妹の体育祭で大失態
「カメラよーし!変装よーし!」
今日は彩夜の学校の体育祭である。
彩夜はあまりオレに来てほしくないようで、朝オレがルンルンでお弁当を用意していると……
「なにしてるの?」
「今日体育祭だろ?兄ちゃんが手によりをかけた弁当持ってちゃるからな!」
「いらないっつったよね?お金頂戴。適当に買って食べるから」
「え、でも……」
『みんなと買って食べたい年ごろなんじゃないの?』
「そ、そうか……じゃあ、はい一万円」
「こんなにいらないって!千円でいいよ千円で!」
「いや、お昼だけじゃなくて、おやつとかも買うだろ?アイスとか」
「それは……」
と言うことで、結局五千円渡した。
そして、家を出る時も……
「じゃあ、兄ちゃんも──」
「来なくていいから」
「……」
とまぁ、拒絶された。
『彩夜ちゃんの体育祭、ほんとに行くの?やめた方がいいんじゃない?怒られるわよ?』
「ちょっと怒られるくらいで、愛しの妹の成長記録を収めない兄はこの世にいない!母さんにもお願いされてるしな!」
『嫌われても知らないわよ?』
「彩夜がオレのことを嫌うはずがないだろう!」
『彼氏とのイチャイチャを勝手に見られたら、普通に嫌いになると思うけど……』
「拳よーし!」
『やめなさい!まぁ、どんなに言っても聞かないんだろうけど、せめてバレないようにしなさいよ?』
「わかってる、わかってるって!」
『……』
オレの装備は完璧だ。
帽子にマスク、サングラス、そしてこの日のために用意した望遠カメラ!
これであれば、彩夜にオレだとバレることはあるまい!
カシャカシャカシャカシャ
うおおおおおおお!!
最高に輝いてるぞ、彩夜!
やっぱり彩夜が世界一!!
「キミ、お話聞かせてもらっていいかな?」
「はい?」
肩を叩かれ振り返ったオレの前には、複数の教師と警察官が立っている。
あれ?
「写真撮ってましたよね?」
「へ?あっはい……ちょっと待ってください!!妹!妹を撮ってただけですから!!」
「ほう。妹さんですか。ではなぜこんなところでそんな格好で撮影を?」
「妹に来るなと言われてまして、だから怪しい者とかじゃないんです!」
「そうですか、わかりました。では、職員室でお話の続きを伺わせていただいても構いませんよね?」
「……はい」
『だから言ったのに……』
オレは職員室へと連行された。
やばい!やばい!やばい!やばい!
彩夜にバレたら怒られてしまう。
あー大量の冷や汗で体が冷えてきた。
「キミ、名前は?何か身分証明できるものある?」
「学生証でいいですか?」
オレは警察官に学生証を手渡す。
「えーっと、翁草高校一年の湾月鏡夜くんね?」
「……はい」
「妹さんの名前は?」
「湾月彩夜です」
オレが彩夜の名前を口にした瞬間、先生たちがコンタクトしたのが見えた。
この流れはアレだ。
隙間から本当の兄か確認するやつだ!
「っちょちょちょ、待ってください!」
「動かないで!」
「大人しくして!」
「まじで妹呼ぶのは勘弁してください!」
「なんで!?本当に妹さんを撮ってただけなんだよね!?」
「いや、妹に怒られるんで!来るなって言われてたんで!」
しかし、オレの願いは届かず、無情にも先生が職員室から出て行ったのが見えた。
終わった……。
『警察沙汰になったの外まで広まってるみたいよ?』
──ッ!?
『これ、軽蔑されるんじゃない?』
そ、そ、そんなことになったら、精神が、精神が壊れてしまう。
嫌だ!嫌だ!彩夜に嫌われたくない!!
どうかどうかどうか!!
オレが普段恨んでいる神に向かって全力で祈っていると、職員室の扉が開く。
「はい。それ、私の兄で間違いないです」
「彩夜~」
「今度から怪しい動きしないようにね?」
「……はい」
職員室から解放されたオレは一目散に彩夜に謝罪する。
「迷惑かけてごめんな、彩夜。どうしても彩夜の初体育祭を記録したくっ──」
「えー!!これが湾月さんのお兄さんなの!?」
「背高ーい!」
「名前なんて言うんですかー?」
謝罪の言葉が言い終わらないうちに、突如女子中学生に囲まれる。
なに!?彩夜の友達?
だったら、兄として真摯に対応せねば。
「湾月鏡夜って言います。君たちは彩夜の友人なのかな?」
「「そうでーす!」」
「へーそうなんだ」
「お兄さん彼女とかいるんですか?」
「これが残念ながら縁がないのよ」
「えー本当ですかー?」
「じゃあ私、立候補しちゃおっかなー」
『ちょっと!彩夜ちゃん行っちゃうわよ!』
彩夜は友達を相手しているオレを無視して、スタスタと歩いて行ってしまっている。
「ちょちょちょ、ごめんね!また後で!」
「「えー!!」」
オレは急いで彩夜を追いかける。
「ごめんな、彩夜。そのどうしても彩夜の体育祭見たくって……」
「カメラ禁止!それと、クラスメイトにデレデレすんのやめて!」
「いや、デレデレは……」
「だから来てほしくなかったのに……」
ぐっ!反論の余地もない……。
オレは彩夜に校庭の端っこの方に誘導された。
「あんまり目立たないで、それとここから動かないで!いい?」
「トイレとかは……?」
「我慢できないの?」
「いや、今じゃなくてそのうち……」
「今問題ないなら聞かないで。あと……我慢すれば?」
「はい」
オレは静かに彩夜の背中を見送る。
なぜこうなった?
今日は兄としてかわいい妹に目一杯のエールを送るつもりだったのに?
『帰れ!と言われなかっただけ温情ね!』
たしかに!
あれだけのことをやらかしたんだ。帰れ!と言われても文句は言えない。
にもかかわらず、観戦は許してくれるとは、やはり彩夜は優しいな~。
オレはそんな彩夜の言いつけを守り、静かに応援することにした。
どうやら、彩夜は出番は前半の方に集中させていたらしい。
体育祭が後半になると彩夜はオレのところに戻ってきてくれた。
「目立ってない?」
「おう。静かにしてたぞ」
「どうもー」
「へっ!?楓!?なんでいるの!?」
「だって彩夜がお兄ちゃん紹介してくんねんだもん!だからコッソリついてきちった!」
彩夜の友達だろうか?
かなりフランクな感じだな。
それと、外見は圧倒的にオレよりも女性受けしそうだ。
「どうも。彩夜の兄の湾月鏡夜です。君は?」
「東江楓って言います。彩夜の彼氏です」
こいつ……。
「彼女の間違いだろ?」
オレがそう言った途端、東江は驚いた表情で一瞬固まった。
「え?なんで?」
「なんでって?」
「だってあたし女だって言ってないだろ?」
「だから?」
「あたし女だって思われたことないし……」
「あー、そういうこと。悪いがオレには女の子にしか見えない」
だって、初恋マーカーついてるし。
それにしてもこいつ、性格悪くないか?
初恋マーカーが見えてるから騙されなかったが、そうじゃなかったら卒倒もんだぞ。
彩夜の友達としては……。
「なんだよ、彩夜!彩夜が会わせたくないって言うから変な奴なのかと思ってたのに、見た目とっつきにくいけどめっちゃいい人じゃん!!
まぁでも、彩夜も最初はとっつきにくいかったし、やっぱ兄弟って似るんだな!!」
ほう、いい友達じゃないか!!
「東江さんだっけ?」
「楓でいいよ!」
「じゃあ楓さん」
「さんいらないって!鏡夜の方が年上だろ?」
いきなり呼び捨て……しかも、そっちは年下だけどため口なのだが……。
全然いいんだけど。
「楓は彩夜と仲良いのか?」
「当たり前じゃん!中学からだけど親友だよ!」
「まぁ、一番仲いいかな」
「そっかそっか!」
いや~、彩夜から友達の話とか聞いたことないからちょっとだけ心配してたんだが、よかったよかった!
「これからも彩夜と仲良くしてやってくれ!」
「そりゃこっちのセリフだ!今後もよろしくな!彩夜!」
「よろしく……」
最初はどうなることかと思ったけど、彩夜の友達にも会えていい日だったな!
彼氏らしき奴もいなかったし!!
さて、帰って彩夜の食いたいもんでも作ってやるか!
兄としての信頼度を取り戻さねば!!
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の33話です!!
今回は彩夜の体育祭回!!
鏡夜は不審者として職員室へ連行!
そして、彩夜の親友であり東江楓が登場!!
次回は翁草高校に舞台が戻ります!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




