手作りチョコ
冬休みが終わり、三学期が始まってから早一ヵ月。
学校が始まってすぐは、色増先生からの桜ノ宮が家庭の事情により学校へ来れなくなったという報告で持ちきりとなり、一年三組は大いにざわついた。当然、仲の良かったオレや村雨は他クラスの生徒たちからも質問攻めにあうこととなった。
まぁ、言ってはいけないことでもないし、予想外の内容でもないため、説明すると皆すぐに納得し詮索をやめていった。
そのため想像以上に桜ノ宮の件はすぐに落ち着き、オレはなんの変哲もない平和で穏やかな生活を送っていた。
波風の立たない人生って最高だな。願わくば、人生このままで。
『じゃないでしょ!!今年に入ってからまったくミッション進んでないじゃない!!何もしないとアタシも鏡夜も地獄行きなんだよ!!わかってる!?』
「わーてるよ」
『なら、なんで何もしないの!?』
「ターゲットとなり得る人物がいないから。高校生活が始まってもうじき一年。ほとんどの人が何かしら人間関係を構築し、気になる異性の一人や二人できるのが現状だ。んで、本来そうなりづらい奴は攻略済み。この学校でいまだに頭の上に初恋マーカー浮かべてる人間なんて日菜くらいだよ。その日菜は好意を持ってる相手を教えてくれねーし……」
『学校外にターゲットと探しに行くとかは?東江さんみたいに!』
「絶対ヤダ!!」
『なんで?』
「精神的にも肉体的にもきついから。学校外の奴とか接触タイミングが放課後しかないんだぞ?しかも、向こうの予定もわかんないし。間違いなく過去一労力が必要になるだろ」
『じゃあ、どうすんのよ?』
「うーん。新入生待ちかなー』
『新入生って……!?まぁ、ミッションをこなすのは鏡夜だし、アタシは鏡夜に従うけど……。でも、せめてその間、英さんのことは努力してよ!!』
「へいへい」
日菜か……。
まだ初恋マーカーが付いてるってことは、フラれたわけじゃないってことだよな?
性格はともかく日菜の容姿であれば告白すれば大概の男子が頷くはずなんだから、意中の相手に思い切って告白すればいいのに。意外と日菜って好きな人相手には奥手になるんだな……。
オレに対しても、学校の友達にも強気なんだから、好きな人にも普段通り押せばいいのに。
オレが学校から帰ってくると、自宅の玄関に彩夜の通う中学校の指定靴が複数並べられており、家の中から甘い香りが漂ってくる。
『彩夜ちゃんのお友達かしら?』
「たぶんな」
オレは賑やかな声と甘い香りが漂ってくるリビングへと向かう。
オレは胸を撫で下ろす。
キッチンでは彩夜の友達であろう女の子たちが楽しそうになにやら作っている。野郎の姿はない。
彩夜の頭にも初恋マーカーが浮いているわけだし、彼氏はいないと思われるが、もし万が一、奥が一にも彼氏候補らしき奴がいたらどうしようかと思ったぜ。
ふーーー。よかったー。
「あっ!?お兄さんだー!!」
「本当だー!!」
「来て来て!!」
オレは彩夜の友達にキッチンへと手招きされる。
オレはソファーの横に鞄を置くと、キッチンへと向かう。
「お帰り、アニキ」
「ただいま。で、なにやってるの?」
「そろそろバレンタインデーだから練習してるんです!!」
「やっぱ手作りのがポイント高いしね!」
「「ねー!!」」
オレはあっと言う間に彩夜の友達に囲まれる。
そう言えば、バレンタインの時期か……。
「なるほど」
「そう言えば、お兄さんって料理めっちゃ上手ですよね?」
「いや、めっちゃってほどではないけど」
「いやいや、クリスマスの時超美味しかったですもん!!あれ、お店で出せますよ!!」
「「わかるー!!」」
「そう?ありがと」
「それでなんですけど!よかったらうちらにいい感じチョコ料理教えてもらえません?」
「え!?」
「「「お願いしまーす!!」」」
「わかった」
「「「やったーーー!!」」」
彩夜の友達の頼みを無下にするわけにもいかず、オレは了承する。
「で、何を作る予定なんだ?」
「今んとこは、チョコ溶かして形変えてるだけだよねー」
「うん」
「で、よくわかんないから、とりあえずレシピ見て作ってみようかって」
いや、そんなことしたら健康に悪い上にめちゃくちゃ太るだろ。
大丈夫かこの子ら。
「ただその前にお兄さんに聞きたいことあるんですけど」
「なに?」
「ぶっちゃけ男性的には手作りと市販のやつってどっちのが嬉しいですか?」
どっちが嬉しいかって言われてもな……。
オレ、小学生の頃に日菜からもらったのと、中学の時に三年間机の中に匿名のチョコが入ってたくらいしかバレンタインの思い出ないんだけど……。
匿名のやつは怪しすぎて結局一度も口付けてないし。
「人によるかな。手作りの方が嬉しいって人もいれば、市販じゃないと食べれないって人もいるだろうし、好きな人の手作りは大丈夫だけど、そうじゃない人の手作りはちょっとって人もいるからな。ただ渡されて嬉しくない人はいないと思うぞ。人から好意を向けられるって基本的には嬉しいことだしな」
「そっか……。ならやっぱ手作りの方がいいのかな?手間かけてないと本気じゃないとか思われちゃいそうだし」
「値段高い方がーとかね」
「うーん……そういう人は君たちに相応しくないんじゃないかな?」
「「「え?」」」
「要は時間とか値段とか数値化して相手を計るってことだろ?好きってさ、数字にできないものだと思うんだよな。この人とだったらなんでもいい!みたいな。だから、数字を気にしだした時点でその人が好きではないんじゃないかな?実際、オレは彩夜に手間とか値段とか求めたことな──いッ!?」
彩夜のことを出した瞬間、彩夜に足を軽く蹴られる。
「とにかく!手間とか値段とかは考えなくていいと思うぞ!そんなしょうもないことを気にしてくる奴は、相手にする価値ないしな」
「確かにね」
「じゃあ、どうする?」
オレの話を聞き、彩夜たちは作戦会議に入る。
まぁ、気にしなくていいと言っても、予算やら時間的猶予やらスキルの問題とかは現実問題あるわけだしな。
「お兄さん!」
「ん?」
「お兄さん的にはバレンタインデーどんなのもらったら嬉しいですか?」
「うーん。男代表としては、もらえるならなんでも嬉しいけどな……」
「その聞き方じゃダメよ。アニキならバレンタインなに作る?」
「なるほど。バレンタインチョコだろ?生チョコ、ボンボンショコラ、ガトーショコラ、ケーキ、クッキー、クランチ、プリン、後はマフィンとか?」
彩夜は友人の方を見る。
友人たちは困ったように首を傾げる。
彩夜はわかるだろっと言わんばかりにオレを睨む。
「アニキ」
「えーっと、学校に持ってくんだよな?」
「「はい。一応」」
「となると、ケーキは崩れやすいから無しかな?数は?」
「あー、どうしよっか!?」
「考えてなかった」
「じゃあ例えば、友チョコとか義理チョコみたいな数用意しないといけないものは、比較的サイズの小さい生チョコ、ボンボン、クッキー、クランチとかにして、本命にはガトーショコラとかプリンとかマフィンにするのは?」
「それでいこっか!!」
「「そうだね!!」」
「じゃあ、それで。アニキ、しばらく早めに帰って来てね」
「わかった。じゃあ、それぞれの料理レシピとお菓子のメリットデメリットを書いたメモを渡すから、みんなで相談して、何を作るかと必要な材料を用意しておいてね」
「「「はーい!!」」」
こうしてオレのバレンタイン料理教室開講が決定された。
オレは早速、レシピとメリットデメリットのメモを用意して、彩夜に渡す。
「ありがと」
「ところで、彩夜」
「なに?」
「だ……誰かに渡す予定とか……?」
「内緒」
そう言うと、彩夜はバタンと自室のドアを閉める。
内緒……内緒……内緒……。まさか、彩夜に……?
オレはトイレに向かうと耐えきれず嘔吐した。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の189話です!!
今回からバレンタイン回!!
ミッションはまったく進まず!
バレンタインに乙女たちの気合いMax!!
次回はバレンタイン相談回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




