シエル編⑤
次の日朝早く目が覚めた。
伯爵家に行くと会えないかとライナの姿を探した。
朝早いので控え室にいるのではと声をかけてみた。
「ライナ、話がある」
控え室にいたライナはそっと顔を覗かせた。
「……シエル…どうしたの?」
ライナが驚きながらも控え室から廊下に出てきた。
俺はイライラしていてつい怒った顔になっていたようだ。
ライナは困った顔をしていた。
なのについ感情的に聞いてしまった。
「何故バズールと一緒に買い物をしていたんだ?」
「え?ドレスを取りに行くのについて来てもらっただけよ?」
ーー俺と行くんじゃなかったのか?そう言いたいのに俺から断ったんだ……だからその言葉を言うことは出来なかった。
「リーリエ様はとても傷ついていたんだ。バズールはなんであんな態度をとったんだ?」
ついリーリエ様のことを持ち出した。
バズールに対しては腹が立っていたから。
「あんな態度?バズールの態度におかしいところはなかったはずよ」
すぐにバズールを庇うライナ。
「リーリエ様が学校で食事を一緒にしてあげると言ったのに断ったじゃないか」
リーリエ様の言った言葉はおかしいとわかっていた。でも責めずにいられなかった。
ーー俺はバズールのことになると気が短くなる。
「それはバズールも言ったでしょう?友人でも知人でもない挨拶しただけの関係なのだから、してあげるはないと思うわ」
ーー俺だってそう思う。リーリエ様の言い方がおかしいことくらい分かっている。
「リーリエ様に誘われて喜ばない男なんているわけがないだろう」
ーーバズールがライナのことよりリーリエ様を選んでくれればいい。もうこれ以上ライナに関わってほしくなかった。
「……はあ……………いるから断ったのではないのかしら?それにバズールは伯爵家の嫡男よ、別にリーリエ様のご機嫌伺いなんてする必要はないのだからわたしに文句を言うのはおかしいのではないかしら?」
バチっ!
思わず手が出てしまった。
俺は生まれて初めて人を叩いた。
それも大好きなライナのことを。
ーーなんでバズールのことを庇う、なんで俺の気持ちが伝わらない。
そんな気持ちから…つい………
「…あっ……ライ……ナ………ご、ごめん」
俺は動揺していた。
「シエル、わたしはあなたにどうして叩かれないといけないのかしら?昨日はわたしとの約束を断ったからバズールに付き合ってもらったの。昨日だけは一緒にいて欲しかった。なのに……」
控え室から出て来たメイドの仲間達がライナの頬を見て「ライナ?どうしたの?」
「頬を急いで冷やさないと!」
ライナは半べそになっていたのに、他のみんなの優しい言葉に耐えられなくなったのか涙が溢れていた。
ーーちゃんと謝らないと。
そう思っているのに体が動かない。
ライナが俺の目の前から連れて行かれた。
そしてライナと仲がいい、俺たちの婚約を知っているメイドから
「どんな理由があるのか知らないけど叩くなんて最低だわ」
と、怒りの声。
俺は自分がしたことを後悔しながら呆然と立ち尽くした。




