さんじゅう
「どうして婚約解消をする場にバズールはいたの?」
だってわたしはシエルの屋敷にお父様と二人で行ったはず。関係のないバズールが当たり前のようにお父様とおじ様と一緒にいるのはとても不思議だった。
婚約解消をする大事な日にわざわざシエルに会いに遊びに来るほど非常識な人ではないし。
ジーッとバズールを見つめていると、フイッとバズールは目を逸らして窓に顔を向けた。
「バズール?答えなさい!」
少し強めの口調でバズールに言った。
「………シエルがライナにまた酷いことを言うかもしれないと思って………気になって気がついたらシエルの屋敷に来てしまって……無理言って屋敷に入れてもらったんだ」
「バズールが来ていると門番から連絡が入ってね、通してもらったんだよ」
「お父様もおじ様もいるのだから心配しなくても大丈夫なのに……」
バズールがムスッとしたまま窓のほうを見ながら
「シエルは最近変わってしまっただろう?ライナの頬をまた叩くかもしれないしどんな酷いことを言うかわからないだろう?」
「……うん、シエル……なんだか変わってしまったよね、どうしてあんなにイライラして怖い顔つきになってしまったのかしら?」
「ミレガー伯爵家で色々言われたんだろう、あそこはじぶんの都合のいいことしか言わないみたいだからね」
「そう言えばミレガー伯爵は今どうなっているのですか?」
お父様に質問すると
「本人は密輸のことは認めていない。それにお前の誘拐や脅しに対しても認めてはいないし、ましてやお前を殺そうとしていたことは全く認めていない。
まぁ認めて仕舞えば処刑されることはわかっているからな。簡単には認めないだろうが、王族の影が彼についていたからな。認めなくても影の証言だけで全て認められるだろう」
「そうですね、王太子殿下に頼んで影をつけてもらって正解でしたね。元々悪い噂が出ていたし、おじさんが裁判を起こすと言い出したら向こうは何をしてくるかわからなかったから警戒していて正解でしたね」
「バズールが殿下に頼んで影をつけてくれたおかげでミレガー伯爵の罪を問うことが出来て感謝しているわ」
「うん、王太子殿下に俺が調べたミレガー伯爵の悪事を話したら彼を調べるために影をつけてくれたんだ。だけどもっと早く動いていれば君が酷い目に遭うことはなかった。あいつらが店に文句を言いにきて怪我をすることも、ミレガー夫人に酷いことを言われることもなかった。リーリエ嬢にいいように言われて悪い噂を流されずに済んだのに……」
「それはわたしも同じだ、爵位が邪魔をしてなかなか動けないでいたからな。商売には爵位なんて必要ないと思っていた。あまり上の爵位だと威圧的になるし商売人にとっては下くらいで丁度いいと思っていたんだ。何かあればバズールのところが口を利いてくれるので困ることはなかった」
「バズール、本当は会ったらお礼を言うつもりだったの……社交界の噂はユミエル達やエリオス様がバズールと協力して否定してくれたと聞いたわ、バズール、ありがとう。
お礼を言うのが遅くなってごめんなさい、久しぶりに友人に会って聞いたの。リーリエ様に頼まれた取巻きの人達がわたしの悪い噂を流していたと聞いたわ、このままではわたしは社交界にすら顔を出すことが出来なくなっていたわ。商会の跡取りとして致命的だった。みんなが守ってくれたと聞いて嬉しかった……ありがとう」
「あれは俺だけでは出来なかった、ユミエル嬢達が率先して動いてくれたから出来たんだ」
「ううん、みんなの気持ちがとっても嬉しかった」
バズールは頭をぽりぽりと掻いて、「ライナにお礼を言われるとなんだか照れるからやめて」とバツが悪そうに言った。
「せっかく真面目にお礼を言ったのに」と反論すると
「でもみんな心配してたんだ、ライナはみんなを巻き込みたくなくて愚痴の一つも言わなかったんだろう?みんな寂しがってた、少しはみんなを頼れよ」
「うん、ありがとう、今度みんなに会ったら大好きって言ってありがとうをたくさん言うつもり」
バズールはそのままうちの屋敷についてきた。
「せっかくなので久しぶりにパシェード家の料理を堪能したいからね」
ちゃっかり食事までして帰るつもりらしい。
文句は言ったけどバズールがシエルとの話の時駆けつけてくれて本当は嬉しかった。
シエルはわたしの話を受け入れられずとても不機嫌になり、わたし自身どうしていいのかわからなくなっていたから。




