お昼のお誘い
何事も準備と言うのは大切である。
人の素とは不意の出来事が起こった瞬間に行動として現れる。逆に言えば、全ての可能性を想定していれば素を晒すことなく完璧な存在を演じることができるというわけだ。
故に、阿雲雷歌の攻略方法を学んだオレは、放課後の委員会活動の際にどんな会話や行動をとるか教室であらゆるパターンをシュミレーションする。
「鏡夜ー!」
「鏡夜くーん!」
阿雲姉妹の登場に教室内がざわめく。
無理もない。
校内でも非常に人気の高い阿雲姉妹が、一年生の教室に、しかもオレなんかに会いに来たのだ。
いきなりの先制パンチ。
やはり積極性では、周囲からの評判も信頼も高い阿雲姉妹に軍配が上がるか……。
それに、オレには今後の攻略と言う枷もあるからな、しょうがない。
「教室にまで来るなんて、なんか緊急の用ですか?」
「あれ?あんまり驚かないのね?」
「鏡夜くんって今日の昼休み空いてるかな?」
「昼休み?特に予定はないですけど」
「あの、一緒にお昼食べない?」
「私からの誘い、受けるわよね?」
「そらもちろん。ありがたく」
「よかった……」
「じゃあ!昼に食堂でいいわね!?」
「了解です」
「それじゃ、お昼ね?」
昼食の予約を取り付けると、阿雲姉妹は自分の教室へと戻っていった。
阿雲姉妹が退室しても、教室内はいまだに騒然としている。
「なに?あんた──」
「なあなあ、湾月くん!阿雲パイセンたちとどういう関係なん?」
実にいい質問だ!
村雨の発言に割り込んできた男は、圷天翔。
オレのクラスの一軍で、櫟井の取り巻きの一人だ。
容姿も発言も行動もチャラチャラしたお調子者キャラとしてクラスで定着しており、先生たちからも頻繁にその態度を注意されたりしているが、無遅刻無欠席かつ割と誰にでも優しい奴だ。
こんな感じで、オレの名前も把握してくれている。
まぁ、話すのはこれが初めてなんだけど……。
「どういう関係って、友達かな?」
「友達!?ほんとに!?」
「ああ」
ウソだけど。
それよりも、圷は声量が大きくて助かる。
クラスに会話の内容が響き渡る分、オレと阿雲姉妹の関係性を違和感なく伝えやすい。おかげで後からコソコソと詮索される可能性も低くなるってもんだ。
「俺っちさ、俺っちさ、実はちょっと雷歌パイセン気になってんのよ!
もしよかったら俺っちのこと紹介してくんねーかな?この通り!!」
『どうすんの!?』
うーん……アリだな。
雷歌先輩の略奪欲を煽るには風歌先輩と親密にならなければならない。
だが、同時に相手する場合、どうしても二人の性格上雷歌先輩の方が親しくなりやすい要素を持っている。その状況で風歌先輩を優先するのは不自然になりかねない。
圷が雷歌先輩にアピールしてくれれば、雷歌先輩が圷の相手をしている間風歌先輩が空く。それなら、オレが風歌先輩の方とより親しくなっても違和感はないだろう。
それに可能性は低そうだが、もし仮に雷歌先輩が圷に惹かれたならそれはそれでいい。
雷歌先輩の初恋相手を断定できる上に、サポートにも入りやすい。
「いいよ。今日の昼休みに一緒に食べることになってるから、その時でいいか?」
「大丈夫!大丈夫!
あざー!湾月くんって怖い人かと思ってたけど、いい奴じゃーん!これからもよろしくな!」
「おう」
うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
ここにきて、詞、村雨に続いて新たな友達ができたかもしれない!!
オレのモノクロの高校生活も結構色づいてきたんじゃないか!?
──昼休み。
オレは約束通り、圷を連れて阿雲姉妹の待つ食堂へと向かう。
考えてみたら、オレはいつも教室で弁当だから食堂で食事をするのは初めてだな。
若干、緊張するな。
お昼の食堂は想像以上に混み合っていた。
学年問わず大量の生徒が券売機で食券を買い、カウンターに並んでいる。
『すごい人の数ね!?』
「鏡夜ー!鏡夜ー!こっちこっちー!」
雷歌先輩が手を振り、オレを呼ぶ。
風歌先輩も小さく手を振っている。
オレは刺さるような周囲の視線に耐えながら、阿雲姉妹のもとへと向かう。
「あれ?鏡夜、弁当なの?」
「はい」
「もしかして彼女に作ってもらってるとか~?」
「いえ。自分で作ったやつですよ」
「え!?自分で作ってるの!?お母さんとかじゃなくて!?」
「意外……」
軽いアイドリングトークしたところで、雷歌先輩がオレの後ろで緊張している奴のことを聞いてくる。
「それで?その人は?」
「同じクラスの圷って奴です。今日の昼、ご一緒したいそうです」
「あ、あの、急でマジ厚かましいとは思うんすが俺、阿雲先輩たちと話したくて……ぜひご一緒させてください!!お願いします!!」
おいおい、圷が頭下げて顔が見えないからって、そんな露骨に困った顔してあげないでくださいよ。
特に風歌先輩、顔が険しくなってますよ。
圷はチャラい奴ですけど、普通の男子ですからね?
男子でも女子に好意を晒すのって結構勇気いるんすよ?
『二人ともすごい嫌そうよ?どうすんの?』
しょうがない。友達として手を貸してやるか!
「食堂ってことだったので込み入った話ではないと思ったんですが、違ってました?」
「え!?ああ、いや……いいよいいよ!一緒に食べよ!」
「あざっす!」
「よかったな。じゃあ、飯買って来いよ!」
「おう!」
よし。なんとかオレの武器をねじ込むことに成功したな。
さて、後はどう自然な形で圷に雷歌先輩を足止めしてもらうかな……。
「すんません。急に」
「いいっていいって!気にしないで!」
「……」
雷歌先輩は割とカラッとしてんな。
対して、風歌先輩は結構深刻そうだ。まじの人見知りなんだな……ちょっと悪いことしたかな。
「そう言えば、なんでお二人席開けて座ってんすか?」
「ああ!そうだった、そうだった!鏡夜、ここ来なさい!」
「へ!?」
雷歌先輩はそう言いながら、自身と風歌先輩の間の席をポンポンと叩く。
食堂で四人横並びは変だろ。
それにその座り方だと、圷が入りづらそうだし。
「いや、向かいに座りますよ。向かい合ってる方が会話もしやすいですし」
オレは阿雲姉妹の提案を断って風歌先輩の前に座る。
オレが風歌先輩の前に座った瞬間、二人とも驚いた表情をした。
やはり、雷歌先輩は自分が風歌先輩に勝ってると思ってそうだし、風歌先輩もオレが雷歌先輩に惹かれると思ってそうだな。
「ちょっと!なんで風歌の方に座るのよ!」
思ったよりもストレートな聞き方だな。
「風歌先輩はあまり初対面が得意じゃないと聞いたので、圷が前に座るのはしんどいかと。
雷歌先輩は苦手じゃないですよね?」
「それは……そうだけど」
「……ごめんね。雷歌ちゃん」
「お待たせっすー!」
圷が雷歌先輩の前に座り、昼食が始まる。
圷はさすがは陽キャといった感じで、阿雲姉妹に対してガンガン話を振っていく。
そして、ここで二人の性格が仇となる。
風歌先輩は完全に委縮してしまって会話にならない。
そのため、圷の会話相手は必然的に同じく陽キャ属性の雷歌先輩へと絞られる。
オレ?オレは基本聞き専だから!
狙い通り雷歌先輩と圷の会話から弾き出された風歌先輩とオレは、こっちはこっちで会話を始める。
「風歌先輩と雷歌先輩って仲いいんですか?」
「いい方かな?どうして?」
「実は仲が良くないんじゃないかって耳にしたもんで?」
オレはサラッと核心に踏み込みに行く。
「雷歌ちゃんはどうかわかんないけど、私にとっては雷歌ちゃんは大切だよ」
「そうですか……」
そう答える風歌先輩の瞳にウソはない、オレはそう感じた。
トーカの情報が間違っていた?
いや、瀬流津の時の情報は完璧だった。そもそも風歌先輩が雷歌先輩を嫌っているというのは、ただの憶測であり確定情報ではなかったな。
事実と憶測は分けて考えないと。
「風歌先輩、口元にお弁当が付いてますよ」
オレはハンカチを渡す。
風歌先輩は恥ずかしそうに赤面しながら口元を拭く。
「ありがと……」
「どういたしまして」
その後はゆったりとした会話で、お昼の時間が過ぎていった。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の30話です!!
今回は阿雲姉妹との昼食回!!
圷と言う新メンバーが登場!!
別に重要なキャラじゃないから覚えなくても大丈夫!
次回は体育祭の紅白分け!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




