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今夜さよならをします  作者: たろ
第1章
21/109

シエル⑩

 ライナとのデートが悲惨な終わり方をした。


 トボトボと家に帰ると母上は俺を見ても何も言わなかった。

 俺を見て呆れているようだけど、ライナと上手く行っていないことはわかっているみたいだ。

 それはそうだ、ライナが全く屋敷に遊びに来なくなったし、両親とライナの両親は仲が良い。


 だから俺たちが上手くいっていないことは聞いているだろうし、全て知っているのだろう。

 俺がライナとのデートを何度もキャンセルしたことも知っていて最初は苦言を言われていたが最近では両親も兄上達も何も言わなくなった。


 俺自身もどうしたらいいのかわからなくなっていた。


 ライナのことはもちろん今も愛している。だからこそ自分の力で自立して彼女と結婚したい。

 いずれは彼女の実家を継がなければいけないのもわかっている。だが結婚する時は婿入りするのではなく彼女に求婚して嫁として貰い受けたい。


 なのに俺のしていることはライナを悲しませ感情に任せて怒ってばかりだ。あんなことを言いたいわけではないのに……ライナを見るとついイライラとして思っていないことを言ってしまう。

 本当は噂なんて信じていない。みんながライナに対して羨んでいるからこそ出る言葉なのだと頭ではわかっている。


 自分でもよくわからないこの感情を持て余している。




 ーーーーー


 今日はリーリエ様の学校の学園祭。


 少し離れたところでの護衛につくことになっている。

 楽しそうに同級生と学園祭を回る姿。

 ……ただリーリエ様は女子生徒が苦手なのかいつも周りにいるのは男子生徒ばかりだが。それでも楽しそうにしている姿を見れば護衛としてはホッとして見守ることができる。


 そんなとき……ライナとサマンサの姿を見つけた。


 二人で楽しそうに学園祭を回っている。


「あれ、メイドをやめたライナだよな?」

「……そうだと思います」


「なぁ、やっぱり可愛いよな、声かけてみるか?」

「………仕事中ですよ」


「はぁ、一回くらい声かけて抱きたかった。あの体絶対脱がしたら綺麗だと思わないか?」

「………な、なんて事言うんですか?」


「ライナは、声かけたら結構ついてくるらしいぜ。メイド仲間がそう言ってたからな」

「……そんなわけないでしょう……」


「お前はモテるからライナのことなんて興味ないか。リーリエ様のお気に入りだしな。ライナは明るくて綺麗だけど男にはだらしないらしい。あの笑顔で男をたらし込んでいるとメイド達が言ってたぜ」

「……ライナはそんな子ではありません」


「うわぁお前もライナにたらし込まれた一人なのか?」

「そんなわけないでしょう!」


 ーーなんなんだ、ライナが男にだらしない?そんなわけないだろう!




 俺たちが遠目でリーリエ様を見守っていると楽しそうに歩いているライナとサマンサ、そしてバズールを見かけた。そしてリーリエ様とすれ違う。


「あら?バズール様ぁ?」


 リーリエ様がバズールに話しかけた。


 周りにいる男子はバズールの横にいるライナを睨んでいるのがわかった。

 ーーバズールに嬉しそうに話しかけるリーリエ様が気に入らずに、何故かバズールをにらまず横のライナを睨んでいるようだった。


 ライナは溜息を吐きながらみんなの邪魔にならないようにサマンサと二人で廊下の端っこにぼーっと立っていた。


「バズール様ぁご一緒にまわりませんか?」


「いえ結構です」

 リーリエ様を一瞥してさっさと立ち去ろうとするバズールの腕を掴んだ。

「バズール様ぁ、リーリエはあなたをお慕い申しております。是非一緒に回りたいのです」

 瞳をうるうると潤ませて泣きそうになりながらバズールの服を掴んでいるリーリ様。


「サマンサ、行こう」

 ライナは二人で立ち去ろうとしていた。


「おい!ライナ置いていくな!すまないけど僕は今彼女達と回っているんで君とは回れない。君はそんなにたくさんの彼氏と一緒なんだから僕は必要ないと思うんだ」


 バズールはリーリエ様に笑って、みんなに「じゃあ僕は行くね」と手を振りライナのところへと駆け寄った。


「ったく、俺を置いていくなよ!勘弁してくれよ」


「バズール、貴方ってかなりモテるのね。リーリエ様はもちろんだけど貴方といると色んなところからとても怖い視線が突き刺さってくるのだけど、女子に手を出しまくっているの?」


「そんなわけないだろう?俺って一途なんだから。ずっと失恋しているのに」


「っえ?バズールって好きな人がいるの?知らなかったわ」


「………ったく、知らなくていいんだよ」


 耳を澄ましていたら二人の会話がかすかに聞こえてきた。

 ーーライナのことを好きだとバズールが言っているのがわかる。なのに……ライナは気が付いていない。


 それよりも、何で婚約者がいるのに他の男と学園祭を回っているんだ。それも俺に気がつきもしない。俺たちが護衛で目立たないようにしているとはいえこんな近くにいるのに……バズールは俺に気が付いているし、サマンサなんか気がついていて俺のことを無視している。


 なんなんだ!

 リーリエ様がバズールに振られたことよりライナがバズールといることに腹が立って仕方がなかった。

 飛び出して文句言いたくなるのをぐっと堪えていた。

 う

 先輩はそれを見て

「リーリエ様可哀想に。ライナと一緒にいる男、あんな可愛らしいリーリエ様に声をかけられたのにライナの綺麗さを取ったんだ。やっぱり男を惑わせているのはライナなんだ」


 ーーんなわけねぇだろ!

 横の先輩を殴りつけたい気分だった。



 俺が休憩に入るとライナ達の姿を探した。


 ライナとサマンサがベンチに座っていた。


 二人の視線はバズールの方へ向いていた。


 話しかけるだけのつもりだったのに……

 出てきた言葉は………


「ライナ、君はリーリエ様を泣かせて悪かったとは思っていないのか?」


「泣かせた?わたしはリーリエ様とお話すらしていないわ、ねぇ、サマンサ?」


「はいわたし達はリーリエ様のおそばから離れていました」


「リーリエ様はとてもショックを受けていた。君がバズールを無理矢理連れて去って言ったと聞いた。いくら従兄弟だからって男性とずっと一緒にいるなんて醜聞でしかないと思わないのか?

 俺にだって立場がある。周りから婚約者が浮気をしているなんて言われたら恥ずかしいんだ。

 もう少し考えて行動してほしい。それも主人であるリーリエ様を悲しませてそんなに君が性格が悪いなんて思ってもみなかった」


「わ、わたしはなにもしてい……「また言い訳かい?君は変わってしまったね。すぐに我儘を言ったり人が嫌だと思うことをしたりするなんて、こんなことでは婚約も考え直さないといけないかもしれないな」


「………シエルはわたしが変わったと思っているの?」


「ああ、リーリエ様が仰っていた。我儘を言ってバズールを連れ回して態とリーリエ様との時間を奪っているって。リーリエ様はバズールと約束していたのに君が意地悪ばかりしているんだろう?」


 ーーさっきリーリエ様は悲しそうに「ライナはいつもバズール様を独り占めしてわたしを睨むの…どうして邪魔ばかりするのかしら?」と瞳に涙をためていた。


「………サマンサ行きましょう」


「待て、人の話を最後まで聞かないのか?君はそうやってすぐに逃げてばかりだな。リーリエ様と俺が親しいからってヤキモチ焼くのはやめて欲しい。

 毎回君の我儘に振り回されるなら俺にも考えがある」


「我儘?振り回す?」


「俺がリーリエ様の屋敷で働くようになって君は俺を追って働き出した、それに仕事中も何かと監視して……はっきり言ってしつこいと思っていたんだ」


 ーー言い過ぎた。そんなこと思ってもいないのに……だけど止められなかった。

 なんでバズールと仲良くしているんだ、そう思うと責めずにいられなかった。


「……ご…めん…な……さい」

 ライナはそう言い終わると走り出した。


「待って!」


 ライナは走って去って行った。

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