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第7話 彼女は何者なんでしょう

足を運んで頂いている皆様、本当にありがとうございます!

お陰様で1000PVを超えました。

本当に嬉しいです!

 宿の受付で困っていた少女を部屋の中に招き入れていた。

 彼女の物珍しい服装は衆目を集めるため、周囲の目から離すのが得策だと考えたのだ。

 部屋に入って荷物をあらかた整理して椅子に座り一息つくと、少女が誰に言われるでもなく自己紹介を始めた。


「私は鳳奏!あっ、ここだとカナデ・オオトリって言った方がいいかな?」


 服装もそうだが、名前もここらだと聞き慣れないものだ。しかも、元居た場所は名前の表し方の順序が逆な文化圏だと考えられるが、イシュタルが知る限りそんな場所はこの近くどころか、この大陸には存在しない。

 手を顎に当てて思案を巡らせている彼女にカナデと名乗った少女が、何かを聞きたそうに目を爛々と輝かせている。

 その事に気付く様子の無いイシュタルに代わり、サラが軽く咳払いをしてから答え始めた。


「こちらはゴーデンバーグ公爵家の令嬢であらせられるイシュタル様にございます。私は侍女のサラと申します」

「えっ!じゃあ、とっても偉い人なの!?」


 カナデは驚愕のあまりに開いた口を慌てて両手で隠して視線を伏せた後、おずおずと彼女を見上げて謝罪した。


「ごめんなさい!まさか、そんな人にこんな失礼なことを……」

「いえ、気にしないでください。困っていたようですし」


 彼女の申し出を聞いてカナデが「でも……」と何かを言いかけたが、イシュタルの言葉により止められた。


「それに別に私は公爵家の令嬢というだけで私自身が特別何かをしたわけではありません。ですから、そんなに畏まらないでください」


 カナデの勢いに驚いて見開いていたサラの目が、彼女の言葉を聞いて嬉しそうに細められる。

 同時に自分が侍女として仕えるこの幼い主を誇らしく思っていた。

 ただ、得体の知れない相手を易々と部屋に招き入れたり、自分をまるで卑下するかのような発言をしたりすることにはかなり頭の痛いものがある。

 公爵令嬢である彼女の言動(言動は言葉や行動という意味です!)は全て公爵家をはかる指標になるのだ。

 イシュタル自身も当然そのことは理解しているし、だからこそ礼儀作法をはじめ、様々な部分に気を配っていることは侍女の目から見ても明らかだ。

 そうは言っても目の前にいるのは10歳の少女だ。むしろ、厳しい教育を受けながらも、周りを慮れるような優しい心が彼女の中に育まれたことを、サラは神に感謝していた。


 イシュタルの言葉で気持ちが明るくなったカナデは屈託のない笑顔を浮かべる。

 カナデの身の上話を聞くと、服装からもわかるように彼女はこのあたりの人間では無いようだ。それどころか大陸の人間かどうかもわからない。

 というのも、彼女自身も気付いたら村の近くの森の中にいたらしいのだ。

 そのため、彼女自身も自分がどこで生まれ、どこで生活していたかわからない。

 時々、視線が泳ぐ時があるのが、腑に落ちないが。


「大変でしたね……それでは、ひとまず公爵領まで一緒に行きませんか?」

「「えっ?」」


 彼女の口から発せられた予想外の言葉に二人が同時に疑問の声を上げる。

 カナデはより一層、表情を明るくさせるが、対照的にサラは表情が強張り、反射的に言葉を発していた。


「お嬢様!お戯れはほどほどにしてください!」


 突然、声を荒げたサラにカナデの体がビクリと反応する。

 初対面ではあるが、会った時から侍女としての気品に満ちていた彼女からこんな声が飛び出すとは思ってもいなかった。

 そのため、サラの厳しい声に余計に反応してカナデの顔も緊張から固くなる。

 サラの反応は主の事を大切に思う侍女であれば、むしろ当然のことだ。

 彼女の主であるイシュタルはこの反応を予期していたのだろう。彼女の声音はそれまでよりも落ち着いていて宥めるようなものだった。


「サラ、はしたないわよ」

「っ……!ですが、お嬢様――」

「私は彼女を無償で同室させるなんて言っていないわ」


 侍女としてあるまじきことだと分かっているが、サラはイシュタルに怪訝な顔を向けた。

 同時に彼女の言葉で沈黙が下りる。


 それはどういう意味だろう。

 私は無一文で対価らしい対価は持っていない。

 もしかして、身元がわからないからって牢獄行き?はたまた奴隷に?

 逃げるならまだ間に合うんじゃ……でも、面は割れちゃっているし、不審人物扱いで追手が差し向けられるよね……

 ……あれ?でも、それなら今、そんなこと言わないよね、バレちゃうし。


 彼女の言葉の意味をアレコレ考えているカナデの顔は百面相になっており、それを見て思わずイシュタルが小さく噴き出した。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。カナデさんには公爵領まで護衛として、同行してもらいたいと思っています」


 すぐには言っている意味が理解できなかったカナデは呆気に取られて固まった。

 それに対してサラが反論する。


「お嬢様。それでは護衛の者たちに対してあまりに非礼が過ぎます」


 実にもっともな意見だ。

 ここで護衛を増やすということは、王都を出る時から同行している者たちだけでは力不足だと言っているようなものであり、それは彼らの矜持を踏み躙る行為に他ならない。

 しかも、帯剣こそしているが、一見すると戦いなどには向かなそうな華奢な少女を護衛にするというのだから余計だろう。

 先ほどよりも落ち着いてはいるが、言葉の鋭さが増したように感じるサラを諭すようにイシュタルは穏やかな声音だった。


「まあまあ、彼女も言っていたじゃない荒事でも問題ないって。つまり、相当できるってことでしょ?」


 そこまで言って彼女はニコリとカナデに微笑みかける。

 彼女のことを良く知るサラは頭を抱えた。

 最近は全くワガママなど言わなくなっていたが、昔は自分がこうと思ったことはなかなか曲げず、よく手を焼かされていたのを思い出す。

 目の前の彼女が、少し昔のお転婆だった頃に重なるように見えて僅かに頬が緩んだ。


 貴族の令嬢として考えるなら、自制することは確かに大事なことだが、彼女はまだ10歳の幼い少女なのだ。

 まだ、歳相応に親や周囲に甘え、自分を抑えつけることなく過ごしてほしいと思うのは公爵家の侍女としては失格なのかも知れないが、彼女の健やかな成長を願う一人の女性としては許されてもいいのではないか。

 そして、サラは彼女の説得を諦めた。


 この時はまだ誰も知らなかった。この少女が後に領地整備に大きく貢献することを。

いつもご覧頂きありがとうございます。


良ければ


「ドゥームズワールド」 https://ncode.syosetu.com/n1643hi/


「護衛?必要ありません。私は暴風令嬢ですから!」 https://ncode.syosetu.com/n7105hi/


もよろしくお願いします。

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