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初恋強盗  作者: 御神大河
172/203

プロポーズの段取り

 オレはフロントに桜ノ宮の招待状を提出する。

 両親と一緒ではないしゴネられるのではないかと心配していたのだが、杞憂に終わった。

 桜ノ宮はささやかなチェックを受けるだけでほぼ顔パス。オレも桜ノ宮が執事だと言うだけで、身体検査を受けるだけで通ることができた。


「桜ノ宮真姫様とそのお付きの方ですね?ようこそお出で下さいました。バトラーの忠地(ただち)と申します。本日はどうぞよろしくお願い申し上げます」


 忠地と名乗った女性は深々と頭を下げる。


「忠地ね。よろしく。早速なのだけど、荷物を置きたいから部屋に案内してもらえるかしら?」

「畏まりました。お荷物と上着の方もお預かり致します」

「コートは部屋でお願いするわ。荷物だけお願い」

「承知致しました」


 桜ノ宮はロングコートは着たままでハンドバックのみ忠地さんに預ける。

 オレも桜ノ宮の見様見真似で、上着はそのまま荷物だけ預ければいいのだろうか?緊張しながらそんなことを考えていたのだが──。


「それでは、お部屋に案内させて頂きます」


 どうやら考える必要はなかったようだ。

 忠地さんはオレたちを部屋へ案内してくれる。


『鏡夜、鏡夜!このホテル黒服の人たちがそこら中に立ってて凄いよ!!映画の中みたい!!』


 案外あっさり入れたから警備は大丈夫なのか?と思っていたのだが……なるほど、ホテル内は黒服の警備が至る所に配置されているらしい。これに忠地さんのような従業員の方と各使用人がいるわけだし、今ここが世界で一番安全な場所かもな。


「部屋はこの階なの?」


 エレベーターから降りたところで、桜ノ宮が足を止める。


「左様でございます」

「そう。なら湾月の上着を頼めるかしら?」

「え!?」

「あなたは先に会場に行っててくれる?会場は例年通り地下でいいのよね?」

「はい。それではお荷物お預かり致します」


 恐らく桜ノ宮はこれから家族と会うのだろう。元々、財前さんと会わないといけないから適当に言い訳して抜けるつもりだったし、家族水入らずを邪魔しなくて済むしで一石二鳥だ。

 オレが忠地さんに上着を預け、会場へ向かおうとしたところで、桜ノ宮に呼び止められた。


「待って!!」


 オレは振り返る。


「こ、これ」


 オレは桜ノ宮からリボンの付いた箱を受け取る。


「これは?」

「今日、クリスマスでしょ?だから……」

「開けても?」

「ええ」


 箱からは折りたたみ式の手鏡であった。


「その~……男の子にどういった物を渡せばいいかわからなくて……要らなかったら──」

「ありがと。大切にする」


 オレは手鏡を胸ポケットにしまうと、桜ノ宮と別れ会場へと向かう。

 会場にはホテルの内装を把握するため、エレベーターは使わず遠回りした。



 会場には中央に空間を作るように円卓が均等間隔に設置されている。

 椅子がない所を見ると立食形式なのだろう。


『結構小さい子もいるのね』

「そうな」


 すでに数名集まり各々挨拶している。

 その中にはまだ小学生じゃないかという子どももいる。バッチリ正装をし、大人しくしている姿はオレより貫禄があるんじゃなかろうか?

 と言うか、明らかにこの場でオレは浮いている。

 そもそも使用人らしき人は必ず主人と思われる人と行動しており、誰も一人でいない。にもかかわらず、オレは現在一人。浮いて当然だ。

 居た堪れなくなったオレは、一刻も早く財前さんと合流するためにスマホを開く。


 ”圏外”


 マジか……。

 いや、よく考えたらそりゃそうか。情報が外部に漏れないために地下を選んでるんだろうから、電波が届くわけがない。

 どうする一度地上に戻るか?

 オレが思案していると背後から不意に声をかけられる。


「一人で何をやっているんだ?」


 聞いたことのある声に振り替えると、そこには財前さんと伊従さんがいた。


「やはり会場に来てたんだね。会えてよかったよ」

「やはり?」

「連絡をしても返信がなかったから、もしかしらもう会場にいるじゃないかと思ったんだ」

「なるほど」


 そう言うことか!財前さん賢いな。


「それで、相談というのは?」

「ちょっとこっちへ」


 オレは財前さんに引きずられて会場の隅へと移動する。


「実は昨日、僕の勘違いでなければ食事の後すごくいい雰囲気だったんだ」

「ほう」

「それで、どのタイミングでその~……どのくらいデートを重ねたらその後を誘っていいんだろうか!?」


 よかった。朝宿さんがやらかしたから誘わなかったわけじゃないだな。

 しかし……この大人は真剣に高校生になんちゅうこと相談しているんだ……。

 まぁ、協力するっていたのはオレなんだけど。


「その質問をするってことは昨晩はなにもなかったってことでいいんですね?」

「う、うん」

「なんで昨晩は誘わなかったんですか?」

「それってお誘いした方がよかったってことですか!?」


 財前さんのボリュウームが上がり、オレと伊従さんは同時に指を口に当てる。


「ごめん……」

「誘いのタイミングは、正直なところ人によります。ですが、いい感じになったのなら誘った方がいいと個人的には思いますよ。あなたは魅力的ですとの意思表示にもなりますから。これは婚約や結婚にも言えますね」

「なるほど……婚約や結婚もですか……。助駆はどうだい?」

「妻とそう言ったやり取りをしたのは中学の時ですから、覚えてないですね」

「ああ。そうだったね」

『伊従さんって奥さんと中学生の頃から付き合ってたの!?いいなー』


 確かに驚きだな。

 伊従さんモテそうなのに……相当いい奥さんなんだろうな。


「で、財前さんは昨晩どうして誘わなかったんですか?」

「それは……初めてのデートでいきなりは体目当ての不誠実な男に見られるかと……」

「前に食事行ってましたよね?」

「はい。行きましたよ」


 行きましたよって……財前さん的には食事はデートにカウントしないのね。


「後はやはり、そう言った行為は婚約後にするべきかと……」

「婚約ね……」

「湾月くん、婚約はどういう感じがいいと思う!?」

「婚約?そうですね……」


 朝宿さんならどんなシチュエーションであろうと喜んでくれると思うけど。


『アタシはね、膝を付いてもらえるやつに憧れるから、満月の夜に城の前か夜景が一望できる高台がいいかなー!あー、でも誕生日に家でサプライズも捨てがたいかも!ちょっと特別な日が一瞬で一生の思い出に変わるのとか最高!!』


 天使とはいえ女の子なわけだし、トーカも理想のプロポーズとか思い描いたりするんだな。

 正直オレは考えたこともなかったから非常に参考になる。


「膝付いて指輪出すやつとかやってもらえるとテンション上がるんじゃないですか?後は非日常的なシチュエーションとか」

「非日常か……今日とかどうですか?」

「今日!?」


 オレはチラリとトーカの方を見る。

 目が合ったトーカはサムズアップしてくる。


「ありだとは思いますけど……婚約指輪とかあった方が──」

「実はすでに用意してるんです。昨晩、朝宿さんのサイズを測らせてもらいまして」


 あー、それで朝宿さんがあんなに荒れてたのか。

 指のサイズまで聞かれたのに、なにもなかったらそりゃ不安にもなるわ。


「だったら今日中に決めましょう」

「本当かい!?」

「はい。最初のうちは普通に社交界に参加してください。非常識は幻滅に繋がるので。

 その上で注意点ですが、頻繫に朝宿さんのことを視界に入れるようにしてください。そして、あるか知りませんがダンスなどでは他の女性から誘われた場合は断ること。とにかく、朝宿さんを意識しているということを朝宿さんに露骨に示してください」

「わかった」

「で、場が盛り上がって来たタイミングで朝宿さんを会場の外へと連れ出してください。このホテルには中央にライトアップされた噴水のある広間があります。静かで幻想的な場所なので、プロポーズにはそこをオススメしますよ」

「序盤は朝宿さんに常識の範囲でアピールして、途中で抜け出してプロポーズか……。わかった」

「プロポーズのセリフいります?」

「いや、それは自分で考えて自分で伝える」

「そうですか」


 これは当初、桜ノ宮用に用意してたプランだったんだけどな。

 想定より桜ノ宮の好感度を貯められてないし、ここで切るとしよう。

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の172話です!!

今回はプロポーズ作戦回!!

好意を伝えることは大切!

プロポーズの段取り確認だって大切!!

次回は社交界開始回!!お楽しみに!


忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。

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