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初恋強盗  作者: 御神大河
129/203

英日菜の不満爆発

 屋台で買った食べ物を片手にオレと姫路は校舎を回る。

 それにしても、トーカの姿を見ないな。桜ノ宮とも桔梗とも上手いことすれ違ってんのか?

 文化祭中、オレはここまで一度もトーカの姿を見ていない。ふわふわと浮いてるから結構見かけると思ったんだけどな。


「鏡夜はなにか見たいクラスとかある?」

「そうなー。二年三組と体育館でやってる演目は昨日見たから、それ以外かな」

「じゃあさ、もう一か所行きたいところがあるんだけど」

「いいぞ」


 姫路に連れてこられたのは美術部と写真部が合同でやっている写真パネル館であった。

 ここでは海中や宇宙空間などさまざまパネルを背景に写真を撮ることができる。その数、なんと30枚以上!

 しかも、自撮りはもちろん写真部にとってもらうこともできるそうだ。地味過ぎてそんなに繁盛してないな……。


「意外なチョイスだな」

「思い出になるし……嫌だった?」

「いや、オレは結構好きだぞ」


 オレと姫路は姫路のスマホで思い出を残してゆく。

 姫路曰く、スマホの方が仲良し感がでるし、保存も簡単でいいそうだ。


「あのさ」

「ん?」

「写真送らないとだし……鏡夜の連絡先教えて!!」

「いいけど──って、あーやべ」

「どうしたの?」

「スマホ、鞄の中だわ」

「携帯電話なんだから携帯しなさいよ」

「いや、普段ほとんど使わないし。悪いんだけど、連絡先は後でもいいか?」

「いいけど」


 写真パネル館で大量の写真を撮ったオレたちは、女子バスケ部の他校との親善試合を応援しに行くため体育館へと向かう。


「始まってるじゃん!」


 タイマーを見るとちょうど始まったところのようだ。


「結構人入ってるな」

「都大会の準々決勝で当たったカードだしね。後は普通に、うちの女バスは同性からも異性からも人気高いし」

「はえー。姫路ってバスケ好きなの?」

「うーん。普通かな?」


 普通と答えつつも、姫路はベンチにも負けないくらい声を張って全力で応援している。

 最近、姫路とよく話すようになってわかったことがある。

 姫路は交友関係が広く、そして人と関わることが好きだ。あんなことがあったにも関わらず、藍川とも櫟井とも良好な関係を築き直せているし、今回見て回った場所もほとんどが知り合い関係の出し物である。

 容姿もスタイルも良く、自分に対して自信があり、主張はハッキリとする。それでいながら周りの感情変化に聡く、積極的に他人との接点を持ち、周囲を引っ張っていけるリーダータイプ。

 攻略対象じゃなくってよかった。心の底からそう思う。



 試合が始まってから30分。

 オレは夢中で応援している姫路の肩を叩く。


「なに?」

「着替えもあるし、そろそろ準備した方がいいんじゃないか?」

「あ……そうね」


 姫路は少し残念そうに肩を落とす。


「明日は一日フリーなんだろ?まだまだ楽しめるじゃないか」

「そうだけど……ねえ!やっぱり明日も……って無理だよね……」


 オレは姫路を家庭科室まで送る。


「じゃあ、頑張れよ」

「うん。今日はありがと!あの!また、一緒に……」

「ああ。また、遊ぼう」

「あっ待って、連絡先!!」

「はいはい」


 姫路との約束が終わった。



 次は日菜との約束だ。

 そう言えば、風歌先輩と違って待ち合わせとかしてないけど、どうすればいいんだろう?

 家庭科室から出たオレが首を捻っていると、突如オレの腕にペンチで挟まれたような痛みが走り、オレは思わず声を上げる。

 痛みの正体は日菜だった。

 これは……機嫌が悪そうだ。日菜は笑顔で怒りを抑制しているように見える。


「おう、日菜。待ち合わせとかしてなかったから──イデデデデ!?」


 日菜はオレの耳を強くつねると、そのまま歩き始める。


「ちょ、ちょ、ちょ、待って!マジ待って!!」


 オレが日菜の手を軽くタップすると、日菜は手を放してくれる。


「イッツー。ちょい、いきなりなにすんの?」

「来て」

「え?」

「いいから来て!」


 これは相当ご立腹だな。こうなった日菜は頑固だからなー。

 オレは黙って日菜に従う。



 オレが連れて来られたのは体育倉庫であった。文化祭では当然使われていない。

 そんな体育倉庫のマットの上にオレを正座させると、日菜は扉を閉める。

 あー、これはヤバいわ。オレなにやらかした?

 オレは背筋を伸ばす。


「ねえ、鏡夜?」

「はい」

「あれ、どういうこと?」

「あれとは?」

「姫路透だっけ?なんであの女と一緒に文化祭回ってんの?なんで!?どういうこと!?説明して!!」


 いつも通り、日菜のボルテージが上がっていく。

 これは……そんにオレが悪くないパターンのやつね。


「わかった!わかったから!ちゃんと説明するから、立ってないで隣座れよ」


 オレは足を崩すと、隣に座るようポンポンと叩く。

 日菜はいまだ不満そうな表情をしているが、素直にオレの隣へと座る。


「いつも通り質疑応答形式にしようぜ。一個ずつな!嘘偽りなく答えるから」

「なんであの女と回ってたの?」

「誘われたからだよ。いつも一緒にいるメンバーと回れなくなったからオレを誘ってくれたんだと。日菜だって友達に誘われたら遊ぶだろ?それと一緒」

「付き合ってるんじゃないの?」

「付き合ってないな」

「じゃあ、わたしとの約束が一時からだったのはあいつのせい?」

「あいつって……」

「答えて!!」


 これが本題か。

 要は順番的に自分が姫路よりも軽く扱われたと思って不機嫌になってんだな。ったく、日菜ってこういうガキっぽいとこ昔から変わってねーよな。


「別に日菜を適当に扱ったわけじゃないからな?約束をするタイミングが姫路の方が早かったからこうなっただけだ」

「じゃあ、わたしが最初に約束してたら」

「その前に。今日の出し物の当番は?」

「午前中だけ」

「じゃあ、どっちにしろこの時間からじゃねーか!!」

「当番がなかったら!?」

「あん!?そん時は今日一日お前と回ってたよ!!」

「本当に?」

「本当に!!もういいだろ?せっかくの文化祭だってのにこんなことしてるとか勿体ねーだろ!行くぞ!!」


 オレは日菜の手を引いて体育倉庫から脱出する。

 日菜はわがままな面も多いが、割かし押しに弱い。

 やはりこういう時は普段彩夜が日菜に対してそうしているように、強引に解決するに限るな。

 案の定、日菜は素直について来る。

 だが、決して機嫌がよくなったわけではないことには注意が必要だ。ここから不愉快なことが続くと、さっき以上に爆発するのも日菜の特徴だ。


「日菜は行きたい出し物とかあるのか?」

「別に。鏡夜に任せる」


 なるほど。エスコートをご所望ね。


「日菜はもう何か食べたのか?」

「ううん」

「なら、とりあえずなにか食うか。なに食べたい?奢ってやるぞ」

「じゃあ、食堂で出てる文化祭限定メニューがいい」

「オーケー」


 そんなのがあるのか……知らなかった。

 食堂はピークを越えたのか、ちらほらと空席が見える。

 座席を確保すると、オレは食堂のメニュー表を日菜と一緒に眺める。


「へー。いろいろあるんだな」


 さすがは文化祭限定メニュー、球場かってくらい強気な値段設定だな。


「で、日菜のお目当てはどれだ?」

「これ」

「限定あんみつか、他は?」

「じゃあ、抹茶。鏡夜は?」

「オレは屋台で食べちゃったし、飲み物だけにするよ」

「む。姫路さんと食べたの?」

「そうだけど……お昼だったしそれはしょうがないだろ?」

「わたしは我慢してたのに……」


 運ばれてきたあんみつは限定品というだけあってかなり豪勢なものだった。

 あんこ、白玉、寒天の他に複数のフルーツがトッピングされ目にも鮮やかである。

 ただ、値段も相応の上に文化祭要素も不明である。

 まぁ、限定品なんて往々にしてそんなもんだし、思っていても口には出すまい。

 日菜も満足そうに頬張ってるしな。


「美味いか?」

「ん」


 日菜は口にあんみつを含んだまま、スプーンであんみつを掬い上げるとオレに差し出してくる。

 オレは差し出されたあんみつを口で受け取る。


「……意外」

「なにが?」


 日菜は目をパチクリさせている。


「だって、前は行儀が悪いって拒否されたから……」

「文化祭だしな」


 そんなこと言ったことあったっけ?

 オレは日菜が食べ終わるまでに、パンフレットを眺めながら次のプランを練る。

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の129話です!!

今回は二人と文化祭デート回!!

日菜の不満爆発!!

不機嫌解消なるか!?

次回は英日菜との文化祭デート回!!お楽しみに!


忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。

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