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初恋強盗  作者: 御神大河
182/203

水族館デート

 オレは駅前で桜ノ宮を待つ。

 町ゆく人たちの格好に大きな変化はないが、モミの樹が門松に代わり、イルミネーションはしめ飾りに代わり、辺りはすっかり正月ムードである。

 にしても、トーカの奴かなり距離を取ってるな……。

 いつもはオレから1メートル程度、近い時には数センチの距離を飛んでいるトーカが今は上空数十メートルを浮遊している。

 まぁ、しょうがないか。トーカは恋のキューピッドだから今のオレと桜ノ宮状態は対象外だもんな……。同行してもらえてるだけありがたいと思おう。

 実際、桜ノ宮とのデートプランについて、トーカにアドバイスを求めたりもしたが、「関係ない」と冷たくあしらわれてしまった。

 結局、デートプランは桜ノ宮が決めたいということなので、オレが悩む必要はなかったのだが。

 オレはチラリとスマホの画面を確認する。

 待ち合わせ時刻だ。

 と、オレの前に一台の車が停まり、中から桜ノ宮が現れた。

 運転しているのは、桜ノ宮が言っていた新しいメイドさんだろうか?

 桜ノ宮が車に合図を出すと、運転手の人は桜ノ宮の一礼しそのまま行ってしまった。


「待たせてしまったかしら?」

「時間通りだよ」

「わたしはね。あなたはどれくらい前から来ていたの?」

「10分くらいじゃないか?」

「そう。少し待っていてもらえる?」


 そう言うと、桜ノ宮は近くの自販機でホットミルクティーを二つ買い、一つをオレに渡してくる。


「冷えたでしょ?」

「ありがと」


 オレたちは電車に乗り水族館へと向かう。

 同じ車両にトーカの姿はなく、オレと桜ノ宮の二人が電車に揺れる。

 トーカの奴、ついて来れてんのか?


「どうかしたの?」

「いや。質問いいか?」

「いいわよ?」

「なんで待ち合わせ場所を、水族館から少し離れた駅にしたんだ?」

「現地集合だと味気ないでしょ。それに混んでいたら合流するの大変そうだし」

「なるほどな……」


 この時期の水族館がそんなに混むことはないと思うけど……。


「もう一個いいか?」

「なに?」

「なんで水族館?」

「前にあなたがデートするなら水族館って言っていたでしょ?だから。好みじゃなかったかしら?」

「そういうわけじゃないけど……。それでいいのか?」

「いいのかと言うと?」

「いや、その……思いついた場所をパッと言っただけだろうし、水族館デートって極一般的というか、庶民的というか……」

「いいのよ。それがいいの。普通の中にある特別、そういうのを思い出にしたいの」

「ならいいんだけど」



 水族館に来たのは小学生ぶりだ。

 入ってすぐフグやタツノオトシゴ、チンアナゴなど比較的小さめの海洋生物たちが出迎えてくれた。

 その先へ進むと通路が暗くなっており、水槽の照明により星空に見まがうほどの美しく光るさまざまな大量のクラゲたちや、まるでエイリアンのように奇妙な形をした深海生物などを見ることができる。

 桜ノ宮もなんやかんやここが一番楽しんでいたかもしれない。

 深海ゾーンを抜けると、海洋生物たちが上空を行き交い海中の中を歩いていると錯覚するようなトンネル型の水槽があり、トンネルの先には魚群やマンタ、サメなど泳いでいる超巨大な水槽が目に入る。

 記憶より水族館ってすごいな。

 超巨大水槽の前には複数のベンチが並んでおり、ここで一時休憩ができるようになっている。


「少し休むか」

「そうね」


 オレと桜ノ宮はベンチに座り、超巨大水槽を眺める。


「そういえば、今日運転してた人って……」

「新しいわたし専属の使用人で、烏丸(からすま)さんよ」

「専属?」

「ええ。どうやらお父様、あなたがわたしの執事をやってたのが相当嫌だったみたい」

「そりゃな。愛娘の隣にわけのわからん男がいるとか親としては絶対嫌だろ。オレが親なら発狂するわ」

「やっぱりそういうものなのね。実はあの後、お父様結構取り乱してね、あなたのことを根掘り葉掘り聞かれたわ。お母様は笑っていたけれど。まさかあなたをきっかけに、お父様お母様と人生で一番お話することになるとは思わなかったわ」

「それは……よかったのか?」

「もちろん。あなたのお陰よ」

「オレ以外のことも話せたのか?」

「ええ。学校のこととか、友人のこととか、これからのこととかね」

「そうか」


 オレと桜ノ宮が話している間、トーカはずっと巨大水槽に張り付いて鑑賞していた。

 トーカって魚とかが泳いでるの見るの好きなんだな。


「そろそろ移動しない?」

「そうだな」


 オレと桜ノ宮がベンチから立ち上がったところで、館内アナウンスが流れる。

 アナウンスによると、これから屋外施設にてイルカショーが開催されるらしい。


「見に行きましょ!」


 オレは桜ノ宮に腕を引かれ屋外ゾーンへと向かう。

 イルカショーの会場にはさっきまで巨大水槽に張り付いていたトーカがすでに来ていた。

 トーカも興味あったのか。


「最前列に行きましょ!!」

「え!?」

「なに?嫌なの?」

「いや、そうじゃないけど。レインコート借りないか?」

「レインコート?」

「ショーで水がかかるんだと」

「へー、そうなのね!」


 あー、これテンション上がっててわかってないな。

 真冬に屋外で水浸しはハードル高いと思うんだが……。まぁ、楽しみにしてるみたいだし、何も言うまい。

 オレたちはレインコートをレンタルすると、最前列へ座る。


「意外に最前列の方が空いてるのね」

「確かに後ろの方が人が多いな」


 冬だからだけどね!!

 最前列に座っているのは、子ども連れや海外の人……後は、辛いことがあったのだろうか?哀愁を漂わせ項垂れるように一人ポツンと座っている人が二名だ。

 トーカは……なぜかオレたちから離れた最前列の席に座っている。こういう時は浮かないんだな。



 イルカショーの間、桜ノ宮は終始テンションが高かった。

 イルカたちが芸を披露するたびにパチパチと拍手し、冬にもかかわらずかかる水しぶきも楽しんでいた。



 イルカショーが終わった後は屋外ゾーンを回る。

 屋外ゾーンではペンギンやアシカ、ラッコなどを見ることができた。

 水族館に来といて言うことではないが、オレとしては魚やカニとかより、こういった哺乳類や鳥類の方がテンション上がるな……かわいいし。

 ただ、やはり圧倒的に時期が悪い。

 屋外は気温が低すぎて、オレは不快感を与えないように慎重に誘導しながら屋内にできるだけ早めに退避した。

 屋内へと戻ったオレたちは日本の清流やアマゾン川、マングローブなどにいる淡水魚ゾーンをゆっくりと回る。


「あなたがデート先に水族館を選ぶのわかる気がするわ」

「そう?」

「ええ。水族館って見るものが多くて何度来ても楽しめそうだもの」

「そうな」


 まぁ、他にも雨天に左右されないとか、意外と会話量少なくて済むとか、長時間楽しめるとか、デートにおけるメリットがいろいろあるんだけどね。


「──って、その言い方だと、オレがデートで何回も水族館使ってるみたいじゃん!」

「あら、違うの?」

「水族館でデートしたの真姫が初めてだよ」

「水族館で、ね。別の場所では他の子とデートしたってことね?」

「うっ。それは……」

「ふふっ。そんなに縮こまらなくて大丈夫よ。別に気にしないわ。お母様曰く、いろんな女性と付き合えるのはいい男の証拠だそうだから──あっ!今の話で、調べようと思っていたことを思い出したわ!!」

「なに?」

「パイプカットって言葉」

「なっ、なぜそれを調べようと……?」

「お母様が、いろんな女性と付き合えるのはいい男。だけど、同時並行するのはパイプカットすべき男だって」

「な、なるほど……」


 さすがは桜ノ宮の母親。普通、娘にそんなこと言わないだろ。

 まぁ、内容自体は同意できるけど……って、これオレのやってることもパイプカット対象か……?



 お土産にお揃いのストラップを買い、オレたちは水族館を出た。

 やはり冬だな。

 空は暗くなり始めており、すでに街灯が灯っている。

 桜ノ宮がオレの袖を引く。


「予定変更したいのだけど……いい?」

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の182話です!!

今回は水族館でデート回!!

遊園地に続いての定番スポット!

桜ノ宮家仲もいい感じ!!

次回はデートの終わりに回!!お楽しみに!


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