罵られたい聖女様
一人の少女が、舞台を歩いている。
劇場のように椅子が並ぶ薄暗い室内。カツ、カツと少女の歩く音だけが反響する。椅子には人が大勢座っていて、みな同じ制服身にまとい、彼ら彼女らは目の前にいるただ一人だけの少女に注目していた。
あるものは恍惚、またある者は尊敬、またある者は妬み。
それぞれの感情を瞳に宿し、少女の一挙手一投足を見逃さまいと凝視する。
やがて少女が上手から舞台の中心へと到達し、ゆっくりと優美に生徒たちへと振り向く。
長い銀髪がふわりと揺れ、美しく、凛々しくも優しげがあり自信に満ちた彼女の顔はこの場にいる全員を魅了した。
ここは王立魔法学校マゾエム。
地方でも特に優秀な者たちだけが13歳から18歳まで在学できる学校で、今日はその入学式である。
そして、彼女はその中でも過去にない全科目満点という異例の成績で入学を果たした。
彼女がおもむろに魔動音声拡声器に口を開く。
「ーーー魔法とは、なんなのでしょうか」
彼女が発したのは、疑問。
地球と違いこの世界には魔法が存在する。
魔法を扱える能力には個人差があり、ときに努力では絶対的に追いつけない才能を持つ者もいる。
地球でいうところの学力や、財力といったものの中に、この世界では「魔法」が関わってくる。
「私が言いたいのは原理的な話ではありません。すなわち、魔法の社会的な立場についてです。魔法を扱える能力には、個人差があります。才能があり、格差があります。魔法をうまく扱える者は優遇され、扱えないものは下に見られる。それが今の社会の現実です」
そう言って、少し間を挟む。大きく息を吸い、彼女は続ける。
「ですが、本当にそれでよいのでしょうか?魔法をうまく扱えず財力のない家庭の子供もまた、魔法をうまく扱える可能性は少ないです。それは、教育が平等にいきわたっていないからです。今日、魔法によって可能になったことはたくさんあります。しかし、それらは格差を助長しているのです。そんなことがあっても良いのでしょうか?」
彼女の言葉に、この場にいる全員がハッとする。
この世界において魔法の力というのは絶対的だ。地球で学力が高い人が成功しやすいように。
ここ王立魔法学校マゾエムがある王都サドエスにも、スラムが存在し経済格差が問題となり始めていた。
しかしまだなり始めていたばかりであり、その根源を魔法であると断言した彼女の発言は、13歳にしてはやはり異常であった。
「私は、そのような社会を正そうと思っています。行き過ぎた経済格差をなくし、すべての民が明日のパンに困らずに生活できるような国を作りたいと思っています。その第一歩として、まずは学力を身につけ、礼儀を学び、どうすれば人の役に立てるのか、ご教授を願おうと思います。以上をもって、首席挨拶とさせていただきます」
少女がそう言い頭を下げると、シンッ、と静寂が響く。
やがてパチ、パチと断続的に手をたたく音が聞こえ始めると、茫然としていた生徒たちもそれに気づき手をたたき始める。
すぐにそれは耳を覆いたくなるほど大きな拍手となった。
「あの年であそこまで考えているなんて、素晴らしい」「さすが聖女様と噂されることはある」「天は彼女に二物を与えた」など、賞賛で埋め尽くれる。
聞こえているのかいないのか、頭をあげにっこり笑うと、やがて彼女は下手側へ歩き出した。
***
魔法の中でもひときわ重要視されるものがある。それは、「聖魔法」だ。
人を癒し、苦難に和みを与える。人間が活動する大前提、「生きる」を叶えてくれる、まさに魔法のような魔法。
魔法を扱える者の中でも聖魔法を使えるものはなぜか女性のみで、その中でも熟練した者は「聖女」と呼ばれた。
先ほどの少女、「サン・チベローズ」もまた、聖女と呼ばれていた。
曰く、言葉よりも先に魔法を覚えた。
曰く、聖魔法で領地を魔物の危機から救った。
曰く、文武両道で、商会を一人で立ち上げ成功させた。
曰く、曰く、曰くーーーーーーーーーー
彼女のことを聞けば、武勇伝が絶えなかった。
貴族からも、平民からも信頼をおかれ、あらゆる才能を持つ。
それがサンだった。
ーーー少なくとも、世間からの評判は。
人は見かけによらない。この物語で、非常にお世話になる言葉である。
一見完璧に見える、聖女サン。しかし、その中身は、実態は、なんとも残念であった。
いや、すべてを台無しにしているといっても過言ではなかった。
彼女は、ドMであった。
「......はぁ、はぁ、見られてたらどうしよう?みんな見てたよね。私の胸も、お尻も、身体を全部。実は何も下に着けてないなんて知られたら、人生終わっちゃう♡」
舞台袖に入ると、先ほどの凛々しい顔は嘘のように消え、そこにはただ一人顔を赤くして息を荒くしている変態しかいなかった。しかしてその顔は笑っている。
そう、彼女は首席挨拶という場において下着をつけない露出プレイを楽しんでいたのだった。
制服はスカートである。舞台と席には段差があり、さすがにスカートの下が見えるようなことはないが、それでもその羞恥心と言ったら計り知れない。
「まさか王国一の美少女聖女がこんなことしてるなんて、誰も思わないよね。ああ、でもバレたらどうしよう!バラされたくなかったらって脅迫されて無理やりされちゃうのかなぁ!学校の中でもなりふり構わずみんなの前で結局バラされて敗北せんげーーーー」
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと先ほどのお顔になってください、サン様」
はぁはぁしてる変態に、一人の少女が近寄る。
艶のある赤髪を後ろで束ね、メイド服を着ている。背はサンより少し低く、その目はまるで汚物を見るような冷たい目だった。
「あ、カミア!今日もいい目してるねもっと罵って!」
「はいはい、黙ってさっさと行きますよ〇〇〇〇」
「ん~!やっぱカミアの罵りが一番だよ!ねえ、もっともっと!」
「〇〇〇〇〇〇〇」
彼女の名はカミア。
サンの専属メイドとして学校に一緒に行くことになっている。つまりサンの被害者だった。
幼いころに彼女に拾われ、今では立派な彼女のご主人様であった。
「...どうやったらあなたのその残念な性癖を変えられるのか、私に教えてください」
罵られて興奮したのか、ぺたりと女の子座りで座り込み息を荒げるご主人様に問う。
彼女はパっと顔をあげ、さも幸せそうに、
「だって、私がご主人様なはずなのに拾われて恩義を感じてるはずのメイドにめちゃくちゃ言われるんだよ!?王国一優秀で、かわいくて、美少女で、かわいくて、すごいこの私が!聖女であるこの私が!もうさいっこうじゃない!」
「途中まではいいとして、やっぱり最後で台無しになるんですね。論理破綻してますよ。というか、そもそも破綻する論理すら存在していませんが」
「だってしょうがないじゃん好きなんだもん!好きなものを人にとやかく言われたくないね!」
「好きなものでも限度というものがあるでしょうがこのバカ主人。メイドとして、私はサン様を正しく導く義務があるのです。過ちを犯さないように」
「私は過ちを犯したいんじゃなくて犯されたいの!ああ、早く現れて私の運命の人!」
「.....はぁ、この人は....」
キラキラーと目を輝かせ、まるで白馬の王子様に憧れを抱くような純粋(そうに見える)なその瞳に、思わずカミアはため息をつく。
本来メイドとして許されるはずもない言動は、しかしサンが望んだことだった。
サンは権力を嫌う。
誰かが上、誰かが下。そのような上下関係を彼女は良しとしなかった。
・・・いや、純粋に罵られたいだけかもしれないが。
「さて、気を取り直して、そろそろもどろう?あんまり戻らないと心配させちゃうかもだし」
制服の床に触れていた部分をパッパと振り払って、サンは立った。
「勝手に余韻に浸ってたやつが何言ってんですか」
「???誰の事?」
「.....チッ」
「ああ!今舌打ちした!主人に向かって舌打ちなんて!罰として...私を罵って?」
「さあ参りましょう、聖女様。そろそろ皆さんが心配されます」
「あ、ねえ待って!そんな他人行儀でひどい!いや、でも放置プレイはそれはそれで...」
これが二人の日常だった。
これで終わりです。以下は別に物語に関係のないことですので読まなくても問題ありません。
初めまして、そそと言います。
1年ぶりぐらいに小説を書こうと思って練習としてこの小説を書いてみました。プロット自体は僕が中学生のときに考えたものなのでアレですが...まあ書いてて楽しかったのでおkです。
もし少しでも気になったことがあったら、びしばし感想をください。




