きゅう
「っえ?バズールって好きな人がいるの?知らなかったわ」
「………ったく、知らなくていいんだよ」
バズールがまた不機嫌になった。
男心ってよくわからないわ。
「あっそう!せっかく協力してあげようと思ったのに!ねえ、サマンサもそう思うでしょう?」
「バズール様が本気でそう思うならいつでもわたしは協力します」
「………その時はよろしく」
「どうしてサマンサには頼むのにわたしには頼まないの?」
「……人間性?信用度?」
バズールがニヤッと笑った。
「………サマンサには負けるけど、わたしだって誠実だし純粋だし、真面目で頑張り屋で、それから……」
なんだか自分で言ってて惨めになってきたのでもうやめた。
「ごめん、ライナ。別に君のことを信用していないとかではないから。ただサマンサは俺の好きな人のことを知っているから、だからいざという時は頼もうと思っただけなんだ」
「どうしてサマンサは知っているの?わたしには教えてくれなかったのに」
「ライナ様、わたしはバズール様を見ていて気がついただけで教えてはいただいていません、それに正解か確認もしておりませんので間違っているかもしれません」
「ふうん見ていたらわかるの?」
わたしはバズールの顔をジーッと見つめた。
目と目が合ってお互い見つめ合ってだんだん顔が近づいてきて……
「ライナ、ちょ、ちょっと勘弁して。そんなに近づいたら……」
バズールはわたしから顔を離した。
「ふふ、キスされるかと思った?バズールの顔真っ赤っかよ?」
「ったく、いい加減にして」
不貞腐れたバズールはそれからしばらく話しかけても無視をする。
「ねえバズール、そろそろ機嫌を直して一緒に射的しましょう。真ん中に当たったら豪華な景品をくれるらしいわ」
「………俺が勝ったら一つだけ俺の言うことを聞いて。俺が負けたらライナの言うこと一つ聞くから」
「それって最初からバズールが勝つってこと?」
「俺が一発、ライナは三発撃つって言うのはどうかな?」
「それなら……勝負になるかな?」
お互い真剣勝負。
先攻はわたし。
一発目……………。
二発目……的の端っこ。
三発目……的の端っこ。
後攻はバズール。
一発目 真ん中!
「こんなのいくらハンデがあっても同じだったのでは?」
わたしは両頬をぷくっと膨らませて本気で怒った!
「だけど納得して受けたのはライナだよ?」
「そ、そ、そうだけど、なんだか納得いかないわ」
「じゃあ、あそこのフルーツ飴買ってあげるから怒らないで」
「うーん、いちごとぶどうがいいわ」
「サマンサは?」
「わたしは……いちごをお願いします」
「わかった、じゃあ買ってくるから待ってて」
わたしとサマンサはベンチに座って待っていた。
バズールは屋台で順番を待っている間もいろんな生徒に話しかけられていた。それをにこにこと笑いながら返事をしているのが見えた。
わたしの知っているバズールはわたしを揶揄ったり少し口が悪い奴なのに、学校でのバズールは生徒会長をしてみんなに慕われているのね。
わたしといる時何度も女子生徒からの嫉妬の視線を感じた。
あんなにモテるのに婚約者がいないなんて、やっぱり好きな人がいるからかしら?
するとそこにシエルがやって来た。
ーーさっきはリーリエ様のそばにいなかったから、護衛はお休みなのかと思ってたのに。
「ライナ、君はリーリエ様を泣かせて悪かったとは思っていないのか?」
「泣かせた?わたしはリーリエ様とお話すらしていないわ、ねぇ、サマンサ?」
「はいわたし達はリーリエ様のおそばから離れていました」
「リーリエ様はとてもショックを受けていた。君がバズールを無理矢理連れて去って行ったと聞いた。いくら従兄弟だからって男性とずっと一緒にいるなんて醜聞でしかないと思わないのか?
俺にだって立場がある。周りから婚約者が浮気をしているなんて言われたら恥ずかしいんだ。
もう少し考えて行動してほしい。それも主人であるリーリエ様を悲しませてそんなに君が性格が悪いなんて思ってもみなかった」
「わ、わたしはなにもしてい……「また言い訳かい?君は変わってしまったね。すぐに我儘を言ったり人が嫌だと思うことをしたりするなんて、こんなことでは婚約も考え直さないといけないかもしれないな」
「………シエルはわたしが変わったと思っているの?」
「ああ、リーリエ様が仰っていた。我儘を言ってバズールを連れ回して態とリーリエ様との時間を奪っているって。リーリエ様はバズールと約束していたのに君が意地悪ばかりしているんだろう?」
「………サマンサ行きましょう」
「待て、人の話を最後まで聞かないのか?君はそうやってすぐに逃げてばかりだな。リーリエ様と俺が親しいからってヤキモチ妬くのはやめて欲しい。
毎回君の我儘に振り回されるなら俺にも考えがある」
「我儘?振り回す?」
「俺がリーリエ様の屋敷で働くようになって君は俺を追って働き出した、それに仕事中も何かと監視して……はっきり言ってしつこいと思っていたんだ」
「……ご…めん…な……さい」
わたしはその一言をなんとか言い終わって逃げ出した。
ーーもう嫌だ、わたしは確かにシエルと同じ場所で働きたいと思った。そんなにおかしいことだったの?でもわたしは仕事はきちんとしてきた。
みんなに迷惑をかけるのだけは嫌だったしサボることもしなかった。
それに彼にとっては主人かもしれないけどわたしにとってはもう主人ではないわ。
わたしはリーリエ様に何もしていない。
わたしが何をしたと言うの?
「待って!」
シエルの声が背中で聞こえてきたけど何も考えずに走りだしていた。
サマンサのこともバズールのことも頭の中から消えていた。
ーーあっ……
我に返り走るのをやめて振り返った。
「ライナ様」
サマンサはわたしの後を追ってくれていた。
そして包み込むように抱きしめてくれた。