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今夜さよならをします  作者: たろ
第1章
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シエル⑧

 俺たちの姿が消えた後ライナは席を立ち深々と頭を下げて詫びたらしい。


「皆様申し訳ございませんでした、せっかくの楽しいお茶会の時に嫌な気分にさせてしまったことお詫び申し上げます」

 母上も一人一人に謝罪してまわったと、仕事が終わり屋敷に戻ると父上に呼び出されて言われて説教をされた。


 ーー俺は感情に任せて酷いことばかりしている。なんでだ。なんでこんなことになってるんだ。



 リーリエ様を連れて屋敷に帰るとリーリエ様は俺にそっと寄り添うようにくっついてきた。


「シエルどうしてライナはあんなに意地悪なのかしら?バズール様のことだってわたしが近づかないようにしているみたいだし……バズール様だって本当はわたしと話したいと思うの。だって学校でも何度も目が合うのよ?

 シエルとのことだってわたしが悪者みたいに……ここでもメイドに対して傲慢な態度をとっていたと聞くし、仕事もサボってばかりでとても評判が悪かったの、だから辞めてくれてよかったと思うのよ」


 ーー俺はそんな話を全く知らなかった。それが事実ならライナは俺の前でだけいい子でいたということなのか?




 ーーーーー


 俺はお茶会でのことも含めてライナと話をしたかった。

 先輩達に頼み込んでなんとか休みをもぎ取ることにした。


「今度どうしても休みが欲しいんです」


 先輩達との休憩の時に話をすることにした。


「リーリエ様の護衛騎士になったら俺たちの時間は全てリーリエ様に使うつもりでいるように言っただろう?それにお前はリーリエ様に一番頼られているんだ」


「ったく、リーリエ様付きになってまだ日が浅いくせに顔がいいと得だよな。リーリエ様のお気に入りなんだから」


「奥様もシエルの事気に入ってるし、いずれは伯爵家の当主になれるんじゃないか?お前男爵家の貴族だし」


 先輩達は僻みから俺が休みを取れないようにわざとシフトを組む。そしてリーリエ様の突然のお出かけには必ず俺をつかせる。


 他のメイド達が俺に話しかけようものならまたさらに嫌がらせをしてくる。

 リーリエ様が俺を気に入ってくれているのはわかっている。でも俺はリーリエ様に特別な気持ちがあるわけではない。

 主人として仕えているだけで病弱なリーリエ様をお護りしているだけのつもりだ。


 やっとなんとか休みを取れた。

 そしてライナに会いたいと手紙を書いて伝えた。

 しばらく返事が来なかったが今回はきちんと会う約束ができた。

 やっとプレゼントの指輪を渡せる。


 俺はこれを機会になんとか修復できるのではと期待を込めていた。



 なのに……


 リーリエ様が「シエル怖くて眠れないの。夜の夜勤はシエルがしてちょうだい。そばに居てくれるでしょう?」


「それは出来かねます」


 俺はさすがに醜聞にもなるしそんなことで悪い噂が立つのは避けたかった。

 あと少しで王宮騎士になるための推薦状を書いてもらえるのにこんなことでパーになりたくはなかった。だって後少し辛抱すれば伯爵家を辞めて俺の力でライナを養っていける。婿になっても俺自身にもきちんと稼ぎがあればライナとも対等でいられる。


「どうして?怖いの。お願いそばに居てちょうだい」

 リーリエ様は涙をためて俺に訴えた。


 隣にいた先輩は「頷け!」と囁いた。


 俺は「無理です」と小さく言った。


「シエルは今夜から夜勤につけます。リーリエ様安心してください」


「な、何故?出来ないと言ったではない……「いい加減にしろ。リーリエ様の頼みだ」


 先輩は俺の話など聞く耳を持たなかった。


 その後奥様に呼ばれた。


「シエル、今夜から夜勤についてくれると聞いたわ。リーリエは貴方を頼っているからよろしくね」


「………はい」


 俺はどうすればいいのかわからなかった。でも二人っきりだけはなりたくない。


 相方と二人でリーリエ様の部屋で夜の護衛をすることにした。

 リーリエ様がいくら「シエル、一人で入ってきてちょうだい」と言われても

「一人で女性の部屋に入ることはできません。2人で護衛をさせていただきます」

 と、断っていたのに……何故か俺は夜な夜なリーリエ様の部屋に通っているという噂が立っていた。


 ライナが辞めていてよかった。もしまだ働いていたら完全に勘違いされて俺達はどうなっていたのだろう。婚約解消されても仕方がない状態になっていだかもしれない。




 ライナとの約束の場所は、いつもデートをしていた大きな公園だった。

 ベンチに座り噴水を眺めているライナ。

 俺の方を全く見ようとしない。


 俺はどうすればいいのかわからず悩んで黙っていたが、思い切って出た言葉は自分でも驚くほど怒っているような言葉になってしまった。



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