」
怒涛の謎発言により一瞬フリーズしてしまった。
ダメだ。全然話について行けない……。
「風歌先輩、1つずつ確認させてもらっていいですか?あの~、風歌先輩が言ってる彼女ってのは?」
「ん?鏡夜くんには英さんって言う彼女がいるんでしょ?」
ああー、そう言うことか。
「いや、英ってのはオレの幼なじみで、別に彼女とかではないですよ」
「えっ、そうなの!?」
「はい。実際、学校でもほとんど口利いてないですし」
おいおい。
二年生にまでこの噂流れてんのかよ。
どこのどいつが流してんだ、迷惑な。オレのミッションにも影響出るし、日菜の初恋にも影響出るだろうが!勘弁してくれ!!
「じゃ、じゃあ、彼女がいるのに昨日女の子をお姫様抱っこしながら保健室に連れ込んだって言うのは……?」
な、なんだその話!?
それ陰浦のことだよな!?
この噂のせいで桔梗にも無視されたのか……まぁ、真面目な桔梗としてはそんな保健室の使い方する奴は許せないわな。
と言うか、艶縞先生もそうだったけど、この学校の奴らは保健室を病人や怪我人が運ばれる場所じゃなく、エロいことする場所だと思ってんのか!?
「それは陰浦って子が気絶しちゃったから、保健室に運んだだけです。その後、病院へ搬送される大事だったんっすからね一応。その噂は笑えないっすよ」
「ごめん……」
「まぁ、誤解が解けたみたいでよかったですけど……。
と言うか、オレが女の子を保健室に連れ込んでなにやってたと思ってたんですか、風歌先輩?」
「へ!?そ、それは……その~……」
「その?」
「……いじわる」
「あはは。オレのことを信用してくれなかった風歌先輩が悪いんすよ」
「それは……ごめんね?」
「そうだ、風歌先輩。一つお願いごとしてもいいですか?」
「なに?難しいことはできないよ?」
「大丈夫です。ちょっとしたことなんで。
さっきの噂なんですが、訂正の話を流してほしいんです。
オレに彼女がいるとか保健室に連れ込んだとかの話、オレはまだいいんですけど、相手方の英や陰浦が嫌な思いすると思うんです。だから、解消したくって……協力していただけませんか?」
「やっぱり鏡夜くんは相手の子の心配するんだね。うん、わかった!頑張ってみるね!」
「ありがとうございます!」
「いいよ、いいよ。気にしないで!鏡夜くんのこと疑っちゃったし!……それに、私も鏡夜くんに彼女がいる噂嬉しくないし……」
噂を訂正する話を流してもらうことを約束し、オレは風歌先輩と別れる。
『風歌先輩、前よりも明るくなったわね!』
「そうか?」
『そうだよ!』
オレにはよくわからんかったな。
そんなことよりもだ!これで、噂が収まってくれるといいんだが……。
てか、さっき感じた妙な空気はあの噂のせいか。風歌先輩に訂正の話を流してもらうにしても、その話が広まるまでに時間がかかるだろうし……教室入りづれー!!
オレは重たい足取りで、教室へと向かう。
そんなオレの耳に絶望の一言が入ってきた。
「ねえ、聞いた?保健室に連れ込まれたの陰浦さんなんだって!」
「え!?じゃあ、今日陰浦さんが休んだのって無理矢理やられたショックで!?かわいそ過ぎない?」
「それ本当ならやばいよね~」
え!?今日、陰浦休み!?
艶縞先生は病院で問題なかったって言ってたよな!?本当はヤバかったとか!?
いやいやいや、先生がオレにウソつく意味はないだろ、もし重症なら何らかの制裁がオレにあるだろうし、それなら結局伝わるから隠す意味はない。
となると、彩夜みたいに夏風邪だろうか?
だったら、タイミングとしては良かったかもな。この地獄みたいな噂が飛び交っている状況に揉まれなくて済むし。
まぁ、オレにとっては陰浦が休んだことで噂にさらに尾びれが付いて収集をつけられる自信がなくなってきたのだが……。
教室へ向かうことを日和ったオレは、気が付くと図書室へと足を運んでいた。
図書室は昨日のまま大量の本が受付から崩れ落ちた状態となっている。
オレは精神を落ち着かせるようにそれらの本を受付に戻すと、定位置へと腰掛ける。
「はあ~」
『なに大きなため息ついてんの?逃げ回ってたってしょうがないでしょ!?覚悟決めて教室行きなさいよ!』
「そうだな」
トーカの言う通りだ。
こんな場所でウジウジしていてもなにも変わらない!
オレは覚悟を決め、今度こそ教室へと向かう。
「ふーーー」
オレはまるで今から重大な面接に赴くかのように深呼吸をすると、教室へと入る。
オレが教室入った瞬間、まるで時間が止まったかのように空気が凍りつく。
一拍のち、ほぼ全員がオレと目を合わせないようにひそひそ声で話し始める。
……地獄だ。
この感じ、なんつうか入学当初を思い出すな。
オレは心臓に氷を当てられたような思いで自分の席へと歩く。
この場に詞がいなくって助かった。
もし仮に詞がいて、詞に冷めた態度で距離を取られたらオレの精神はガラスのように砕け散っていただろう。
『なんか、この感じ久しぶりね!』
まったくだ。
オレは苦悶と視線の先に困り、目を覆うように頭を抱える。
なんでこんなことに……。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の55話です!!
今回はやばい噂回!!
学校中に鏡夜のとんでもない噂が!!
そして帰ってきた周囲から避けられるこの感じ!
次回は救世主登場!?今の鏡夜には仲間がいる!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




