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第十六話

 一瞬の違和感の後は、直ぐにしっかりとした地面に足を置く事が出来た。

 これが門かと思いながら、皓は数度瞬きをして家よりも暗いその場所を見回す。

 明るい所から暗い所へと移動したせいで視界は悪いが、ゆっくりと目を慣らしながら静那に促されるまま歩く。

「こんな暗いなんて思わなかったな」

 皓が呟くと、静那がきゅっと手を握る。

「いつもは、もっと明るいです」

 静那の返事に、そうかと皓は胡乱とした表情を浮かべる。

 要するに、歓迎していないぞという意思表示なのだろう。

 そう思い至った皓は呆れた表情を浮かべていると、前に居るタマが軽く手を振る。

 タマのその行動だけで明かりが点き、皓は改めて彼が人外だと納得した。

 そして、そのタマは不機嫌そうにぶつぶつと文句を言っている。

「まったく、この様な稚拙な嫌がらせをして……だから木崎の神子に選ばれないのですよ」

 更に何かを言っているが、皓はあえて聞かずに明るくなった室内で目を瞬かせて目を慣れさせる。

「タマ」

 そんなタマを諌める様にポチが名を呼び、タマはそれで正気に戻ったのか文句を止める。

「失礼いたしました。一度禊ぎをしてから、こちらで御用意した衣装で対面と相成ります」

 若干恥ずかしそうな声音で説明を始め、目が慣れたであろう皓を促す。

「お嬢は此方へ」

 ポチはタマが向かう方向とは若干違う場所へと促すが、静那はほんの少しだけ嫌そうなそぶりを見せる。

 不安だと書かれたその表情に、皓は頬をポリポリと掻く。

「俺もだろうけどよ、静那の方も大丈夫なのか?」

 タマやポチの話だと静那には危険が無い様子であったが、最悪の事態を予想しておいて損は無いだろうと問いかける。

「……おそらく、お嬢様の方は大丈夫だと思います」

 タマは皓の問いかけに応えるが、どこか自信がなさそうだ。

 皓は昼間に出会った啓太という少年の事を考えれば、やはり静那を一人にするのは不安である。

 皓はそんな自分の心境に内心舌打ちをしつつも、口を開く。

「そんなに離れてねぇンだろ?」

 静那を見ながら、そう問いかける。

 皓の問いかけに、静那は小さく首肯するがその表情は変わらない。

「俺んとこはタマ。お前ん所はポチがついて行くんだ、そんなに不安がるな。な?」

 皓は苦笑を浮かべ、全身から心配という雰囲気を滲ませる静那の頭を撫でる。

「でもっ……」

 それでも不安だと言い出そうとする静那の表情に、皓はまた彼女の頭をポンポンと撫でる。

「ポチもタマも、お前の家族なんだろ?」

 皓の問いかけに、戸惑った様な表情を浮かべながら静那は頷く。

「それなら、信頼できんだろ?」

 皓の重ねた問いかけに、静那はしばしの間の後こくりと頷く。

 使い魔であるが故に如何にもできない事は多い方なのだが、それでも皓は静那の家族なら大丈夫だと言ってくれたのだ。

 静那は潤んだ瞳を皓に向け、はいと微笑む。

 今までどこか緊張していたであろう静那だが、今のその微笑みには柔らかさしかない。

 皓はその静那の様子ににっと笑い、また頭を撫でてからポチを見る。

「お嬢」

 ポチは小さく会釈してから、静那をそっと促す。

「はい」

 静那も皓に小さく会釈してから、ポチの案内する方へと静々と歩いて行く。

「後でな」

 そう声をかけると、静那は足を止めて全開の笑顔を浮かべる。

「はい! 旦那さま!」

 静那の笑顔を見て皓は頷き、タマの後をついて歩き出す。

「お嬢様も、色々と婿殿の事がご心配なのでしょう。それに、ここは性質の悪い魑魅魍魎が多いですからね」

 タマは何故、静那があれほど心配しているのかを理解しているのでそう口にする。

「性質の悪い、ねぇ……なんつうか、鬼とかと変わりねぇ奴らばっかりなんじゃねぇの?」

 片眉を上げながら、皓はタマの言葉に返す。

 すると、タマは苦笑する様に肩を竦める。

「まぁ、鬼どもは人間達の世界に対して災厄を撒き散らすしますので、まだこちらの魑魅魍魎の方が可愛げがありますよ」

 等とタマはのたまい、皓はそうかとくつくつ喉を慣らす。

 タマはよほどこの場所に所属する、木崎という家の人間以外が嫌いの様だ。

「まぁ、なんにせよ用心するに越したことはねぇって事か」

 皓の言葉に、タマははいと頷く。

「所でよ。ここにはお前ら以外に使い魔ってぇの、どれくらいいるんだ?」

 皓の問いかけに、タマは苦笑する。

「そればっかりは、いかな私でも分かりませんね。使い魔を召喚し、使役する術を持つ一族が居ますから……そちらの方に聞いてみないと、分からないのですよ」

 タマの言葉に、へぇっと声を上げかけて皓はタマを見る。

「まぁ、私とポチは例外というか、少々特別なのですよ。そのお話はまぁ、今私たちの主であるお嬢様のご両親からお聞きください」

 タマは自分の口からは言う気が無いと、皓に対して告げる。

「……七面倒臭ぇなぁ」

 思わず皓はぼやき、タマは苦笑する。

 皓のぼやきは、現状と後の事を考えたが故に出た言葉である。

 今まで自由奔放に生きて来た皓ではあるが、突然自身の命と引き換えに様々な柵に雁字搦めにされてしまったのだ。

 文句がもっと大量に出てもおかしくはない。

 だが、皓はそれ以上文句も言わず黙ってタマについて歩く。

 その事に驚きと同時に、少々不信を感じて口を開くタマ。

「もっと、文句を言われるものと思ったのですが」

 タマの言葉に、皓は小さく笑う。

「言ったって仕方がねぇだろ。今日一日で、そこは理解したしな」

 それに、と皓は呟く。

「何を言った所で、現状はかわんねぇだろ? それならさっさと頭を切り替えた方が、得策だろ」

 苦笑交じりの声での回答に、タマは足を止めて皓を振り返る。

 思わずまじまじと見ると、皓は小さく眉を潜めてタマを見る。

「なんだその、珍獣を見る様な目つきは」

 憮然とした皓の声音に、タマはゆるく頭を振る。

「今朝とは別人なのではないかと、一瞬思っただけです」

 そう言うと、皓はますます憮然とした表情を浮かべる。

「お前らから色々話しを聞きゃ、色々と諦めもつくだろうが」

 皓の言葉に、はぁと頷きながらタマは歩き出す。

「しっかし、随分と人がいねぇな」

 きょろきょろと周囲を見回しながら皓は呟く。

「皆、隠れて婿殿を見ているのですよ。新たな担い手がどの様な人物なのかを観察し、どうやって取り居るか、排除するかを考えているのでしょう」

 タマの言葉に、皓は顔を顰める。

「バカじゃねぇのか?」

 素直な皓の感想に、タマはうんうんと頷く。

「私もそう思います」

 と答えて居たタマが、不意に足を止める。

「此方が、禊の場です。ここで体を清め、こちらで用意した物を着ていただきます」

「面倒臭ぇが、分かった」

 タマの説明に頷き、彼が示した戸を開けようと手を伸ばすが。

「ああ、お待ちください」

 それだけ言って、タマが皓より先に戸を開く。

「狡猾な悪戯があるやもしれませんので、私は禊ぎ場までご一緒します」

 タマの言葉に、皓は思わず胡乱とした表情を浮かべる。

「罠があるやもという話もありますが、何よりも婿殿は禊の仕方を知らないと思われますので我慢してください」

 あっさりとタマは言い、皓は皓で不満はあるが口に出さずに黙って従う。

 ここで口論しても、無駄だからだ。

 皓より先に中に入り、安全を確かめてからタマは皓を招き入れる。

 中には脱衣所になっており、一つだけ置かれた籠には白い布が入っている。

 タマはそれを一通り調べてから、皓に手渡す。

「こちらに着替えてください」

 タマの言葉に、皓は何とも言えない表情を浮かべる。

「あのよ……着替えるのは分かった。だが、お前の目の前で着替えろってことか?」

 皓の問いかけに、タマは真剣な表情を浮かべて頷く。

「はい。それと、下着の類も全て脱いで着てください」

 タマの言葉に、皓の表情はますます胡乱とした表情を浮かべる。

「風呂入る見てぇだなぁ、おい」

 皓の呟きに、タマは何も答えず早くしろと目で急かす。

 皓は嘆息してから、がばっと服を脱ぎ始める。

 タマはそんな皓の体を見て、感心した様な表情を浮かべた。

 服を着ていると分からないが、痩躯だというのに鍛えられたがっしりとした体をしていたからだ。

「意外と、体を鍛えていたんですね」

 タマの言葉に、皓はああと頷く。

「小学からなんだかんだと、体動かすのが好きだったからな。剣道、空手、近所の武道館とかも通ったぞ」

 服をバサバサと棚の上に無造作に置きながら、律義に皓は答える。

「まぁ、真剣を使う居合い抜きとかも面白かったな……って、お前人の体じろじろ見るんじゃねぇ」

 あんまりにもマジマジと見るタマに、皓は思わずそう突っ込みを入れて下着を脱ぐ前に白い単衣を羽織る。

「下着も脱いでくださいと言いましたが」

「お前がじろじろ見るから脱ぎずれぇんだよ」

 タマの言葉に強く言い返しながら、皓はなんとか着替えを終える。

「ったく……」

 舌打ちしながら、浴衣の様に白い帯を留めてタマの方に体を向ける。

「んで、何処行くんだ?」

 合わせなどをチェックしているタマに、皓は問いかける。

「こちらです」

 タマは皓を促し、入ってきた所と反対側の戸を引いて中を確認する。

 何処までも用心深いその行動に皓は嘆息しつつ、タマの後に着いて行った。


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