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今夜さよならをします  作者: たろ
第1章
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いち

 幼馴染のシエルには騎士として仕える伯爵家のお嬢様であるリーリエ様しか見えていない。


 わたしもシエルもこの屋敷の使用人として働き出して3年が経った。


 初めてリーリエ様を見た時息をのんだ。


 儚げで可愛らしい、いまは15歳の少女。


 少し体が弱く家族からも使用人からも大事にされる伯爵令嬢。


 わたしはしがない名前だけの男爵令嬢。高等部へはいかずにミレガー伯爵家でメイドとして働き出した。

 シエルの紹介で雇われることになったのだ。


 婚約者でもあるシエルは幼馴染で同じように男爵家の三男。

 中等部は騎士科に入り15歳で騎士になった。

 そして今は伯爵家の騎士として雇われている。

 いずれは王宮騎士を目指して精進している19歳。


 わたしは奥様付きのメイドとして働いている。シエルはリーリエ様専用の騎士に最近なったばかり。


 リーリエ様は高等部に通われているので専属騎士であるシエルは朝早くから夜遅くまでリーリエ様について回る。もちろんあと二人専属の騎士がいて三人で勤務を回しているので休みはある。

 休みはあるはずなのに……お気に入りであるシエルはリーリエ様から離れることができない。

 いや、本人も「シエルは今日はお休みなの?」と寂しそうに言われると休みを返上して任務に就いてしまう。


 ーーわたしって婚約者だよね?

 たまにシエルに確認したくなる。


 彼は背が高く金色の髪に整った顔立ち。

 そして騎士には見えない優しい雰囲気があるので騎士科にいる時からかなり人気があった。


 でも女の子に優しくても浮気なんてしなかった。


 わたしとシエルは両親が仲が良くていつも一緒に遊んだ仲だ。そしてそのまま自然と婚約者になり今は同じ屋敷で働いている。



「シエル明日の休みなんだけど……「ごめん、明日はリーリエ様がどうしても劇を観に行きたいと言われて護衛としてついて行かないといけなくなったんだ」


「そう……大丈夫よ」

 わたしは作り笑いをしてシエルに何でもないことのように返した。


 ーー本当はひと月ぶりのデートなので楽しみにしていたのに。

 シエルは忘れているのね、明日がわたしの誕生日だと言うこと。

 18歳になるのでわたしもやっと成人する。

 今度夜会で社交界デビューもすることになっていてシエルにエスコートもお願いしていた。


 明日は夜会用のドレスを取りに行きランチでも食べようと話していたはずなのに。


「仕方ないわ、荷物もあるから従兄弟のバズールについて来てもらおう」

 バズールはお母様の兄の息子、伯爵家の長男でわたしと同じ歳。

 今は高等部に通っている。


 あ、ちなみに高等部へ行かなかったのはシエルが働く伯爵家で自分も働きたかったから。

 少しでも彼の近くにいたい恋心からだった。


 だけど、今は失敗したかなと思っている。

 リーリエ様がシエルに甘える姿を見るたびに心がチクチクと痛む。


「ライナ、そんなムスッとして歩くのやめてよ」


「バズールはわたしのどこを見てムスッとしていると言うの?こんな笑顔なのに」


 ーーどう見ても不機嫌なのは確か。バズールに八つ当たりしても仕方がないのに、つい当たってしまう。



「ったく、シエルはライナを放って何してんだよ」


「休日返上でお嬢様の護衛らしいわ」


「リーリエ嬢だろう?学園でも噂になってる。儚げで護ってやりたくなるって、男子からはね。女子からは結構嫌われてる」


「え?なんで?」


「だって婚約者のいる男子に媚びて二人の関係を壊して楽しんでいるらしいよ。って俺の友達が言ってた」


「………わたしとシエルのことも壊したいのかしら?」


「うーん、あり得るね」


「ふー、でもそれで壊れるならそれまでの関係なのかも」


「あんなにシエルが大好きだったのにいいの?」


「最近あまりにもデートをキャンセルされるし屋敷では目も合わせてくれないの。もうそろそろ我慢の限界は過ぎたかも」


「じゃあ今度の夜会はどうするの?」


「エスコートならお父様がいるし諦めるわ」


 ドレスを取りに入ったお店には何故かお嬢様とシエルがいた。


「……あ……お嬢様、こんにちは」

 わたしは慌てて頭を下げて挨拶をした。

 隣にいたバズールはリーリエ様と爵位が同じなので自ら挨拶をすることはない。


「あら?ライナ、今日はデートなの?」


 わたしはその言葉に顔を引き攣らせながらも笑顔で答えた。


「彼はフェルドナー伯爵の嫡男のバズールと申します、わたしの従兄弟なんです。今日はドレスを取りにきたので付き合ってもらっています」


 わたしは『彼はあなたと同じ爵位です』よ、上から目線で見ないでくださいねと言う気持ちを込めて笑顔で答えた。

 そしてシエルには今日はドレスを取りにくる約束をした日なの覚えているの?と言ったつもりだった。



 ……でも全く二人には通用していなかったみたい。


「バズール様って言ったら3年生の?成績が優秀で生徒会長をされていますよね?お会いしてみたかったの。今度学校でご一緒にランチしませんか?」


 笑顔で彼に甘えるように声をかけた。


 シエルはそれを優しく見守っていた。わたしに一切興味を示すことなく。


「俺が君と?何故?」


「え?」

 バズールの反応にリーリエ様は怪訝な顔をして


「だってせっかく知り合いになったのですもの、だからランチくらい一緒に食べて差し上げたいの」


「いや結構です、知り合いっていま初めて顔を知って挨拶しただけだよね?知り合いでも友達でもないからね」


「……そんな酷いわ」

 目に涙をためて潤んだ瞳でバズールを見つめた。


 ーーうん、男はこれに引っかかるのよね。シエルのように。


「酷い?別におかしなことは言っていないよ。ライナ行くよ、君のために予約をとっている『マルシェ』の時間が間に合わなくなるよ。さっさとドレスをもらって行こう」


 バズールは付き合いきれないといった顔をしてリーリエ様からさっさと離れてわたしの肩を抱き寄せて店の中へと入った。


「マルシェ?あのなかなか予約が取れないお店?え?狡い」

 遠くからそんな声が聞こえてきたけどバズールは完全無視。


 わたしの耳元で囁いた。


「うわぁ、あの子、ヤバイな、自分が声をかければどんな男も靡くと思っているよ」


 わたしは後ろをチラッと振り返るとシエルがリーリエ様にそっと寄り添って慰めていた。


 ーーわたし達が悪者?
















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