第六話
「ん?」疑問符が漏れた。俺は確かに彼らに招かれ『仲間』『友人』となった。が、しかしだ。聞きなれない言葉がルークから聞こえたのだ。『ハンギャク?シャ?』いや、たしかにそう聞こえた。それは、反逆者なのか?
「今、なんて言った?」
「ん?ああ、ようこそって」
「いや、そこじゃない」
「当り前よ?」
「いやいや、そこじゃない……ハンギャク?シャ?がどうとかって」
「ああ、反逆者の集まりね」
「それ。……何なんだ?」
ルークは先ほどまで座っていた席に腰を下ろし「まぁ、立ってても疲れるし」と顎をクイッとソファーに向けてしゃくり、俺はその合図でソファーに腰を下ろした。
「レッドも見ただろう。あの化け物を」とルークは先ほどに増して真剣な眼差しでそう問いかけてくる。先ほどまでゲラゲラと笑いを上げていたサユはその真剣な雰囲気に感化されてか子犬のようにカーペットの上に鎮座している。
「見た。確かに見た。でも、他にもいた……他ってのはお前たちなのか?」
「たぶん、化け物の姿じゃない方が俺たちって認識で大丈夫だ」
俺は頷き、ルークは俺の理解度を確認しながら説明を進める。
「この世界は巨大勢力が二つに分岐している。一つが『人間』これに関しては分かるよな。極々普通の人間だ。もう一つが『異形』だ。異形なんて言われても分かんねぇよな。まぁ、簡単に言っちまえば、人間の姿をした化け物。その化け物は、おとぎ話に出てくるような魔法やら、漫画に出てくるような異質な力などを宿した者たちだ。人間の姿をしたってのがまたミソな訳なんだが。俺を見てもらえれば分かると思うが、俺は人間に見えるよな」
俺は頷く。
「でも、俺は異形だ」
ルークは、紅茶をかき混ぜたティースプーンを片手に「よーく見とけよ」と言ったので、俺はその掴まれたティースプーンを凝視した。
いつの間にかルークの手や腕には太い血管が浮き出ておりティースプーンを強く握っているせいかそうなっているのかと思った瞬間、______……。
「う……あ……」
言葉を失った。
先程まで確かにルークの手にはティースプーンが握り閉まられていた。が、それはもうない。
「魔法じゃないぜ、これが俺の異形としての力。ってんまぁ、本気の一パーセントも出していないが分かってもらえたか?」
彼の手中には暖炉の炎が反射しギラギラとその鉄にメラメラと反射させ、その煌めきを一掃強めた。彼が握っているのは『剣』だ。
「これは、ただの剣ではないんだぜ?『魔剣』っていうんだ。一振りすりゃあ、豪快な力を振るってくれる先頭に特化した力。本当は企業秘密ってのになるんだが、まぁ。友達であり友人となったのだから勿体ぶらずに言うと『細い物を魔剣に変える』そんな狂った力だ」
「その力がなかなか制御できなくて困ってるってのは内緒」
「おい!それ言うと滅茶苦茶ダサく見えるだろ!」
「え?出し惜しみなく全部言うんじゃなかったけ?違いましたかね?」
「いや、言ったけどさぁ……んっ、ゴホン。っとまぁ、こんなことが出来るのが巷で言う異形ってやつだ」
「そして本題だ。先ほど言った反逆者についてだ。異形にはランクで枠組みが敷かれている。一~十まである。一応言っておくが、俺とサユが同じくらいのランクで三に位置している。前に見たあの化け物が推定ランク五、六辺りかな。このランクはただたんに異形としての強さを表すためのものではない。ランク五を超えた者は『異形の門』を開く権限が与えられ、その門を開くともう引き返すことが不可能とされている。何が不可能かというと、今こうして人間の姿を模して生活したり、遊んだり、笑ったり、………そんな単純なことが出来なくなる。人間の生活が出来なくなり、記憶も見た目もすべて失い。化け物と化してしまう。その化け物は不思議なことにどうしてか人間を標的にしているんだ。俺にもわからないが、化け物となった異形はこぞって人間を殺す。人間以外にも敵とみなした者も危害を加える。俺たちは異形なのだから関係のない人間なんて殺されてしまえばいいと思うじゃん。な、そう思わないか?」
俺は頷くことしかできない。
「なぜ、異形の門ってのがあるんだ?なぜ、その門があることが分かるのか?なぜ、化け物となった異形は人間を襲うのか?俺はすごく興味があるし、異形が若い人間の姿でいられる期間がとてつもなく長く、不老不死なんていわれるぐらい傷ついた体を修復する。異形ってなんなんだ?考えれば考える程、疑問は沸くし、俺はなぜ異形なのか。俺は思うんだ。そのヒントは、化け物となった異形にあるんじゃないのかと。どうだ?いざ自身の事になると気にならないか?」
俺はまたも頷く。
「だろ?だからさ、一緒にあの化け物を討伐しないか?病み上がりで申し訳ないのだけど、あいつがどこか遠くに逃げたらまた探さなくてはいけなくなるしさ。ここいらで一発さ」
彼が瞬く間に説明したことを俺は理解できない。
とにかく、あの化け物を殺さなくてはいけないのだ。俺には選択肢がない。
だけど、どうやって?俺はただ死ぬだけで終わるんじゃないのか?彼らの役に立つのだろうか?足手まといになるだけでは。
俺はほんとうにそんな化け物じみた異形なんて者なのだろうか?
ああ、やっぱりわからない。
キーンと耳鳴りが脳内で響く。痛くもなく、うるさくもない。ただただ、その違和感に苛まわれるしかない。
その困惑とした中、その熱烈的なルークの説明に感化されたのか。俺はなぜかそう言っていたのだ。
「まかせとけ」と。
何の根拠もなく。ただ、そう言っていた。