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今夜さよならをします  作者: たろ
第1章
3/109

さん

 シエルに頬を叩かれた後腫れが引かずにわたしは仕事を早退することになった。


 奥様に事情を聞かれたが黙っていた。でも他の人達が見ていて洗いざらい話してしまった。


「ライナ、ごめんなさいね。うちのリーリエが二人のデートを邪魔してシエルを連れ回していたのね。それなのにシエルはあなたを責めたと聞いたわ」


 奥様はリーリエ様を溺愛している。でも使用人にも使用人のプライベートがあって無理やり扱き使うことは駄目だときちんと話してはいた。


「シエルのこと気に入ってしまって離そうとしないから……シエルは真面目な人だからリーリエのことをきちんと護衛しようとしてくれているのよね」


 ーーいえ違います。シエルはあなたの娘に懸想しているのです。

 なんて言えるわけもなく……


「大丈夫です、もう気持ちはスッキリとしていますので」ーーーあんな暴力男別れてやるんだから!



 それからは屋敷でシエルに会っても話すことはない。

 何か言いたそうにしているけど、完全に無視!むし!


 リーリエ様はわたしとシエルの最悪な関係が嬉しいのかわたしの前でシエルに甘えている。

 シエルは困った顔をしながらも彼女の言うことはなんでも聞いてあげているようだ。


 わたしは3年目で退職をすることにした。


「申し訳ございません、お世話になりました」


 奥様は残念そうに言ってくれた。


「ライナは気が利いているし連れて歩いても貴族令嬢だから作法もしっかりしているし安心だったのに、寂しくなるわ」


「ありがとうございます」


「ライナはシエルと結婚するのね?」

 そんな馬鹿なことを聞く奥様にわたしは笑顔で答えた。


「ふふ、そうなったらいいですね」

 他人事のような答えを言って適当に誤魔化した。


 ーーわたしとシエルの関係はもう終わっている。まだ婚約解消はしていないけど会うことはもちろんないし話すらしていない。


 今日わたしがこの屋敷を辞めることすら彼は知らない。


 そしてわたしはこの屋敷を後にした。




 ーーーーー


「ただいま帰りました」


 自分の屋敷に帰るとメイドのサマンサが急いでそばに来て荷物を受け取ってくれた。


 わたしはすぐに自分の部屋に入りそのままベッドに寝転んだ。


「あーーー!わたしよく頑張ったわ!しばらくは好きに過ごすわ」



 それを見たサマンサが「お嬢様お疲れ様でした」と言ってくれた。その言葉に涙が溢れて


「わたし……頑張ったよね?シエルのそばに居たくて伯爵家で3年も働いたもの」


「はい、男爵家とは言え、こちらはとても裕福な屋敷でお嬢様は働く必要などなかったのによく頑張ったと思います」


「うん、褒めて褒めて!」


 それからしばらくは本当にのんびりと過ごした。


 友人達とお茶をしてお母様とゆっくり本を読んだりお庭を散歩したり、今まで忙しく働いた時間を取り戻すように好きなことだけをして過ごした。


 その間シエルから連絡はあったようだけどお父様は全て断ってくれたので会うことはなかった。





「バズール様がお見えになりました」


「久しぶりね」


「のんびりしすぎて太ったんじゃない?」


「レディにその言葉は禁句よ!」


「疲れ切った顔より今のふくよかな顔の方がいいと思う」


「疲れ切ってたかな?」


「うん、まぁ、見てて可哀想だった」


「そっかあ……もう気分はスッキリしたの。グジグジと悩んでいたけど婚約解消することにしたの。お父様も了解してくれたわ、シエルのおじ様にももう伝えてあるの」


「これからどうするの?」


「うーん、とりあえずしばらくはお父様のお仕事を手伝おうかと思っているの」


 お父様は外国から食品やお酒の輸入販売をして国内で成功を収めている。おかげでしがない男爵家なのに裕福な家庭だ。


 本当はシエルにいずれは我が家に婿に入ってもらって継いでもらうことになっていたけど、リーリエ様に懸想しているシエルとの結婚はあり得ない。


 なのでわたしは新しい婿を探すことになる。


「婿探しと、とりあえずは社交界デビューよ!」




 そして待ちに待った社交界デビュー。


 エスコートはお父様。


 国王王妃両陛下にご挨拶をしてわたしはお父様とファーストダンスを踊った。


 まだ正式に婚約解消はできていない。だけどシエルがわたしを迎えにくることはなかった。

 お父様曰くシエルは解消されることは知らないらしい。なのに迎えにこないということは……ドタキャンするつもりだったのだろう。まぁこちらも会いたくなかったので避けていたとは言えわたしの初の夜会参加にすらドタキャンする婚約者。

 やはり解消して正解だと思った。


 その後、バズールがわたしのそばに来て


「ライナ様お手をどうぞ」とわたしに手を差し出してくれた。

「ふふ、ありがとうございます」

 わたしも頭を下げてお礼を言うと二人で踊り始めた。


 従兄弟なんて兄妹みたいなものだから気が付かなかったけど、女性達のバズールを見る視線はとても熱いものだった。そしてわたしを見る冷たい視線と睨みあげる目。

 この差は何?彼にとってわたしはただの従姉妹です!と声を大にして言いたくなった。


 まぁ確かに伯爵家の嫡男で生徒会長をしているくらいだから頭もいい。顔も……悔しいけどカッコいいと思う。

 性格はわたしに対してだけ悪いけど、みんなには平等に優しい。そう、平等に。

 リーリエ様には微妙だったけど。


 あの後バズールから聞いたのだけど、リーリエ様は男子の前で「バズール様にとても冷たい態度をとられて辛かった」と涙ながらに話していたらしい。


 でも成績優秀で口も立つ生徒会長には誰も逆らえずリーリエ様はバズールに仕返し出来なくて、いつもの儚げな顔がバズールの前でだけ、鬼のように不細工な顔で睨んでいたらしい。


 ーー鬼のように不細工って何?って聞いたら「想像してみて」と言われて必死で想像してみた。


 でもよくわからなかった。頭のいい人の言葉はよくわからない。


 とりあえずバズールと何故か3回も続けて踊ってわたしはクタクタになって緊張のデビュタントが終わった。












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