衝撃の猛襲
東江親子との会食を終えたオレは、楓とともに帰路へつく。
オレは楓の衝撃の告白により、いまだに半放心状態である。
そんなオレは楓にちょんちょんっと裾を引っ張られたことにより、我に返る。
「どうした?」
「今日は急だったのに、付き合ってくれてありがとね」
「ああ」
「あたし、これから頑張っていくから」
「ああ。応援してる」
「それでさ……」
「ん」
「もしさ、もしだよ?もしあたしが有名になったら……いや、やっぱなし!これはなんか違う気がする」
「なんだよ?なんか欲しいものでもあんのか?それなら、就職祝いと言うことでプレゼントしてやるぞ?
ああでも、あまりにも高い物はなしな。オレも金がいっぱいあるってわけじゃないから」
「そういうのじゃないから!」
「ホントか?遠慮してないか?」
「してないしてない!代わりにさ!あたしがビックになっても、鏡夜は変わらずにいてな?いきなり媚びてくるのとかなしだからな!」
楓は笑って拳を突き出す。
「もちろん」
楓の拳にオレも拳を合わせる。
「よーし!頑張ろう!!」
楓は両拳を天に突き上げる。
撮影で疲れているだろうに楓の表情はとても生き生きしている。
「……楓に会えてよかったな」
「え!?今何って言った!?」
おっと、声に出てたか。
「なんでもねーよ!」
「ウソ!楓に会えてよかったなって言っただろ!!」
「聞こえてんじゃねーか!」
「ねえねえ、なんでそう思ったの?」
「それは……」
「それは!?」
「楓を見ているとオレも頑張らなきゃなって思えて、もうひと踏ん張りできるんだよ。いつも上を向いててくれてありがとな」
「ふーん」
楓はにんまりと笑うと立ち止まる。
オレは何と言ったかはわからなかったが、楓の声が薄っすらと聞こえ振り返る。
「なんだって?」
「なんでもない!」
楓は小走りでオレの横に並び、歩き出す。
「さっきなんて言ったの?」
「教えなーい」
「えー。じゃあ、ヒント!」
「ダーメ」
うーん。これは教えてくれそうにないな。
って、そうだ!こんな下らんことしてる場合じゃねーや!一人暮らしの件聞かねーと!!
「楓」
「ん?」
「一人暮らしの話、いつから考えてたんだ?」
「鏡夜があたしにいろいろと教えてくれるようになった時。
鏡夜、あたしが一人暮らしできるように家事とか教えてくれてたんだろ?」
「!? ……なんで?」
「そりゃわかるよ。二ヵ月近く同じ家で過ごしてたんだぞ?これでもあたし、鏡夜のことなら彩夜の次くらいにはわかってると自負してるからな!」
楓は鼻高々に胸を張る。
そうか。楓がうちに泊まるようになってからもうそんなに経つのか……。
もうすっかり、オレにとっても彩夜にとっても家族の一員だな。
「そいつはお見それしました」
長い一日が終わり、オレたちは無事家に帰る。
玄関を開けると、彩夜が笑顔を張り付けて出迎えてくれた。
「「ただいまー……」」
「おかえり。楓、ちょっと上行ってて。アニキ、ちょっと話があるんだけど?」
「あ、はい」
その後オレは彩夜に今日の出来事を洗いざらい吐かされ、こってりと絞られた。
楓は一人暮らしをすると宣言してからしばらくの間、多忙を極めていた。
朝早く起きてオレの家事の手伝いをし、学校へ行く。学校が終わるとそのまま仕事場へ直行。日が沈んだ頃に帰ってきて、眠い目を擦りながら物件選びをしている。
それでいながら、楓は手を貸されることを極端に嫌がった。
朝の手伝いは大丈夫と言っても聞く耳持たないし、オレが物件を勝手に紹介するとその物件には住まないと言い出す始末だ。
楓曰く、これくらいは自分だけの力でなんとしないとこの先やっていけないらしい。
そんな楓の様子に、オレはぶっ倒れたりするんじゃないかと気が気ではなかった。正直、「高校卒業するまではオレが面倒見てやるから、仕事も一人暮らしもやめないか?」と言いたいほどであった。口が裂けてもそんなこと言えないけど……。
コンコンコン
オレの部屋のドアがノックされる。
「はーい」
オレが応えると楓が入ってきて、オレのベットへ寝っ転がる。
「どうした?」
「物件決まった」
「そうか。お疲れ様」
「うん。鏡夜、こっち来て」
楓に呼ばれ、オレは楓のそばに行く。
「ちょっとだけ甘やかしてほしい」
楓が素直に甘えてくるのは珍しいな。というか、初めてか。
オレは楓に膝枕すると優しく頭を撫でる。
「物件はこの辺なのか?」
「うん。実家よりはここに近い」
「そうか。じゃあ、なにか困ったことがあったらいつでも頼ってこい」
「うん。ありがと」
「でも、楓がいなくなると寂しくなるな」
「ホントにそう思ってるか?」
「当然だろ」
「そっか……」
しばらく撫でていると楓が体を起こし、こちらに向かって手を広げてくる。
「ギュッてして」
「え!?」
「ギュッ」
「はいはい」
これから一人暮らしをするとなると、やはり不安や寂しさがあるんだろうか?
本当は彩夜に怒られるしよくないんだが、まぁ今日くらいはいいか。
オレが楓を抱きしめると、楓も結構強めに抱きしめ返してくる。
コツコツコツと彩夜が階段を上ってくる音が聞こえ、楓がオレから離れる。
「あ、ありがと。じゃ!」
楓は慌てて部屋から出て行った。
それから数日後、楓は自分で見つけた新居へと引っ越しって行った。
なんやかんやでトータル二ヵ月くらいはうちにいたから寂しくなるな──と思っていたのだが、すぐに楓の新居に呼び出された。
しかも、なぜかオレだけ。
何の用だろう?
「今話題沸騰中の現役中学生モデルが一人暮らしの自宅に男なんか呼びつけたら、問題になるんじゃないか?」
「いいのいいの!気にしない!それよりも、そこ座って。あ、正座ね」
ん?正座?
オレは疑問に思いつつも座布団の上に正座する。
正座したオレの前に楓は紙袋を持ってきて、中身を取り出す。
その中身が目に入った瞬間、オレの心拍数が一気に上がる。
「ねえ、鏡夜。これなに?」
楓は笑顔を張り付けたまま質問してくる。
「げ、ゲームです」
「どういうゲーム?」
「女の子たちとの会話やストーリーを楽しむゲームです」
「会話やストーリーね……」
楓はパッケージの裏を紋所のようにオレに見せつけてくる。
「この裏のパッケージの女の子裸に見えるけど、なにやってんの?」
「ヨーグルトの補給を……。──ってなんで、お前がそれ持ってんだよ!」
「逆切れの前にまず素直に白状するのが先だろ!しょうもない言い訳しやがって!!これ以上見苦しい言い訳しやがったら、彩夜にも報告するからな!!」
「うぐっ!?」
彩夜を出すのは反則だろ!!
「で?エロイやつなんだろ?」
「エロいやつです」
「最初から素直に白状しろよな。
ちなみに、鏡夜の部屋にあったやつは全部確認させてもらったけど、他に隠してたりしないよな?」
いつの間に……全然気づかんかった。
「楓がどこをどう探したか知らんけど、オレの部屋以外には置いてないよ。ていうか、なんでオレの部屋漁ってんだよ!?」
「だって、男子の好みを知るなら部屋を漁るといいって記事に書いてあったし。それで探してみたらエロいの見つけて、まぁ男だししょうがないかーとか思ってたら、何十本も出てきて引いた」
くそっ!どこのどいつだか知らんがいらん記事書きやがって!
全世界の男性陣を代表して恨むからな!
「で、これを白状させるためにオレを呼び出したのか?」
「いや、これはついで、と言うかアリバイで……本当の要件はその~……」
え!?こんだけの内容がサブ扱いなの!?
オレは身構えた状態で楓の言葉を待つ。
楓は溜まったものを吐き出すことに躊躇しているのだろうか?
静寂が苦しい。
「あのさ……」
「おう」
楓が覚悟を決めた表情でオレの瞳を見つめる。
「あたし、鏡夜が好き」
「……へ?」
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の107話です!!
今回は楓の部屋で起こる衝撃回!!
見つかってはいけないものが!!
そして、この空気の中まさかの告白!!
次回は楓の告白に対しての鏡夜の返答回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




