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初恋強盗  作者: 御神大河
25/203

初攻略

 ──昼休み。

 オレは四限目が終わるとすぐ、瀬流津と勝負するため更衣室で体操着に着替え、体育館へと向かう。


『瀬流津さんもう来てるみたいね』

「ああ」


 体育館の中からはすでにドリブルをつく音が響いている。

 予想通り来てくれた。

 よし!ここからが勝負だな!

 オレは一つ気合いを入れると体育館へ入る。


「来たね、湾月くん」

「準備万端って感じだな」


 体育館で待っていた瀬流津は、全身が汗でしっとりとしておりアップ完了と言った感じだ。

 よかった。本気も本気だな。


「グダグダやってても他の生徒が来ちゃうからな、手短にやろう。

 1on1、オレがオフェンス、瀬流津がディフェンスの一発勝負。

 シュートを決めたらオレの勝ち、それ以外なら瀬流津の勝ちだ。これでいいか?」

「いいよ」

「それと、もし瀬流津が勝ったら、なんでも一つ言うことを聞いてやる!

 オレのできることならガチでなんでもいいぞ。二度と顔を見せるなでも、それこそ死ねでも」

「!?なに?心理戦のつもり?じゃあもし、湾月くんが勝ったら……やっぱいいや、負ける気ないし!」


 勝負内容のすり合わせが終わり、オレは靴紐を固く結ぶ。


『どうすんの!?瀬流津さんめちゃ本気じゃない!?』

「それでいいんだよ。そうじゃないと困る」

『え!?そうなの?なんだ、鏡夜最初から負けるつもりだったのね』

「そんなわけないだろ。オレが勝った時、でも本気じゃなかったからな~ってなったら意味ないってだけだ。それよりトーカ、他の生徒が来ないか見張りを頼む。邪魔されたくない」

『わかったわ!』


 正直この勝負で最も重要なのは瀬流津が本気になってることだ。

 オレの勝率うんぬんは二の次でいい。

 本気を出してもらうために、ご褒美を付けたんだが……いらなかったかな?


「私の方はいつでもいいよ。そっちは?」

「ああ。ばっちりだ」


 お互いが同時に気合いを入れたことで、体育館には一瞬の静寂が訪れる。

 オレは瀬流津と向き合うと、一度瀬流津にボールを投げる。

 これが準備完了の合図、そして瀬流津がボールをオレに投げ返したらスタートだ。

 瀬流津はボールを手の中で軽く回し確認すると、ボールを投げ返してくる。


 ダムダムダム


 オレはドリブルしながら何度か瀬流津を抜き去ろうと仕掛ける。

 しかし、瀬流津の反応が早く、全く引き離せない。

 さすがだな!やっぱそう簡単には勝たせてくれそうにはないか。

 だったら!

 オレは一度下がってスペースを作ると、スッと息を吸ってクロスオーバーで躱しにゆく。

 まじ!?

 完璧なタイミングで完璧に決まったと思ったクロスオーバーであったが、瀬流津はキッチリとついてきた。

 深く踏み込んだオレの体と、完璧に読み切った瀬流津の体がバンプする。

 その瞬間、オレは後ろの足を軸にターンする。


<ターンアラウンドジャンパー>


 ここ一週間、ずっとひっそりと練習してきたんだぜ!

 さすがに練習量が足りなくて、宣言通りのターンアラウンドフェイダウェイとはいかねーけど、それでもこいつなら!

 オレは高く跳ぶとゴールに向かってシュートを構える。

 目の前には遮るものは何もない────と思っていた。

 オレから放たれるボールに向かって、瀬流津の手が高速で伸びる。


 トン、トン、トン


 ボールは地面を転がる。


「ふー。……オレの負けか……」

「……」

「……」

「……っし!!」


 勝負の余韻の後、瀬流津は嬉しそうに渾身のガッツポーズをする。

 その光景を見てオレは安堵する。


「よかった……」


 オレの本音がつい口から漏れる。


「よかったって?」

「まだ、瀬流津がバスケを好きそうでさ。

 オレ、この前バスケ部を引っ掻き回しちまったろ?

 その後から瀬流津も秘密の練習に来なくなっちまったし、オレのせいでバスケが嫌いになっちまったんじゃないかと思ってたんだ?」

「なんで?私がバスケ、好きだろうと嫌いだろうと湾月くんには関係ないでしょ?」

「まぁそうなんだけど……オレは楽しそうにバスケをしてる瀬流津が好きだったからさ。オレのせいで嫌になったらやだな~って」

「そ、そう」


 瀬流津はバスケを嫌いになってなかったかー。

 よかったー。

 でも、それならなんでここ最近来なかったんだろうか?

 もしかして、バスケじゃなくてオレが嫌いってパターン!?

 だとすると聞きづれ~。


「練習…来れなくてごめんね」

「別にいいさ。オレが勝手に頼んだんだし。それに、体育のバスケは終わっちゃたからな」

「……ねぇ、相談してもいいかな?」


 !?

 ルートにのった!?


「いいぞ」

「ありがと。

 私ね、ずっとバスケ選手になりたいと思ってたんだ。でも、私が上手いことを望まない人もいて、頑張るのが辛くなって……。

 そんな時、湾月くんに出会って、教えるのも楽しいな~って思うようになって、先生とかもいいかな~って。

 それで最近、そういう勉強してて練習これなかったんだけど…じゃなくて!

 その~選手と先生どっちがいいかな?

 なんか、先生って夢は選手の夢を諦める言い訳のような気がしちゃって、よくわからなくなっちゃって……」


 将来の夢か……。

 想像してた内容とかなり違うけど、こっちの方がいいかな。


「……どっちも頑張ってみるでいいんじゃないか?

 まだ高校生なんだし、夢は多くてもいいだろ?いくつもあったらダメってもんじゃないしな!

 オレなんてまだ将来のビジョンすらないんだぜ?それに比べたら目標があるってだけで立派だろ?

 それと、努力を否定する奴なんてぶっ倒しゃいいんだよ!そんで、「ざまーみろ!」って言ってやれ!」


 瀬流津と話しているとトーカが慌てて飛んでくる。


『誰か来るわよ!』


 体育館の外に意識を向けると、確かに声が近づいてくる。


「誰か来たみたいだ」

「湾月くんこっち!」


 オレは瀬流津に引っ張られ体育倉庫で息を潜める。

 物が多くて結構狭いな。

 それと微妙に暑い。


「あれ?誰もいなーい。声してなかった?」

「ほらー。聞き間違いじゃん!てか、ボール出しっぱなしだし!」


 そう言うと、外の二人組が倉庫へボール片づけに来る。

 こっち来る?って瀬流津さん!?

 瀬流津がバレないようにオレに被さるように体を寄せてくる。

 近い近い!てか、体勢がきつい!


「ボール片してあげるとか、うちらマジ偉いよねー」


 ゆっくりと話し声が遠ざかる。

 よし。あの二人組どっか行ったな。

 オレが気を抜いたのと同じように、瀬流津も気を抜いたのか、瀬流津が倒れてくる。


「おわっ!」


 オレと瀬流津は足を滑らせて、跳び箱と山積みのマットの間に挟まる。

 この密着感はやばい!

 瀬流津の息づかいを肌を通して感じる。

 柔らかい。

 汗で少しぬるぬるして、肌が吸い付く。

 なんかいいの匂いがする。

 頭がクラクラして思考力が……。

 いやいやいや、しっかりしろ湾月鏡夜!!


「……あのさ。私が勝ったらなんでも言うこと聞いてくれるって言ってたよね?」

「おう……」


 この状態でしゃべるの!?

 冷静に!冷静に!


「嫌だったらちゃんと断ってね!わ、私!湾月くんのこと好きで!だからその──!」

「へ!?まじか……」

「え?なに?」

「ああ、すまん。話し切っちゃって。それオレが勝って言おうと思ってたから……」

「そ、そうなの?……そっか……嬉しい。練習行かなかったし、冷たい態度も取っちゃったから…絶対嫌われたって…思ってて……やばい、なんか泣きそう……」

「……!?」


 突然、瀬流津の頭の上の初恋マーカーが光り出すと、砂のようになり天へと昇ってゆく。

 これって瀬流津の初恋が成就したってことか?

 なら後は、リセットのためのキスか……。


「なぁ、麗華って呼んでいいか?」

「え!?うん!じゃあ、私も鏡夜くんって呼ぶね?」

「ああ。麗華」

「鏡夜くん……もう一回呼んで?」

「麗華」

「鏡夜くん」


 薄暗い体育倉庫の中、オレと麗華の唇が重なる。

 唇が離れた時、麗華の目には覚悟が宿っていた。


「私、頑張るね!」

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の25話です!!

今回はついに、初攻略成功回!!

実は鏡夜としては想定外of想定外の決着!!

本当はここから立て直しを図るつもりがまさかのゴール!!

次回は瀬流津麗華の覚悟!!お楽しみに!


忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。

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