第二十話
静那の意識が、ゆっくりと浮上する。
家にいる時は起きたと同時にポチが来るのだが、今日はその気配すらない。
静那は何故起しに来ないのかと不思議に思うが、直ぐに思い出す。
昨日から実家を出て、担い手である皓の家に住み込んでいるのだ。
静那は小さく、安堵の吐息をつく。
成人してから半年、担い手となる者を見つける事が全く出来なかった。
中々見つけられない期間は、静那にとって針の筵に座っているかのような気持であった。
歴代で、これほど長い期間担い手を見つける事が出来ない鬼切の神子はいなかった。
ポチやタマからは、静那の力が強すぎる故に担い手が中々見つからないのだと言われた。
だがしかし、担い手を探しながらの退魔の仕事の最中では、最も無能な鬼切だと面と向かって罵倒された事は数知れず。
鬼切の神子の力は、その身を退魔の武器に変じてこそ最も効率よく発揮させる。
前の神子を知る者達の中には、静那の様な無能者が何ゆえ鬼切の神子となったのかと、タマやポチに訴えている者もいた。
その光景は、静那の心を引き裂いていた。
しかし、静那は泣く事もせず淡々と彼らの言い分を聞き、ただひたすらに自身の力を強くする為の修行と担い手探しとを続けた。
静那は、自分が無能だと理解していた。
前の神子はとても優秀で有能で、その人を補佐して生きて行くことこそが自分に求められているのだと知っていたのだ。
だからこそ、自分が鬼切の神子となってしまった事に酷い罪悪感を抱いていた。
前の神子が春の日差しの如く美しく、優しい女性であった。
それに引き換え、氷刃の様なと評される事の多い我が身。
神子であるのなら、もっと人に安らぎを与えられるような容姿と存在であらねばならない筈なのに、それからすらも逸脱している。
神子の癖に人を安らがせる事も出来ない無能とも言われ続けた事を考えても、やはり自分は本来の神子とは外れた存在なのだろうと理解していた。
それでも尚、憧れた鬼切り神子でありたいと望み続けたが故の咎なのだろうと受け止め続けて来た。
前の神子の様になりたいと望むのは不遜だと判っていても、彼の人の様に強く、優しく、美しく、聡明になりたかったのだ。
ぎゅっと唇を噛みしめ、静那は優しく包んでくれる主の寝巻を縋りつく様に掴んだ。