クリスマス会準備
早朝、と言っても9時くらいなのだが、自宅のインターホンが鳴る。
オレは急いで玄関へ向かうと勢い良くドアを開ける。
「お帰り、彩夜!!」
「ただいま」
久しぶりに彩夜と顔を合わせられたが、相変わらず彩夜は可愛いな!!
「やー、久しぶりだなー!ちょっと背伸びたんじゃないか!?」
「3日でそんなに変わるわけないでしょ」
彩夜の頭へと伸びたオレの手は彩夜によってペチンと叩き落された。
「なあ、あたしもいるんだけど?」
「おう。いらっしゃい、楓。久しぶりだな」
「久しぶり」
「って、彩夜!?」
オレが楓と話していると彩夜がオレの横をすり抜けて家へと入っていく。
「お邪魔しまーす」
「楓も!?」
オレの視線が彩夜を追いかけ半身になったところで、楓も家へと上がっていく。
「だって寒いし」
そう言われるとなにも言えん。オレの気が利いていなかったわけだしな。
オレは二人を追いかけてリビングへと戻る。
すると、自宅の様子を見た彩夜がオレに詰め寄ってきた。
「ねえ、なにこれ?」
「せっかくのクリスマスだし飾り付けを……」
「余計なことしないでって言ったよね?」
「はい……」
「まあまあまあ。これくらいいいじゃん!雰囲気出てるしいい感じだって」
楓がオレのフォローをしてくれる。
だが、彩夜の反撃にあってしまう。
「これくらいって、どう見てもやり過ぎでしょ!ツリーとかガーランド、後はまあ風船はギリギリいいとして、普通室内をイルミネーションでデコったりしないでしょ!!」
「それは……まあ……そうな」
つい興が乗ってやり過ぎたか……。
「外すか……?」
「いいよ。せっかくやってくれたんだし」
「なんだ。結局許すんなら怒んなくてもいいじゃん」
「ダメ。きつめに言っておかないと、バカアニキは次回以降も同じこと繰り返すから」
その通りです。すんません。
「で、机の上に置いてあるでかい箱はなに?」
「え?ああ、プレゼントを用意したんだ。本当は全員分用意しようと思ったんだけど、人数も誰が来るとかも聞いてなかったらな。彩夜と楓の分だけ用意したんだ」
「え、あたしのも!?ごめん。あたし用意してないんだけど……」
「別に気にしなくていいぞ」
オレは1メートルくらいあるでかいプレゼントを彩夜の前に置き、そこそこサイズのプレゼントを楓に手渡す。
彩夜は渡された瞬間、包装を解き始める。
「開けていい?」
「どうぞ」
楓も包装を丁寧に解く。
いつの間にか彩夜がいなくなっている。
「アロマキャンドル?」
「ああ。無難で悪いな」
「ううん。すごく嬉しい。ありがと」
「アニキー!ハサミってどこにあるんだっけ?」
オレは工具箱からハサミを取り出し、彩夜に手渡す。
彩夜はそのハサミでプレゼントを開封し、中身を引き釣り出す。
良好な反応を見せてくれたのは楓であり、彩夜の反応は芳しくなかった。
「わあ、テディベアじゃん!!」
「……いらないんだけど」
「え!?なんでだ!?」
「だって、でかすぎて邪魔だし」
『だから小さいのにしときなって言ったのに!!』
店員の奴はでかい方が喜ばれるって言ってたのに!!
「じゃあさ、交換する?」
「「え!?」」
楓の提案にオレと彩夜はまったく同じ反応をする。
「いや、もちろん彩夜と鏡夜がよければだぞ!」
「私はいいけど……楓はいいの?邪魔になるよ?」
「いいのいいの!でかいぬいぐるみがあれば、一人暮らしでも安心感あるし、これでも結構ぬいぐるみ好きだし」
「まぁ、楓がいいならいいけど。アニキも別にいいよね」
「ああ。二人で決めていいぞ」
彩夜と楓はオレからのプレゼントを交換した。
これもある意味プレゼント交換なんだろうか?
「じゃあ、私これ置いて来るから」
彩夜がリビングからいなくなると楓がオレの袖を引いてくる。
「どうした楓?」
「鏡夜ってさ、でかめのパーカーとかって持ってたりする?」
「持ってると思うけど」
「それ、もらえたりしない……?」
「いいけど。なんで?」
「え!?ほら、テディベアって汚れやすいから服着せて守ろうかなって」
「あー、なるほどね。多分何着かあるから選んでくか?」
「いいの!?」
「おう」
オレは楓と一緒に自室へと移動すると、ベットの上にパーカーを並べる。
クローゼットからはパーカーが5着出てきた。
パーカーっていつの間にか増えてるんだよな……。
「どれがいい?」
「うーん。迷うな……」
楓は宝石を鑑定するかのように慎重に吟味している。
「そんなにか?」
「うん」
「なんだったら全部持ってもいいぞ」
「え!?あ、いや、じゃあ、2着いい?」
「いいよ」
「あとさ、着てみていいかな?」
「え?」
「触り心地とかあるし!!」
「お、おう。いいけど」
ぬいぐるみに着せる服ってそんなに重要なのか……。
まぁ好きな人は好きって言うしな。
「ど、どうかな?」
オレのパーカーを着た楓はその場でくるりと一回転しポーズを取る。
「似合ってるよ」
「じゃあ、こっちは?」
「それも似合ってる」
ぶっちゃけ楓は素材がいいから、なにを着ても様になっている。
楓は順番にパーカーを着ては似合ってるか確認してくる。
と、自室のドアが開く。
「二人とも何やってんの?」
部屋へ一歩踏み込んでくると、彩夜はオレを睨む。
「テディベアに着せる服が欲しいんだって」
「ふーん。店で買えばよくない?」
「異性用の服買うのって難易度高いだろ?」
「それはまあ……」
「え?そうか?」
「アニキは例外だから黙ってて」
「はい」
オレは一歩後ろへ下がる。
「なんで楓がアニキのパーカー着てるの?」
「着心地チェック」
「ふーん。で、どれにするの?」
「うーん。これとこれかな」
無事パーカーも決まり、早速テディベアはオレのパーカーに袖を通した。
楓は愛おしそうにテディベアを撫でる。
その後、彩夜と楓は早めの昼食を取り、オレと一緒にクリスマス会に出す夕食をを作る。
「なに作ればいいの?」
「二人にはピンチョスを作ってもらおうかな」
「ピンチョス?」
「難しい料理とかは無理だぞ?」
「全然難しくないから大丈夫。ハムとかチーズとかトマトとかを一口サイズに揃えて爪楊枝で刺す。気を付けるのは組み合わせと色合いだけ」
オレは実演しながら説明する。
「簡単すぎない?」
「アニキはなに作るの?」
「オレはチキンのトマト煮とキッシュ、後はパエリアでも作ろうかな」
クリスマスと言えば、ローストチキンだろうけど切り分けたりするのは危ないからな。できるだけ彩夜たちに刃物を持たせたくない。
「キッシュってなに?」
「チーズとかベーコンとか野菜で作るタルトだな」
「へー!美味しそう!!」
「その期待を裏切らないように腕によりをかけるよ」
「なあなあ、ピンチョスってやつみんなで作った方がよくない?」
「確かに……。ピンチョスってやつみんなでやるから、アニキの手伝っていい?」
「もちろん!一緒にやろうぜ!」
オレは彩夜と楓と一緒に料理を作る。
まさか、彩夜と一緒に料理をする日が来るとは……。この幸福を噛みしめねば!!
『凄い美味しそうじゃない!!アタシも食べたかったな……』
オレとしてもトーカに食べてもらいたいところであるが、こればかりはどうしようもない。
チラリと二人の様子を確認すると、彩夜と楓は笑い合いながら楽しそうに料理している。
なんと素晴らしき光景か……!!
出来上がった料理は机に並べたいところではあるが、残念ながら夕食までお預けだ。
味が落ちるから本当は避けたいのだが、致し方ない。痛まないように冷蔵庫へと移動してもらう。
これでオレにできることは全て終了だ。
「じゃあ、楽しんでな」
「うん」
「ありがと、鏡夜」
オレは荷物を持って家を出る。
と同時に、家の前で女の子のグループと鉢合わせする。
「あー!!湾月のお兄さんだー!!」
「ウソ!?この人が!?」
「よかったらお兄さんも一緒にクリスマス会しませんかー!?」
その声を聴いて家の中から彩夜と楓が飛び出してくる。
楓はみんなを家の中に誘導し、彩夜は早く行けとオレにジェスチャーする。
楽しいクリスマス会になりそうだな。
オレは彩夜と楓に手を振って家を後にした。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の167話です!!
今回はクリスマス会の準備回!!
鏡夜らしさ全開!!
彩夜も楓も嬉しそう!!
次回はデート尾行回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




