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初恋強盗  作者: 御神大河
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縁談見送り

 桜ノ宮はまるで爆弾解除をしているかのように、一言一言慎重に齟齬が起こらないように言葉を選ぶ。

 ただ、決しておどおどした話しぶりではなく、堂々としたものであった。


「まず初めに本日はこのような私にはもったいない縁談場所をご用意して頂きありがとうございます。また、両親がこの場に出席できないことを改めて謝罪致します。

 今回両親が参上できなかったのは、桜ノ宮家が財前家を軽んじているからでは決してないということ、ご理解頂けますよう平にお願い申し上げます」


 桜ノ宮は頭を深々と下げる。


「そんな!頭を上げてください!!もちろん承知しております!!」


 そんな桜ノ宮の様子に財前さんは慌てた様子で頭を上げるようにお願いすると、背筋を正して座る。

 頭を上げた桜ノ宮は真っ直ぐと財前さんを見る。

 どういうわけだろうか?年齢的にもやり取りとしても下であったはずの桜ノ宮の方が財前さんよりも圧倒的に迫力がある。

 これが桜ノ宮家の令嬢、桜ノ宮真姫か……。オレが今の桜ノ宮を前にしていたらその気品にひれ伏していたかもな。


「ありがとうございます。ではその上で、今から致しますお話は桜ノ宮家ではなく私一個人の話として聞いて頂けますようお願いします。

 正直に言いまして、私は今回の縁談、大変申し訳ございませんが少々迷っております」

「そうですか」

「もちろん!財前家や慶介様に信用がないということでは決してござません!父や母も大賛成しております!ですので、私の問題で──」


 矢継ぎ早に弁明する桜ノ宮を財前さんが静止する。


「大丈夫です。というより、それが普通だと思います。

 実を言いますと、私も今回の縁談進めるべきか迷っているのですよ」

「え?」


 桜ノ宮は唖然とした表情をする。

 まぁ、当然だな。桜ノ宮からしたらこの縁談、自分も相手も基本的に受ける以外の選択肢がないと思っているわけだし。

 桜ノ宮の唖然とした反応に、今度は財前さんが矢継ぎ早に弁明を述べる。


「もちろん!こちらも桜ノ宮家や真姫様に不満とかあるわけではないですよ!真姫様は大変素敵であられますし!

 ですが、そうですね……やはり私と致しましてはどうしても真姫様が学生というのは引っ掛かってしまいまして……。10代の真姫様から見れば私などおじさんにしか見えないでしょうし、きっと真姫様にとっては良い話ではないだろうなと。それにもし仮に婚約が成立したとしても、実際に結婚となるのは真姫様の高校卒業後か大学卒業後。青春の時間を婚約により縛られて過ごすことになります。それでは、幸せな結婚とは言えないのではないかと……。私は結婚とはお互いの幸せの上に成り立つべきものであると思っておりますので……って、すみません、いい歳したおっさんが夢見る少女のようなことを長々と」

「いえ。素敵で参考になるお話でした」

「それは……よかったです」


 沈黙が部屋に流れる。

 互いに今回の縁談はなし!という空気になったものの完全着地する前に着地点を見失ったな。

 とはいえ、外野が口を挿める状況じゃないよな……。

 オレがチラリと横を見ると伊従さんと目が合う。

 伊従さんは即座にオレから目を逸らすと、軽く咳ばらいをした。

 その咳払いをきっかけに、財前さんが口を開いた。


「で、では、今回の縁談は見送りということにしましょうか!」

「え、ええ!」

「あー……すみません」

「なんでしょう?」

「もしよろしければなのですが、縁談見送りの件発表を待っていただけないでしょうか?正確にはこの場にいる者だけの密事ということにして頂きたいのです」


 桜ノ宮はオレと朝宿さんを見る。

 オレと朝宿さんは黙って頷く。

 伊従さんもアイコンタクトがあったのだろう。黙って頭を下げていた。


「かしこまりました。ただ、ずっとというわけにはいきませんよね?発表の予定はお決まりなのでしょうか?」

「正確にはまだ。ですので、発表のタイミングを互いに知れるようにするためにも、よろしければ連絡先を交換できないでしょうか?」


 あー、そういう感じで朝宿さんの連絡先を手に入れることにしたのか……。

 さっき秘密にしようと約束した縁談の見送りを桜ノ宮のスマホを通してやり取りしてしまうと、漏れることになる。そうならないためには別の誰かの連絡先が必要になるという寸法だ。

 確かに、桜ノ宮のスマホは両親の監視下にあるという情報を財前さんにリークしたのはオレだ。

 とはいえ、そのやり方はどうなんだろ?朝宿さんは正面から堂々と連絡先を聞く方が好感度が上がりそうし、そう説明もしたんだけどな……。

 想定通り朝宿さんが連絡先の交換を止めに入った。


「横から失礼致します。申し訳ございません、お嬢様のスマホは家族用の物でございまして、そういったやり取りには向いていないかと……」

「そうですか。ではどうしましょうか……」


 財前さんが白々しいやり取りをしている最中、こちらに矛先が向かないように、オレは伊従さんに話しかける。


「あの作戦、財前さんが考えたんですか?」

「正面から行って教えてもらえなかった時の保険だそうだ」

「保険って……保険の方を先に実行してどうすんすか?」

「ふっ。わかってないな。後から保険の行動を取ったら無様に映るだろ。そうならないためにも先に保険を試しておくんだよ」

「なるほど……」


 オレと伊従さんが話している間に、結局朝宿さんが財前さんと連絡先を交換することになったようだ。

 その後、軽く食事をして解散ということになった。

 しかし知らなかったな。まさか、こういう場で使用人は食事にあり付けないとは。超が付く高級料亭みたいだし、味見してみたかったのだが……煮物とか。



 解散後、オレたちは朝宿さんも含め、桜ノ宮家へと戻ってきた。


「疲れたわ」


 そう言いながら、桜ノ宮は甘えるように朝宿さんにもたれかかる。


「お疲れ様です、真姫様。ご立派でしたよ。この後はどうなさいます?」

「久しぶりに朝宿の食事が食べたいのだけれどいいかしら?」

「もちろんです」

「わたしも手伝うわ!!」

「真姫様が!?」

「ふふん!わたしだって成長しているのよ!」


 二人はまるで仲の良い親子のようだ。

 そんな二人の様子をオレは少し離れた場所から眺めていた。


「湾月くんは?」

「少し疲れたので、休ませていただいても?」

「わかったわ。それと、その話し方止めて!もう終わったのだしいいでしょ?」

「そうだな」


 オレの口調に桜ノ宮は少し微笑む。

 やはり、同級生に堅苦しすぎる敬語で接せられるのは疎外感を感じて嫌なのだろう。使ってるオレも距離を感じて嫌だったんだ、使われている方はなおさらだろう。



 オレは普段使われていない応接室へと移動すると、財前さんに連絡する。

 内容は”朝宿さんはしばらく桜ノ宮と過ごすため、お礼の連絡は夜にするように”というものだ。


『まだ財前さんとやり取りするの?』

「どういう意味だ?」

『だってさ、もう桜ノ宮さんとの縁談は解消されたんだし、桜ノ宮さんは自由じゃん』

「それで言うならまだだな」

『え!?』

「あのままの流れで発表となれば、自由だっただろうな。ただ今回、発表は保留にされた上にそれを知っているのはあの場にいた人間だけだ。で、オレも朝宿さんも桜ノ宮家からしたら正式な使用人じゃない。となると、財前さん次第では縁談の見送りをなかったことにもでき得る」

『でも、財前さんは鏡夜のことも朝宿さんのことも正式な桜ノ宮家の人だと思っているでしょ?』

「さぁ、どうだろうな?その辺の情報はわからん。だからまぁ、ギリギリまで警戒するさ。

 それより、帰る前に朝宿さんだけ合流が遅れたろ?財前さんが接触したんじゃないか?」

『うん。「もしよろしければ、個人の連絡先も教えていただけないでしょうか!?」って頭下げてたよ』


 へー。アドバイス通り正面から行ったのか。


「で、朝宿さんは?」

『先ほどお渡ししたのが個人用でもあるのですがって困ってたわ』

「だろうな。今は使用人じゃないわけだしな」


 さて、ということは第一関門の連絡先交換突破か。

 この調子で指示通り財前さんが動いてくれればいいんだけど……。

 その後もトーカと細かく情報共有していると、桜ノ宮のオレを呼ぶ声が聞こえてきた。


「湾月くーん!料理できたわよー!」

「はーい!」


 オレはリビングへと向かった。

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の160話です!!

今回は第二回縁談終了回!!

やはり仲の良い桜ノ宮真姫と朝宿和奏!!

さて、どこまでが鏡夜の読み通りでしょうか?

次回は三人で過ごす回!!お楽しみに!


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