阿雲姉妹の行動変化
『陰浦さんとなにもなかったわね?』
「なにが?」
オレたちは図書室で時間を潰した後、体育祭実行委員の手伝いのため会議室へと向かう。
『だって、ちょっとだけとはいえ会話したわけじゃない?少しくらい進展あるんじゃないかと思ったのよ』
「仮に進展がありそうでも深入りはできないぞ」
『なんでよ?』
「陰浦栞は情報がないからな。下手に動いていつの間にか詰みになってましたじゃ困るだろ?」
『ゲームじゃないんだから詰みなんてないでしょ』
「いーや、むしろ現実の方がリスタートできない分、詰みやすいね」
しかし、一言も言葉を交わさないとは……陰浦って本当に人と接するのが苦手なんだな。
ただ、今の状況では陰浦のその性格に救われたな。
リセットできない風歌先輩がいる以上、雷歌先輩の攻略に集中しないと大惨事になりかねないからな。
「鏡夜ー!」
オレが会議室に入った途端、雷歌先輩が寄ってくる。
風歌先輩は遠目で見ているだけだな。
「鏡夜、今日は紅組の方に来てよ!」
「ダメです」
「えー、お願い聞いてくれるって言ったじゃん!」
「限度があるとも言いましたよね?みんなに迷惑が掛かるからダメです」
「もう、言うこと聞いてくれたら~ちょっとくらいサービスしてあげてもいいよ♡どう?」
雷歌先輩は挑発するようにひらひらと体操服を揺らす。
やけにぐいぐいと来るな……これはオレを堕とすのに本気になったかな?
「ほら、紅組の人たち移動しちゃいますよ」
「ほら雷歌、後輩くんからかってないで行くよ!話の最中にごめんね?」
「いえ、助かります」
わがままを言っていた雷歌先輩であったが、紅組の人に連行されて行った。
さて、飲み物でも用意するか。
オレは白組の人たちのために飲み物を用意しに行く。
『なんか雷歌先輩のアピールすごいわね』
「そうな。
ただ、これで阿雲風歌が距離を取り始めた理由もわかったな」
『え!?そうなの!?』
「最初に説明しただろ、トーカ。
阿雲風歌の目的は阿雲雷歌がオレを堕とそうとするように誘導することだ。
そして今、阿雲雷歌は恐らくそのつもりになってる。
だから、阿雲風歌は目標を達成した。結果、オレと絡む必要もなくなったんだろ」
『そっか!そうだったわね!』
「ここからが本番だ。慎重に阿雲雷歌を攻略するぞ」
『風歌先輩からバトンは受け取ったんだし、後は雷歌先輩と仲良くすればいいんじゃないの?』
「その距離感が大切なんだよ。
阿雲雷歌が攻略に満足しないようにある程度距離を取りつつ、それでいて諦めたり嫌になったりしないように離れ過ぎないようにしないといけない」
『そんなことできるの?』
「わからん。わからんがやるしかない」
オレがスクイズボトルに水を入れ終わったところで、風歌先輩が走ってきた。
「鏡夜くん」
「風歌先輩!?どうしました?」
「えっと、飲み物運ぶの手伝うよ!──ふんっ!」
風歌先輩はスクイズボトルバックを持ち上げる。
しかし、重さに負けフラフラと真っ直ぐ歩けていない。
「いや、それはオレが持ちますよ!」
「大丈夫。私の方が先輩だしッ!?」
スクイズボトルバックの肩掛けが肩から外れ、重さに引っ張られた風歌先輩の体が傾く。
警戒していたオレは即座に風歌先輩を支えると、スクイズボトルバックを受け取る。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがと。……ごめんね、迷惑かけちゃって……手伝おうと思ったけど、やっぱり私じゃダメだね」
「そんなことないですよ。風歌先輩の気持ち嬉しかったですし」
「で、でも……」
風歌先輩にしては、引かないな……。
なんでもいいから先輩らしく手伝いたいということなんだろうか?
「人には得手不得手がありますから、オレが苦手なんだなと思うことがあったら、その時は手伝ってくれると嬉しいです。遠慮なく頼らせていただきますから!」
「うん!」
そんなことを言ったせいだろうか?
その後も風歌先輩はやけにオレの手伝いをしようとしていた。
『風歌先輩、普通に、というか結構積極的に絡んで来てない?』
「ん~。甘えん坊をやってる阿雲雷歌と対照的だな……」
翌日も雷歌先輩は元気にオレの教室にやってくる。
オレはかなり友人としての距離を取ろうとしているんだが、それ以上に雷歌先輩の攻め手が激しく、正直周囲から友達として見られてるかは怪しい気がする。
「鏡夜っていつも自分の席にいるわね」
「ここがこの学校での唯一オレの場所と言えるスペースですからね」
「なにそれ?まあ、私としても探さなくていいから楽だけど。鏡夜、ちょっと私の教室に来て」
「なんでですか?」
「お願い!」
「はいはい」
オレは二年二組の雷歌先輩の席まで引っ張って行かれる。
「この子誰ー?」
「私知ってるよ!たしか一年の有名な子よね?」
「名前なんて言うの?」
二年生の教室に入るとオレは先輩たちに囲まれる。
「湾月鏡夜です」
「ああー君かー!なーんだ、後輩たちがめっちゃビビってたからチョー怖い子だと思ってけど、ちょっと目つきが悪いだけでいい子そうじゃん!」
「どうも」
「もしかして、雷歌の彼氏とか!?」
「いえ、ただの後輩です」
「へー、そうなんだ!てっきり雷歌が彼氏を見せつけに来たかと思ったのにー!」
「もういいでしょ!私、鏡夜に用事があんの!散って散って!!」
この学校で怖がられないのは新鮮だな。
さすが雷歌先輩の友達。
「座って!」
「いや、いいですよ。オレ立ってますから」
「ダメ早く座って!」
「はあ~」
わがままな……てか、ちょっと不機嫌?
オレはため息をつきながら、席へと座る。
そこに雷歌先輩も座ろうとする。
「だからなんでオレの膝の上に座ろうとするんすか!?」
「いいじゃん別に!」
よくねーよ!!
「じゃあ、半分空けるんで横はどうですか?」
「やっ!膝が落ち着くんだもん!いいじゃん別に、減るもんじゃあなし!あんまりわがまま言うとこのまま正面から座るよ?」
わがままはそっちだろ!!
「わかりました。はい」
オレが受け入れるように手を広げると、雷歌先輩は正面から座ろうとする。
「こらこら!後ろ向きで座ってください!」
「えー、でも正面の方が顔が近いよ?それにほら、胸も♡」
「だからですよ!後ろ向きじゃないとダメですからね?」
「もう、鏡夜は見た目に似合わず紳士なんだから♡でも、そういうとこ好き……」
雷歌先輩は諦めて後ろ向きのオレの膝の上に腰かける。
いや、妥協度合いで言ったらオレの方が多いんだけどね。
と言うか、上級生の教室でかなり人気の高い美少女とこの状況は普通にしんどい。
胃が痛すぎて、ご褒美にもなってねーよ。教室に帰りたい……。
「来てくれてありがとね、鏡夜」
「いいっすよ。で、なんの用ですか?」
「実はちょこちょこ告白されたりするんだけど、しつこい奴もいたりするからさー。牽制?」
なんだそれ!?
とんでもない案件に巻き込んでんじゃん!!
「戻ります!」
「えー、なんで!?」
「面倒事から逃げるためです」
「ちょっとくらい協力してよ」
「嫌です。ほら、立って!──ッイ!?」
オレの太ももに激痛が走る。
「な──」
「風歌の面倒事は引き受けたでしょ?」
すごい圧だ。
風歌先輩のOKしたものを断るのは地雷だったか……。
「ちょっと意地悪しただけですから、雷歌先輩」
「ほんと?」
「ほんと、ほんと」
「じゃあ、証拠としてギュってして」
え!?この衆目の中でか?
いやしかし、これやらないとその後がヤバいよな……。
オレはできるだけ周囲にバレないように、雷歌先輩のお腹のところに手を回し抱きしめる。
「これでいいですか?」
すると雷歌先輩が立ち上がる。
そして、オレの方を振り向き手を広げる。
「正面からも」
「いや、ここでは恥ずかしいです」
「もうしょうがないなー、じゃあベーゼで許してあげる♡」
キス顔を向けてくる雷歌先輩の頭にオレはチョップする。
「調子になるな」
「えへ、えへへ」
ついやってしまったが、これは許されるのか……。
と言うか、微妙に嬉しそうだ。
雷歌先輩むずいな。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の39話です!!
今回は雷歌先輩と風歌先輩の行動の違いが見られる回!!
しっかり者の雷歌先輩が甘えん坊で、へっぽこな風歌先輩が先輩ムーブ!?
阿雲姉妹に同時に起きた心情の変化は一体!?
次回は風歌先輩の頼れる先輩ムーブがさらに加速!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




