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初恋強盗  作者: 御神大河
149/203

ゲームスタート!

 桜ノ宮の使用人となってから初の学校生活が終了した。

 しかし、オレとしては放課後からこそが本番だ。


「真姫は普段放課後なにしてるんだ?」

「宿題を終わらせた後は習字とお針。これは日課ね。他には気が向いたら庭の手入れとか……あとは読書かしら」

「オハリ?」

「刺繡のことよ。手先と集中力、忍耐力を鍛えられるからと幼少の頃に習ったものが自然と習慣化したの。認知症の予防にもなるそうだし、あなたもやってみたら?」

「オレはこれでもアップリケとか付けるのお手の物なんだぞ。最近はやる機会なくなったけど……。料理とか楽器とかは習わなかったのか?お嬢様と言ったらだろ」

「ピアノはやっていたわよ。本当はバイオリンを習いたかったのだけれどね。指先が硬くなるからダメと断られてしまったわ。

 料理も同様、火や刃物が危ないからという理由でキッチンに入るのも禁止させられてたわ」

「なるほどね~」


 話を聞く分には過保護なぐらい大切にされているんだけどな……。

 これで無関心だというのだから、金持ちというのはよくわからんな。


「その日課って結構かかるのか?」

「別にそんなことはないけれど。どうして?」

「ちょっと真姫とやりたいことがあるんだけど……真姫の部屋にお邪魔していいか?」

「な、なにを考えているの!?そういうのは、その~……ダメよ!!」

「いや、お前がなに考えてんだよ」


 桜ノ宮ってそっちの知識は割とあるよな。

 まぁ、花嫁としての身に付けておくべき知識と言えばそうなのかもだが。


「お前とやりたいのはこれな」


 そう言いながらオレは鞄からノートパソコンを取り出す。


「あんたそんなもの学校に持ってきてたの!?」

「まぁまぁいいじゃねーか!それよりも、このパソコンの中には『野良猫と真夏の牡丹』という知る人ぞ知る名作シミュレーションゲームが入っている!それ以外のデータは、全て初期化してあるから安心安全!!」

「わたしゲームってやったことないのだけど……」


 初期化の件はスルーか……。


「大丈夫大丈夫。そんなに難しいもんじゃないよ。選択肢を選びながら会話を進めていってハッピーエンドを目指すだけのゲームだから。基本はボタンを押すだけ。

 まぁ、百聞は一見に如かずって言うし、とりあえずやってみようぜ!」

「そこまで言うならいいけれど……」

「よし!じゃあ、真姫の部屋に──!!」

「待って!!その前にお風呂に入りたいのだけれど」

「ああ……そう。オッケーちょっと待ってろ」


 オレはすぐに風呂を準備し、桜ノ宮が上がるのを夕食の下準備をしながら待つ。


『ねえ、桜ノ宮さんとあのゲームやっていいの?』

「なんで?」

『だって鏡夜、あのゲームを参考に動いてるんでしょ?』

「あぁ、そういうこと。違うよ。あのゲームを参考には動いていないから問題ない。恋愛シミュレーションゲームでもないしな」

『そうなんだ。どういうゲームなの?』

「『野良猫と真夏の牡丹』は、とても厳しい両親の庇護下にあるお屋敷に住む少女が野良猫を拾うところから物語がスタートするんだが、両親が汚い野良猫を飼うことを許さずハッピーエンド以外は野良猫とお別れすることになるゲームだ。

 全部で30以上のエンディングがあり、お別れしないで済むパターンは公式によると2ルートのみ。別れのパターンは猫が逃げてしまうものから死別までさまざまだ。

 エンディングのパターンが膨大だから、人によってたどり着くエンディングに個性が出ることで人気となった作品だが、オレがこのゲームの面白いと思うところは、自らで道を決める大切が学べる点だ。選択肢には制限時間が存在し、制限時間内に選択できなかったら『選択しなかった』『答えなかった』として話が進みルートが分岐する。そして、時間切れの分岐の行き着く先はほぼ間違いなくバットエンド。オレも全分岐を試したわけじゃないから、もしかしたらハッピーエンドもあるかもしれないが……。

 まぁ、優柔不断ではハッピーエンドにはたどり着けないってゲームだな」

『へー。面白そうじゃない!!今度アタシもやってみようかな?』

「湾月くーん!!ちょっといいかしら!!」


 夕食の下ごしらえが終わり、オレがトーカと駄弁っていると風呂場から桜ノ宮がオレの呼ぶ。


「どうした?」

「その~……着替えを持ってきてほしいのだけど……」


 着替えを用意せず風呂に入ったのか……。


「湾月くん?」

「あぁ、了解」


 オレは桜ノ宮の部屋のウォークインクローゼットへと入る。

 桜ノ宮の寝間着は……生地の薄いネグリジェかー……。あんなもん持ってたら絶対怒るよなー。外着っぽいけどこれでいいか。

 オレは目に付いた服を適当に選んで、風呂場へと戻った。


「真姫ー?開けるぞー?」

「ちょっと!?……いいわよ」


 オレはそろーっと扉を開けると、服を置いて扉を閉める。

 好感度を落とすような真似はしたくないから、覗きはしない!!


「ねえ!」

「なんだ?」

「下着がないのだけど!?」

「当たり前だろ!!それともなんだ?今からお前の下着を()()()持ってきてやろうか?」

「やめて!」

「だろ?」


 オレは桜ノ宮が着替えて出てくるのを扉の前で待つ。

 案の定、桜ノ宮はビショビショの髪で洗面所から出てきた。


「きゃ!?ビックリしたー。なんであんた扉の前にいるの?まさか!聞き耳立ててたんじゃないでしょうね!?」

「んなわけあるか!ほれ、洗面所へ戻れ!」

「なによ?」


 オレは桜ノ宮をUターンさせ、背中を押して洗面所へ戻す。


「髪を洗ったらアイロンをかけてから出てこい!床がビチョビチョになるだろ。朝宿さんに注意されなかったのか?」

「アイロンはいつも朝宿がリビングでやってくれていたもの」

「あー、そうなの?まぁいいや。今からアイロンのかけ方教えてやるから。自分でできるようになれ!」


 オレは桜ノ宮にアイロンのかけ方を教えながら、髪を乾かす。


「あなた、こういうの本当に上手よね」

「妹がいるからな」

「わたしも兄がいたらやってもらえたのかしら……?」

「やってもらえるんじゃないか?妹が可愛くない兄はいないからな。よし!アイロン終わり!覚えたな?」

「ええ」

「じゃあ、ついでに洗濯機の使い方も教えてやる」

「ええー。まだ覚えるの?」

「覚えなくてもいいけど、その場合は真姫の下着をオレが洗うことになるからな?文句言うなよ」

「うっ!わかったわよ……覚えるわ!」


 桜ノ宮は知らないからできなかっただけで、教えられたことは次々に学習し、着々と生活能力を身に付けている。

 やはり、環境が桜ノ宮の能力を制限していたのだろうな。きっと、彩夜も……。


「後は洗濯が終わったら洗濯機から取り出して干すだけ。そうしないと、生乾きプラスカビでもの凄い臭いになっちまうからな」

「わかったわ」

「じゃあ、ゲームやろうぜ!」


 オレと桜ノ宮は桜ノ宮の部屋へと移動する。そして、桜ノ宮の勉強机にノートパソコンを置き電源を入れ、ゲームを起動させる。


「操作はキーボードでもマウスでカーソルを合わせクリックでも好きな方を選べるからな。後は物語を読みながら、真姫の思う選択肢を選んでいくだけだ。難しくないだろ?」

「そうね。じゃあ、始めるわね?」

「ああ!ちょっと待った!!こういうシミュレーションゲームをやる上で一つ注意点がある」

「なにかしら?」

「最初のプレイは主人公と自分自身をリンクさせること。主人公にとってより良い方を選ぶのではなく、自分だったらこれを選ぶという選択肢を選ぶんだ。ハッピーエンドを目指すのは二週目でいい」

「どうして?」

「そっちの方が面白いからだよ!」

「そう」

「じゃあ、楽しんで!!」


 オレは桜ノ宮が『野良猫と真夏の牡丹』をプレイしている姿を黙って後ろから見ていた。

 静かな部屋にカチカチとキーボードを叩く音だけが響く。

 桜ノ宮は真面目かつ集中力がもの凄い。

 他のことに一切気を取られることなく、画面を真っ直ぐ見つめ、真剣な表情でゲームをプレイしている。


 ──このゲームが桜ノ宮の感情に少しで変化を与えてくれるといいんだが……。

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の149話です!!

今回は桜ノ宮真姫初めてのゲーム回!!

学校にゲームのみが入ったノーパソを持ってくる不良

桜ノ宮真姫のためだから止む無し!!

次回はゲームの結果回!!お楽しみに!


忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。

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