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第十話

 皓は憮然とした表情のまま、部屋の鍵を開ける。

 後ろから付いてきている少年の視線は鋭かったのだが、今は冷たさを纏い皓の背中を突き刺して来る。

 腹が立つがそれを無視して、皓はさっさと家の中に入る。

 静那はその後について家に上がり自分の分だけではなく、皓の靴もきっちりと揃えてからただいまとリビングへと行く。

 タマとポチは同じように靴を脱ぎ、すぐ横にある靴箱に靴をしまってからそれぞれ術を解いて耳を出す。

 少年はすでに強固な結界に護られたこの部屋に嫌そうに顔を顰め、靴を脱いで家に上がる。

「人の家に来て嫌そうなツラすんな」

 不愉快と書いた表情のままリビングに来た少年に、皓は睨みつける。

 少年はますます憮然とした表情を浮かべ、立ったまま皓を睨みつけている。

 皓はそんな少年の態度に青筋を浮かべながら、笑みを浮かべる。

「喧嘩なら買うぞ、おい」

 声音も表情も獰猛と言っても良い程、恐ろしい笑顔である。

 酷い威圧感に少年は一瞬、腰が引けるが直ぐにシャンと背筋を正す。

「嫌なものは嫌だから、仕方がない事だろう?」

 そう言って、威嚇するように皓を見る。

「んじゃ、何で来た」

 そう詰問する皓に、きっぱりと告げる少年。

「静那さんが騙されていると思ったから、連れ戻す為に来たんです」

 少年の言葉に、静那はぱちぱちと瞬きをする。

 タマとポチは少年の言葉に不愉快気に眉をひそめ、ぎろりと睨みつける。

「あのなぁ……俺が何処でどうやってこいつを騙すんだよ」

 皓は少年の言葉に憮然と言い返し、静那を見る。

 静那は静那でゆっくりと言葉を噛み砕いているのか、数度頷いている。

「昨夜、静那さんを騙したから彼女はここにいるんだろう? 大体、静那さんは十六歳の少女だ。あんた二十歳過ぎてるんだから、条例に反するぞ」

 あっさりと人を犯罪者扱いする少年の言葉に、皓の額に更に青筋が浮く。

「てめぇ……俺が無理やりなんかしたとでも言いたいのか、あぁ?」

 皓の言葉に、少年も怒りに顔を歪めながら頷く。

「契約をしたと言う事は、そう言う事だろう!?」

 我慢できんと怒鳴る少年に、静那がおっとりと声をかける。

「啓太くん、私は旦那様に騙されてなどいません」

 静那の言葉に少年、啓太はばっと振り返る。

「いいえ、騙されています! 無理やり契約をさせられたのでしょう!?」

 啓太の断言する言葉に、皓は立ち上がる。

「どっちが無理やりだ、ゴラぁ!」

 そもそも、押し掛けられたのは皓の方で、騙されたと言えるのも皓の方なのである。

 青筋を立て、怒鳴る皓を啓太は睨む。

「あんたが静那さんに無理を強いたんだろう!?」

「ふざけんな! 朝から人の布団に潜り込んでたのはこいつだぞ!」

「も、もうそんなところまで……! 貴様ぁ!!!」

「俺はなんもしてねぇぞ!」

 どこまで行っても平行線な言い争いに、静那はいそいそと立ちあがりお茶を入れて戻ってくると、不毛な怒鳴り合いをしている皓と啓太に声をかける。

「旦那さま、啓太くん。お茶淹れましたので、どうですか?」

 おっとりと、話題の中心人物に声をかけられ皓は思わず脱力する。

「静那さん。正直に、おっしゃってください! この碌でもない男に騙されておられるのでしょう!?」

 啓太の言葉に、静那は小首を傾げてからふわり花が綻ぶように微笑む。

「旦那様は、だます様なお方じゃないです。それに、とても優しい方なのです」

 頬を染め、思いっきり惚気の様な言葉を発する静那。

 この言葉に啓太だけではなく、皓まで目眩を覚えてしまう。

「あ……のなぁ……俺と静那は、付き合ってるわけじゃねぇだろうが」

 唸るように思わず皓が呟く。

 近いうちにほだされてしまいそうな自分がいるのを感じておりその声音は苦い。

 一方、啓太は蒼褪めながら頭を押さえ、口を開く。

「また、貴方達は一般人を選ぶのですか!? 何故、元素使いや封印や使役の一族、先見や探査を生業とする一族の中から選ばないのですか!?」

 啓太の怒鳴り声に、静那はぱちぱちと瞬きをして啓太を見る。

 皓もまた、酷く憤った啓太の様子に眉を顰めて向き直る。

「我々の方が、一般人よりも力の扱いに長けている! だと言うのに、何故それほどまで外に担い手を求めるのですか!」

 責め詰る啓太の言葉に、静那の眉尻は下がり泣きそうな表情を浮かべる。

「啓太くん……」

「貴方達は何故、ボク達を蔑にするのですか!」

 矜持を傷つけられたかのように責める啓太の襟首を、皓はぐいっと引っ張る。

「ぐぇっ」

 思わずカエルが潰された様な声を上げる啓太だが、皓はかまわず泣きだしそうな静那を引っ張りポチに押しつける。

「あっち行ってろ。この馬鹿な餓鬼の話なんざ、聞く必要はねぇ」

 かなり腹を立てているのか、皓の声は低い。

「貴様には関係ないだろう!」

 喉を押さえ、涙目の啓太が怒鳴ると同時に皓は啓太の顔を拳で殴り付ける。

 突然の暴力に静那は目を丸くして体を硬直させ、タマとポチは口を開こうとするが背中を向けている皓の威圧感に圧倒されて何も言えない。

「ざけてんじゃねぇぞ、糞餓鬼」

 低く呟かれた声音は、先ほどよりも更に凶悪度を増している。

「てめぇの都合で、女を泣かせてんじゃねぇよ。てめぇじゃ駄目だから他に行くしかなかったって、考えられねぇのか?」

 皓の言葉に啓太はギッと顔を上げ、よろめきながら立ち上がる。

「だからと言って……ボク達を蔑にして良い理由などない!」

 啓太の言葉に、皓は鼻で笑う。

「んじゃ、てめぇが静那にしてる事はなんだ? てめぇの都合を押しつけて、静那を蔑にしてるじゃねぇか」

 皓の言葉に、啓太はキリキリと眉を吊り上げる。

「……彼女はそう言う存在だ」

 低く告げる啓太の言葉に、静那の体が震える。

「それは、てめぇがそういう目でしか見てねぇからだろうが。静那は静那。後ろ盾があるにしろなんにしろ、一人の人間で一人の女だ。そいつを泣かせてまで通す道理なんざねぇ」

 静那と言う人間を無視するような発言、行動、その全てが皓にとっては我慢ならないものであった。

 それはかつて、自分がその様に扱われた事が起因している。

 親の敷いたレール通り歩くなど嫌だと、自分が決めたものを歩くのだと確固たる信念の下に今こうして生きているのだ。

 所詮他人事と、静那と啓太のやり取りをただ見ているのは簡単だ。

 だが、少なくとも静那は皓に好意を示し、皓自身静那を護ってやらなくてはと思うほどの好意は持っている。

 だからこそ、今目の前にいる啓太が許せないのだ。

「他人を尊重出来ねぇやつは、俺の家の敷居をまたがせるつもりはねぇ。出ていけ」

 頬を真っ赤に腫らせた啓太に顎をしゃくり、外を示す皓に啓太は拳を震わせる。

「たかが一般人が、このボクに大層な口を聞く……貴様が担い手であるなど関係ない。殺してやる」

 低い声音で啓太が言うと同時に、啓太の腕が炎に巻かれる。

 その姿に皓はぎょっとした表情を浮かべ、啓太は皓の驚いた顔に笑みを浮かべる。

「死ねぇ!」

 炎を纏った拳を真っ直ぐに皓に撃ちだす啓太。

 皓は驚いてはいたが、直ぐにその拳を片手で受け止め握る。

「馬鹿が!」

 啓太は嘲笑し、拳に纏わせていた炎が皓の腕に燃え移る。

 だが、皓は涼しい表情で啓太を見下ろす。

「どんな手品だがしらねぇが、下らねぇ事してんなよ」

 呆れた声音で皓は言い、啓太の腕をそのままねじり上げる。

「ぐあぁっ!」

 腕に走る激痛に呻くと、ポチとタマが慌てて駆け寄る。

「婿殿! 熱くないのですか!?」

「婿殿、取りあえず火野家の少年を此方に!」

 ポチとタマが顔色を変えて驚いている事にやや毒気を抜かれ、訝しげな表情を浮かべながら皓は痛みで悲鳴を上げる啓太をタマに渡す。

 すると、その利き腕を静那が泣きそうな表情で掴み確認する様に手のひらで触れる。

「如何した?」

 何故静那やタマ、ポチがそれほど心配そうにしているのかが判らない皓は問いかけながら、静那に腕を引かれてソファーに座る。

「あつ……あつく、ないのですか?」

 瞳に一杯涙を溜めて、静那が皓に問いかける。

「ん? ああ……全然熱くなかったぞ。それよりあれ、どんな手品だ?」

 皓はあっけらかんと静那に問いかけると、静那がぽろぽろと涙を零して泣き出す。

「おっ、おい……如何した?」

 泣きだした静那に皓は動揺しながらも平静を装い、声をかけながら頭を撫でる。

「旦那様がごぶじで良かったです……ほんとうに、ほんとうに……」

 ひっく、ひっくと嗚咽を零しながら静那は言い、皓は困惑した表情でタマを見る。

 タマは啓太を取り押さえながら、苦笑を浮かべる。

「まったく、婿殿には呆れますよ」

 タマの言葉に、驚愕していた啓太が口を開く。

「貴様……なんで、無事なんだ?」

 震える声に、ポチが嘆息する。

「お嬢に釣り合うだけの“格”の持ち主。お前程度では、傷一つつけられはしないと言う事だ」

 それでも、タマもポチも焦ったのは内緒である。

「ばっ……馬鹿な……!」

 啓太の声に、皓は眉を寄せる。

「状況が良くわからんが……取り敢えずお前、その若さで頭固すぎるぞ。もっと柔軟な思考をしねぇと、世の中渡っていくのに苦労するぞ?」

 年長者として、思わずそんな事を口にしてしまう皓。

 その言葉に、思わずタマが噴き出す。

「む、婿殿……処世術を教えてどうするのですか」

 くつくつと喉を震わせ、笑うタマ。

 ポチはポチでやや呆れた表情を浮かべてはいるが、ほんの少しだけ笑っている。

 ピリピリとした緊張感が緩み、室内は静那の嗚咽を零す声だけが響く。

「あ~……んなに泣くな、な?」

 皓は困惑した表情を浮かべながら静那に声をかけ、静那はコクコクと頷きながらも中々涙が止まらない。

「お前、今日だけでかなり泣いてるだろ。水分無くなっちまうぞ?」

 泣きすぎて脱水症状を起こすのも可哀そうだと皓は言い、取り敢えず温くなっているお茶を静那に手渡す。

 静那はまだ涙を零しながら、お茶を一口、二口と飲む。

「取り敢えず糞餓鬼。てめぇ、ちったぁ考えろ」

 そう言って、皓もまた温いお茶を飲む。

「静那が“自分”で選んだものを、他人のてめぇに否定されるいわれはねぇんだよ。それがてめぇや、てめぇの周りの人間にどんなに都合が悪かろうと、静那が決めた事に口を挿めるやつはいねぇ」

 皓の言葉に、若干冷静さが戻ってきた啓太はぐっと言葉に詰まる。

「口を挿んだって仕方がねぇ事の方が多い。そう言うもんじゃねぇか。それを、てめぇの都合が悪いからと静那を詰った所で、変えられるわけがねぇだろうが。それも、てめぇの気を鎮める為に静那に八つ当たりしやがって、だらしねぇ奴だな」

 皓の言葉に、啓太は顔を紅潮させているが自覚があるらしく、何も言わない。

「まぁ、キレて殴った俺もだらしねぇけどな」

 自身の行動を振り返り、そう呟いてくっと笑う。

「まぁ、もう暴れんなよ坊主」

 そう言って、タマを見る。

 タマはむっと眉根を寄せると同時に、ポチが口を開く。

「待て。その前に、この家にいる間だけでも力を封じさせてもらう。先程の様な事をされては、こちらもたまったものではないからな」

 服や皓自身に燃え移らなかったから良いものの、と憮然とポチは呟き啓太の額に触れる。

 啓太は抵抗しようとするが、タマに押さえつけられ何もできない。

「これで良い。この結界から出れば、自動的に解呪される」

 ポチの言葉にタマは頷き、啓太を開放して静那と皓の傍に控える。

「……火野家の少年。今回の事は、こちらが先に手を出したと言う事で不問に処します。ですが、今度同じような事をなされば上の方に報告します」

 タマは冷たい声音で言い、言われた啓太はきゅっと唇を噛んで反論しない。

 皓はそんな啓太とタマを横目に見ながら、静那にティッシュ箱を渡してふうと嘆息する。

 今日一日だけでとんでもない出来事が怒涛のように押し寄せ、昼過ぎだと言うのにすっかり疲れてしまった。

 それを見ていた静那は鼻を啜り、そっと皓の頬に手を添える。

「旦那様……大丈夫ですか?」

 やや冷たい手のひらが、慰撫する様に皓の頬を撫でる。

 その感触に、皓は目を細めて苦笑を浮かべる。

「大丈夫だ。それより……」

 こいつを如何するべきかと相談しようとするが、それより早く皓のお腹が鳴く。

「あっ……お昼御飯ですね」

 にこっと静那は笑い、いそいそと立ちあがる。

「お昼ごはんを作ってまいりますので、お待ちください」

 静那の言葉に皓は頷き、ちらりと啓太を見る。

 啓太は静那と皓のやり取りを見て、やはり悔しそうな表情を浮かべながら床を見ていた。


啓太くんはお子様で、皓さんは熱血さんになってしまったですよ。

退魔組織に所属する一族等も出てきましたが……詳しい説明は居るのでしょうか?

一応、きちんと設定はしているので書こうと思えば書けます。

ただ、一話潰してまで書くつもりはないので、後書きか活動報告辺りに書く方がいいのかなと悩ましいですね。

まぁ、ぶっちゃけ誰得な感じなので書かなくても良いですかね?

何かご意見がございましたら、いただけると大変嬉しいです。

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