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初恋強盗  作者: 御神大河
173/203

ヒロインの成長

 財前さんとの作戦会議が終了したオレは財前さんと中央へ向かおうとする。

 しかし、後襟を伊従さんに摘ままれ引っ張られる。


「ぐぇ」

「お前社交界に出席したことないのか?」

「ないですけど」

「はあ~……。いいか。中央は賓客足りえる人の場であり、我々使用人は隅で待機。中央に行っていいのは指名を受けた時と緊急時のみだ。覚えとけ」

「了ー解」


 ということは縁談の時同様、食事にありついたりできないわけか。しかも立ちっぱ。

 高級ホテルの料理、しかもその中でも特別なものだろうし、口にしてみたかったな……。

 会場の中央に目をやると、洋装の人もいれば和装も人もいるが、どの人も絢爛華麗な衣装である。対して、会場の隅に寄っている使用人たちは、一般比較ではかなり上等な生地ではあるんだろうが、オレや伊従さんも含め全員同様の格好をしており、かなり地味だ。

 これぞ格が違うというやつだな。


「おい、どこ行くんだ!」

「今のうちにお手洗いに」


 社交界がどういう手順で進行するのか知らないからな。

 お手洗いに行く暇がないとかなったら大変だ。


『ねえ』

「ん?」

『財前さんを焚きつけて今日朝宿さんにプロポーズするとか決めちゃったけど大丈夫なの?』

「なんで?」

『桜ノ宮さんに伝えた方がいいんじゃない?桜ノ宮さんの父さんとお母さんは急に縁談が破断になったことを知ることになるわよ?絶対面倒事になるでしょ』


 あー……確かに。朝宿さんの攻略のことだけを考えいたせいで、この件に桜ノ宮家が絡んでいることを完全に忘れていた。


「そうだな。ありがとう、トーカ。桜ノ宮を探して来てくれるか?」

『ふふん!任せて!!』



 トイレから出たオレは、光るものが床に落ちているのを目の端で捉えた。

 オレはそれを拾い上げる。

 光る物の正体はイヤリングであった。大きさは小さいがキラキラと照明を反射して主張が強い。かなりの値段がしそうだ。

 オレは傷がつかないようにハンカチに包み、フロントへと向かう。

 が、フロントにつく前にどうやら持ち主の発見できたようだ。

 白い刺繡が施されたド派手な真紅のドレスを纏うブロンドが眩しい女の子がキョロキョロと下を見ながら探し物をしている。


「失礼」

「キャッ!?」


 オレが声をかけると女の子は驚いて体勢を崩す。

 オレはお姫様抱っこをするように体を掬い上げる。肩や背中を支えるだけに留めなかったのは、ヒールを履いている場合、ヒールが折れたり足を捻ったりする可能性があると考えたからだ。

 オレはゆっくりと女の子を下ろす。

 外国人?

 女の子の瞳は宝石のような翡翠色をしている。年の頃はオレと同じくらいだろうか?背丈は桜ノ宮よりも少し低い。そして、片方の耳に先ほど拾ったイヤリングの片割れが光っている。


「驚かせてしまい申し訳ございません。こちらをお探しなのかと思いまして」


 オレはハンカチに包んだイヤリングを見せる。

 日本語がわからなくてもこれで意図が伝わるだろう。


「あ!よかった……」


 大切な物なのだろう。

 女の子はイヤリングを受け取ると大切そうに握り締める。

 そうだ!!


「お使いになりますか?」


 オレはそう言いつつ桜ノ宮にもらった手鏡を広げる。


「え、あ、ありがとうございます」


 女の子は手鏡で左右のバランスを確認しながらイヤリングを付ける。

 桜ノ宮に貰った手鏡が早速役に立ってしまった!


「ど、どうでしょう?」

「大変お似合いですよ」

『鏡夜ー!!桜ノ宮さん来るよ!!』


 マジ!?桜ノ宮が来るってことは桜ノ宮一同が来るってことだよな?どうしよ、心の準備が!!


「どうかしましたか?」

「主人のもとへ戻らねばなりませんのでこれで失礼いたします。良き夜を」

「あっ……」


 オレはにこりと微笑むと女の子と別れる。



 オレは身嗜みを整えると深々と腰を折り桜ノ宮を待つ。


「湾月くん!?」

「お待ちしておりました。真姫様」

「どうして……?」

「そろそろいらっしゃる頃かと思いまして、待機させていただきました」


 オレは腰を折ったまま返答する。


「真姫、これはどういうことだ?これに関しても何の報告も受けていないぞ?」


 低く渋い圧のある声。

 桜ノ宮の父親のものだろうか?

 落ち着いた声の奥底に侮蔑と憤怒を感じ、オレはごくりと喉を鳴らす。


「湾月は今日ために()()()()雇いましたので、報告は必要ないかと思いまして」

「周囲からどういった目を向けられると思っている?」

「だからこそです」

「なに?」

「男が横にいるからというだけで短絡的で視野の狭い発想をする者には事業拡大は困難でしょうし、結婚しても桜ノ宮の益とはなりません。結婚という最大の切り札をそのような者に切るのは愚行かと」


 桜ノ宮の意見を聞き桜ノ宮父はため息を漏らす。


「湾月と言ったか?頭を上げなさい」


 オレは顔を上げる。


「若いな」

「学校の同級生です。年齢が近くないと意味がないので」

「わかっている。今日だけなんだよな?」

「はい。契約書も交わしてます」

「そうか」


 桜ノ宮父がオレを見る。


「湾月だったな?」

「はい。湾月鏡夜と申します」

「なぜ娘の使用人に?」

「朝宿さんに紹介していただきましたので」

「ふむ。朝宿からか……。いいだろう。今日に限り真姫の執事として君を認めよう」

「感謝いたします」

「──ただし!桜ノ宮の品位を落とすことがないように!それと、真姫に手を出したら殺す。必ずだ。これは脅しではないから覚えておきたまえ」

「肝に銘じておきます」


 くそ怖え~。迫力あり過ぎだろ。

 オレは頭を下げながら、桜ノ宮家一行が会場へ向かうのを見送る。

 気配がなくなったところで、オレは顔を上げる。


「ねえ」

「うお、ビックリした!!」


 心臓にわりーな。なんで桜ノ宮は一緒に会場に行ってねーんだよ!?


「ついて行かなくてよろしいのですか?」

「弟と違って、わたしはいつも自由行動よ」

「左様ですか」

「ねえ、今は二人きりなんだしその口調止めたら?」

「そういうわけには参りません。本日の私は桜ノ宮真姫様の執事ですから」

「あっそ」


 どこで誰が聞いてるからわかんねーしな。


「今日、初めてお父様に意見を言ってしまったわ。しかも、二回も」

「二回?」

「そうよ。ここに降りてくる前に縁談のことと財前さんと朝宿のことを話したの」

「え!?」

「当然でしょ?」

「あーいや、そうですね。それで、どうなったのですか?」

「あれこれ言って言い包めたわ。後で朝宿にも言っておかないと」


 マジか……。

 オレが知らぬ間に縁談の件が片付いてしまった。

 ゲームのヒロインたちは基本的に主人公であるプレイヤーに導かれて成長する。

 しかし、これは現実でゲームとは違う。

 桜ノ宮はオレの想像以上の速度で成長している。

 出会った頃はどこか影があり、なんとなく放っておけなかった。距離が縮んだことで、強さの裏に必死に弱さを隠していることを知った。だから、手を差し伸べた。だが、今の桜ノ宮にオレは──。


「なにかしら?わたしの顔になにかついてる?」

「え?あ、いえ」

「なら、何を間抜けな顔をして頬けているの?あなたはわたしの執事なのでしょ?ピシッとなさい」

「かしこまりました。ところで、お父様に意見したこと後悔されてないですか?」

「まったく。むしろもっと早く言っていればよかったわ。それより、わたしたちも早く行きましょ!」


 桜ノ宮は会場へ向かって歩き出す。その表情は非常に晴れやかなものだ。

 オレは短く息を吐く。

 桜ノ宮に取り残されて何を弱気になってんだか、オレは……。桜ノ宮が一歩踏み出した!これはオレが望んでいた結果だろう?

 むしろ、こっからが攻略本番だ!!


「真姫!」


 オレに呼ばれた真姫が振り返ると同時に、金の装飾があしらわれた黒いドレスがふわりと揺れる。


「ドレス、最高に似合ってる。ただ、オレが渡したネックレスは外した方がいいんじゃないか?」

「いいのよ別に。それと、口調がいつも通りに戻っているわよ、執事さん」


 オレも桜ノ宮も互いの顔を見て口角が上がる。

 さぁ、いざ社交界へ。

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の173話です!!

今回は桜ノ宮真姫が初めて親に意見した回!!

子どもも一人の人間であり、決して親の所有物ではない!!

桜ノ宮真姫の問題払拭!!

次回はプロポーズ回!!お楽しみに!


忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。

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