女難の相
食堂を出たオレは日菜を連れてオカルト研究部がやっている占いの館へとやって来た。
いろいろ考えたが女子が好きなものと言えばやはり占いだろう。ゲームでもラッキーアイテムはヒロイン攻略で重要だしな。
占いの館の占い師は顔に星のペイントをしている中学生にしか見えない子だった。初恋マーカーは……出ていないな。
「吾輩は卜部結星だ。よろしく!」
「はあ?よろしく」
吾輩って……すごい一人称だな。占い師としてのキャラ付けとかか?
「まず名前と生年月日、年齢をもらえるか?」
「英日菜。12月17日生まれ15歳」
「湾月鏡夜。12月12日生まれ同じく15歳」
「英と湾月ね。よしよし。それじゃあ、何を占おうか?二人の相性?将来?それとも……浮気調査とか?」
うーん。どれも微妙だなー。
しかも浮気って……男女でくればそういう系の質問になりやすいのはしょうがない気もするけど……。
「そうだなー……」
「それ、全部で!!」
「え?」
「ダメだった?」
「いや、日菜がいいならいいけど……」
まぁ、一応口も利かない時期があったわけだし、相性とかは気にならんこともないか……。
ただ、浮気は関係なくないか?
オレたちの目の前で卜部さんは変な道具でなにやらやっている。
見たことないけど、オリジナルか?凝ってるんだな。
「出たぞ!それで一つ確認いいか?」
「どうぞ」
「間違ってたら悪いが、二人は付き合ってないな?」
!? オレたちの関係性については一言も話してない。そして、浮気という言葉が出ていた以上、卜部さん的にはオレと日菜はカップルと錯覚していたはずだ。それを今の占いで修正したのか!?
もしやこの占い、侮れないか?
「そうっすね」
「やはり!」
正解したことで卜部さんはドヤ顔で鼻を鳴らし、流暢に結果を伝え始める。
「まず相性だが、悪くはない。健全とは言い難いがな」
「どういうこと?」
「恐らく、互いが互いのことを全く理解できていない。両者とも踏み込まないようにすることで、今の関係を保っているというところか。
次に将来についてだが、白状するとほとんどわからなかった。
ただ、これはアドバイスだが、関係を壊したくないなら今のままでいることをお勧めするよ」
「踏み込んだらどうなるの?」
それはオレも気になるところだ。
もし卜部さんのアドバイスが攻略の失敗を意味しているんだとしたら……オレは日菜には踏み込めない。
「さあ?言ったろ?わからなかったって。吾輩は占い師として誇りがあるのでね、結果のでっち上げとかは行わない。
それと、吾輩の占いは予言であって預言じゃない。アドバイスの意味も、不確定な未来だから静観が無難という消極的なものだ。そのことを踏まえた上で、最終的にどうするか決めるのは君たちだよ」
「そう……」
卜部さんによって空間が支配されているのがわかる。
心の内側まで見透かされ、発せられる言葉の一言一言が体の奥底へと入り込んでくるような錯覚を受ける。
これが占い師か……。
「後は浮気についてだったかな?
英からは特になにも感じなかった。
問題は君だ、湾月。君にはかなりハッキリと女難の相が出ている。思い人を悲しませたくないなら気を付けた方がいい」
「……そうか」
「その反応、心当たりがあるのかな?」
「いや、別に」
日菜の機嫌を取るために占いを選んだが、失敗だったな。
本当は占いで日菜の機嫌を直しつつ、ついでに日菜の好きな人が判明しないかな~なんて期待もしていたんだが、まさかの浮気に関する発言で日菜の視線が一層険しいものになる結果となるとは……。
卜部さんか……今後警戒しよう。
オレと日菜は占いの館を後にする。
「さて、次はどうするか!」
「ねえ、鏡夜」
「ん?」
「行きたいとこがあるんだけど……」
「おう。わかった……」
どこでもいいと言っていたが、やっぱ行きたいところがあったのか。
──はっ!?まさか、オレの選択がダメダメ過ぎて、エスコートされるの諦めた!?
日菜に連れられてやって来たのは三年一組の教室であった。
ここではアクセサリーやトートバッグなどが手作りできるらしい。実はちょこちょこ生徒たちが身に付けてるのを見かけて、個人的にオレも気になっていた場所だ。
「結構人気あるんだな!?」
「文化祭の思い出にもなるから、みんな作りに来てるんだって」
「なるほどねー」
三年一組の教室は校舎の隅の方であり、立地的には悪いと思うんだがかなり賑わっている。
オレと日菜が教室に入ると、受付の先輩が声をかけてきた。
「いらっしゃい!二人ですか?」
「はい」
「カップルでしたらお揃いのレジンアクセサリーとかオススメですよー。ヘアゴムとかネックレスとかウッドリングとかいろいろなものにできますし!!」
アクセサリーなぁ……。
オレとしてはトートバックの方が日常的に使えて便利だと思うんだが……やはり女の子にはアクセサリーの方が人気が高いのだろうか?
「ねえ、鏡夜。一緒にウッドレジンリング作らない?」
そうなるよな。
日菜の誘いもあってウッドレジンリングを作ることにした。
レジンアクセサリーはお菓子作りみたいなもんで、難易度はそれほど高くない。初めての体験であったが、我ながらそれなりの完成度の物ができたと思う。
日菜は……まだ作ってる最中か……。相当集中しているようで、真剣な表情をしている。
手持無沙汰だな。
オレは日菜の完成を待つ間に、レジンのネックレスをもう二つ完成させた。
「ごめん。お待たせ」
「できたのか?」
「なんとか……。鏡夜はどんなの作ったの?」
「オレはこれ」
オレは紫色と紺色、それと少しばかりの黄色を配色したウッドレジンリングを日菜に差し出す。
「持ってもいい?」
「もちろん」
「きれーい!やっぱ鏡夜はこういうの上手だね!他には?他のも作ってたよね?」
「ああ。彩夜と楓のお土産にネックレスをな。それでさ、よかったらそのリング、日菜がもらってくれないか?」
「え、でも……」
「日菜、紫と紺が好きな色だったろ?」
「そうだけど──って、これわたしのために作ってくれたの!?」
「おう」
「そっか……ありがと!!」
日菜はリングを指にはめると、本日初の満開の笑顔を見せる。
気に入ってもらえたようでよかった。
「で?日菜はどうなの作ったんだ?」
「え!?その……」
日菜は出し渋るようにウッドレジンリングを手渡してくる。
「グレーに水色か、あんま日菜っぽくないな」
「一応その……鏡夜に作るつもりだったから……」
「……ふっ。考えてることは一緒か。にしても不格好だな」
「うっさい!」
日菜はオレの足をげしっと蹴ってくる。
その後の日菜は機嫌も直ったようで、文化祭終了までとても楽しそうにしていた。
文化祭二日目が終了し、オレはトーカと合流して家路につく。
「今日も特に変わったことなかったか?」
『そうね。ああ、そう言えば、桜ノ宮さんはお客さんが来て途中で帰っちゃったわよ』
「は!?いつ頃?」
『終了の1~2時間前くらいだったかな?』
「なんでその時報告しなかった!?」
『だって鏡夜楽しそうにしてたし、邪魔しちゃ悪いかな~って』
「いや、桔梗律と桜ノ宮真姫は最優先だって言ったろ!?」
『……』
はあ~……。
天使とは言え、トーカだって感情のある女の子だ。
トーカに攻略を丸投げして、オレだけ文化祭を楽しんでたんだから、トーカが不機嫌になって当然か。
「トーカ」
『……』
「トーカ!」
『なに?』
「任せっぱなしにしてごめん。明日は一緒に文化祭回らないか?」
『なに?気遣ってんの?』
「当たり前だろ」
『攻略はどうすんの?アタシに気遣って攻略が疎かになるとかはあり得ないからね!?』
「それはほら!トーカいても問題ないだろ?とにかく明日は一緒に回ろうぜ!」
『……まぁいいけど』
「それとさ」
『なに?』
「いつもありがとな」
『別に』
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の130話です!!
今回は英日菜との文化祭デート回!!
最後は文化祭を楽しんだ日菜!
さすがにトーカを放置しすぎ!!
次回は文化祭最終日回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




