同盟成立
オレの提案に財前さん伊従さんの両名とも目をパチクリとさせ一瞬固まる。
そして、瞬間湯沸かし器のごとく伊従さんが噛みついてくる。
「慶介様と貴様が対等にだと!?どう言うつもりだ!?」
「助駆。少し興奮しすぎだよ。冷静さを取り戻すまで少し静かにしておいてくれるか」
「も、申し訳ございません……」
財前さんは伊従さんを一括するとオレの方へと向き直る。
「どう言うつもりですか?先ほど発言は慎重にと忠告したはずですが?」
「お互い家名に縛られて、無意味な腹の探り合いをしているように感じるんですよね。個人的にはそんなこと望んでいないので、ここで起きたことは口外無用ということで、もう少しラフに話しませんかという提案です。信用できないということでしたら、誓約書に血判も付けますよ?
そもそも桜ノ宮家と財前家は敵同士と言うわけではないんですよね?まぁ、仮に敵同士だとしてもオレ自身は財前様と敵対する意思はないですし、なんだったら協力できることもあると思うんですよ。これがオレの嘘偽りのない本音です。いかがですか?」
オレとしてはこの提案乗ってくるもよし、乗ってこずともよしだ。
乗って来てくれるんなら予定通り。乗ってこずに怒らせてしまったとしても、オレは桜ノ宮家から大目玉を食らうだろうが、縁談は崩壊するわけだしミッション的にはプラスだ。
さぁ、どうなる?
オレは怒られることも覚悟していたのだが、財前さんは予想以上に器が大きかった。
肩を震わせ、その後笑い出す。
「いやー、さすがは天下の桜ノ宮家だ!!使用人の腹の座り方も一味違いますね。いいでしょう!ここで起きたことは他言無用とということで、もう少しラフに話しましょうか」
「慶介様!?」
「助駆。これは僕が決めたことだ。どうしても納得できないというなら、この部屋から出ておいてくれ」
「はあ~……わかりました。お付き合いします。ですが、最低限のラインは守ってくださいね?」
「わかってるよ」
「お二人ともありがとうございます」
オレは提案を受領してくれた二人に深々と頭を下げる。
「では早速、ぶっちゃけ真姫と結婚したいと思ってますか?」
オレは初手からぶっこむ。
当然、客間は時間が停止したかのように沈黙する。
『ちょっと!なに聞いてんの、鏡夜!?』
トーカが焦るのも無理はない。オレ自身もかなり勝負に出ているからな。
だが、腹探り合いは止めだ。腹の底まで見せて話し合う。オレはそう決めていた。
財前さんたちは今だ沈黙している。
オレは覚悟を決めるため、大きく息を吸う。
「オレは今回の縁談、真姫も財前さんもノリ気じゃないのでは?と思っているんですが、どうですか?」
「真姫さんは……いや、その前に君は今回の縁談どう思っているのか聞かせてもらえるかな?」
「オレは断固反対です!」
『アタシも!!』
オレの即答に再び客間が一瞬止まる。
だが、今回はすぐに財前さんが口を開いた。
「なるほど。本当に君は本音で全てを語る気のようだ」
「不快に思われたら切り上げていただいても構いません」
「不快に思うことがあったらそうさせてもらうよ。どうして君は反対なんだい?」
「両名ともにノリ気じゃないからです。まぁ、どちらか一方がノリ気じゃない時点でオレとしては反対ですが」
「僕と真姫さんの両方その気があった場合、本当に君は反対しないのかい?」
「当然です。オレの望みは真姫が幸せになることただ一点のみです。必要なら桜ノ宮家だろうが財前家だろうが牙を剝きますよ」
「そうか……強いのだな、君は……。それで、なぜ君は僕が縁談にノリ気じゃないと思ったんだい?」
「財前さん、朝宿さんに惚れてますよね?」
まぁ実際は、婚約はしていないと強調していたこと。それと、真姫は親に逆らえない以上、財前さんがその気なら一度目の顔合わせの時に婚約が成立していたはず──つまり、財前さんの方が婚約を様子見したと判断できるという方が根拠としては強い。
それに、オレがここまで言って「私は結婚する気がある」の一言が出ない時点でその気がないのは明白だろう。
ただ、ここは作戦のためにもトーカの推察を確認させてもらった。
そして、どうやら当たりのようだ。その証拠に財前さんは無言のまま目がビックリするほど泳いでいる。
にしても、好きな人を言い当てられてここまで動揺するかね?財前さんてもしかしてあんまり恋愛経験ない?
「あれ?違いました?朝宿さんに惚れているているなら、オレも協力できるかな~と思ったんですが」
「え!?あ、いえ、その~……えっとですね……」
『ほら!やっぱり!!』
トーカはドヤ顔を決める。
財前さんのあまりの動揺っぷりに、伊従さんも取り繕うことを諦めたようで頭を押さえて大きくため息を吐く。
「慶介様、動揺しすぎです。それじゃ、バレバレでしょう。ったく。
お恥ずかしながら、湾月様のおっしゃる通り慶介様はあの日桜ノ宮家にお勤めしていらっしゃる朝宿さんに一目惚れしまして……」
「やっぱり!ちなみに、財前さんは朝宿さんのどこに惚れられたのですか?」
「そ、それは……笑顔が素敵で……あ、後は所作の一つ一つが美しかったですし、スタイルもよく、声も優しく落ち着きがって、それに──」
『朝宿さんのことすごい好きなのね……誉め言葉が止まんないじゃない』
確かに……トーカが引くレベルで惚れてるな。
「あの~……」
「あ、すみません。つい夢中になってしまい……」
「いや、それは大丈夫です。財前さんが相当朝宿さんが好きなこと伝わりましたから。そこで提案なんですが……」
オレは腕を膝に置き、前屈みになる。
「財前さん、朝宿さんと付き合えるよう頑張ってみませんか?オレも協力するんで」
「お待ちください!!」
チッ!ここぞってとこで毎回伊従さんが入ってくるなー。
「なんです?」
「今回の縁談は財前家と桜ノ宮家の未来がかかっている縁談なんです!!確かに朝宿さんは素晴らしい方かもしれません!それでも!!財前家、桜ノ宮家、両家のことを考えるのであれば、真姫様と結婚すべきでしょう!!」
「なるほど。となるとこれは、伊従さんがどれだけ財前さんを信用されているか、そして財前さんがどれだけ自信があるかが焦点ですね」
「なに?」
「どういうことですか、湾月くん?」
「オレは財前さんと違い一般人です。そのため金持ちの政治的なことはわかりません。
ですが、オレは財前さんと同じ男です。男の矜持というのは理解しています」
「男の矜持ですか?」
「はい。財前さんは男が最も努力できるのは、力を発揮できるのは、どういった時だと思っていますか?
オレは愛する者を守る時だと思っています。たとえどん底にいても愛する者のためなら男は必ず這い上がってこれる。そして、二つとないものを諦めたという経験は確実に尾を引き、よくない結果を生む。
その前提で、桜ノ宮家と形ばかりの協力関係を結ぶのと、朝宿さんのためにと努力するの、どちらが財前家、財前さんの将来にとってより良いものになるとお考えになりますか?どちらが後悔しませんか?」
オレの発言に財前さんは黙り込む。
しかし、伊従さんの主張はなおも止まらない。
「確かに、私も男だ。君の言う男の矜持というのは理解できる。
だが!桜ノ宮家との縁談はそんなレベルの話ではないのだ!!桜ノ宮家との縁談は次期社長の椅子をも左右し得るものなんだぞ!」
「助駆!」
「あっ!?失礼しました。今のは忘れてほしい」
大分、熱くなって余計なことを口走ったようだ。
「ご心配なく。約束通り決して口外したりしないので」
「助かります」
「ですがその前に、伊従さんは桜ノ宮家の後ろ盾がないと財前さんが社長になることができないとお思いで?」
「そんなことはない!」
「では、桜ノ宮家がいないと財前さんは財前家を繁栄させることが難しいと?」
「そんなわけないだろ!貴様、喧嘩売っているのか!?」
オレと伊従さんのやり取りを聞いて、財前さんが「くくくっ」と笑う。
「慶介様どうされました?」
「いや、助駆が僕のことを信用してくれていることが嬉しくってね。それに、今の助駆の意見だと桜ノ宮家の後ろ盾は僕には必要ないとなり、真姫さんと婚約する意味が薄くなってしまっているよ」
「あっ!?」
財前さんは大きく息を吐き、覚悟の決まった瞳でオレを真っ直ぐと捉え、口を開く。
「僕の腹は決まった。湾月くん、君の提案を受けよう!」
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の143話です!!
今回は客間での舌戦回!!
鏡夜の口八丁!
第一関門突破!!
次回から桜ノ宮真姫の攻略回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




