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ターンアウトスイッチ  作者: 香久乃このみ
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おまじない

「はぁ……」

 ひとしきりの営みの後、2人で息をはずませながらうつろな視線を交わす。どちらともなく手を伸ばし、指を絡め微笑み合った。

「ねぇ、孝行」

「何?」

「ここ……」

 私は右胸のふくらみに触れる。

「ここにキスマークつけて」

「え? なんで?」

「印つけてほしい。私は孝行だけのものだって」

「つけなくても、聡美は僕の妻だよ?」

「……二度と、あんな怖い夢見たくないから。おまじないみたいなもの」

「わかった」

 孝行の唇が、私の胸に触れる。温かく包まれた後に、キュッと引っ張られる感触。やがて唇が離れると、そこには濃紅色の印が刻まれていた。

「これでいい?」

「ん」

「ほら、風邪ひくからそろそろシャワー浴びておいで」

 孝行に促され、私はバスルームへと向かう。汗を洗い流した後、私は洗面室の鏡の前に立った。鏡の中には、満たされた表情の私がいる。右胸には、先ほどつけてもらった愛の証がくっきりと残っていた。

「ふふ……」

 思わず笑いながら、指先でそっと触れる。そしてもう一度鏡を見た時だった。

「ひっ!?」

 思わず息を飲む。鏡の中の私が、恨めし気な眼差しをこちらに向けていた。

「どうした?」

 私の声に気づき、孝行が駆けつけてくる。

「あ、あれ……!」

 私は鏡を指さす。だがそこには、裸身の私しか映っていない。

「虫でもいた?」

「ううん……」

 私は孝行の胸に寄りかかり息をつく。

「なんでもない、見間違いだったみたい」

「そっか。ならいいけど……」

「……」

「こら、聡美はシャワー浴びたんだろ? 僕はまだ汗まみれだから、離れなさい」

「離れたくない」

「我がまま言わないでパジャマ着て、先に寝室戻って。僕もシャワー浴びたら行くから」

「うん……」

 私は孝行から手を離す。バスルームへと消えてゆく孝行を見送り、もう一度鏡を見た。そこには困惑した表情の裸の私がいるばかり。

(光の加減で見えた錯覚だったのかな)

「あ……」

 右胸につけられた濃紅色の印が目に入る。その瞬間、なんとなくほっとした気持ちになった。

(孝行の愛してくれた印……)

 自然と口角が上がる。

(効果のあるおまじないね)



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