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死に戻り令嬢の奮闘記~どうせ、死ぬんだから好きにやらせてもらいます~  作者: 夏風
第2章 領地は順調 病も防いだ じゃあ次は
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第23話 ちょっとした仕返し

やられてばかりのイシュタルがちょっと仕返しをします。


10000PV&2500ユニーク ありがとうございます!

 次の日、工房の新作品である魔法武具の性能を試すことになり、練兵場に来ていた。

 初めは的を試し切りするだけだったが、いつの間にか模擬戦が始まろうとしている。

 しかも、何故か賞品は『イシュタルと一日デート権』だ。

 それを聞きつけて多くの参加者が集っていた。


 いやいや、私を勝手に賞品にしないでよ!

 私の意思は無視か!? ってか、なんであなたたちそんなにやる気なのよ?

 そもそも私はここの領主の娘で公爵令嬢なんですけど!?


 イシュタルが心の中でどれだけ叫ぼうと、彼らには一切届かない。

 それどころかイシュタルの座っている場所は、最も会場が見渡せる特等席にして参加者からも彼女の姿がよく見える。まさに賞品陳列席だ。

 そして、観客席にはさりげなくフローラがいた。つまり、今回のことは領主代行の立場にある母がすべて了承したということになる。

 イシュタルにとっては頭の痛い事実だ。

 そんな彼女の脇にはいつも以上に人が控えていた。

 侍女のサラはいつものことだが、アリエッタ・マリエッタ姉妹にカペラ、更にベルナルドまでいる。

 何で? 何か起こるの?――とイシュタルは先程までの怒りよりも、不安の方が勝り始めていた。

 ベルナルドが静かに紙を渡してきた。どうやら参加者名簿らしい。


 ――アイザック、アシェリー、エルムドア、シェグノルド、ターニャ……って、マルクスにラハル様まで! 何をやっているんですか!?


 イシュタルは名簿に記載されている名前を見て頭が痛くなる思いだった。

 模擬戦は大事に至らないように、お互いの武器に特注の鞘を付けて行われる。

 もうこの時点で新武器の性能テストも何もあったものじゃないが、今更そんなことを言ってもやめる気配は無いので、イシュタルは諦めて現実から目を逸らすことにした。


 初戦はターニャと公爵家の護衛騎士の試合だ。

 ターニャはアイザックのところの傭兵の一人で私より2歳下の少女だが、見た目からは想像も付かないような膂力の持ち主で、自分の体格を遥かに超える特大剣を扱う。その膂力を見込んだシェグノルドが彼女を気に入り、特注のツヴァイヘンダーを鍛えたのだとか。

 ってか、うちの騎士は何をしているのか……あとでしっかり減給にしてやる。


 イシュタルはそんなことを考えていたが、開始早々にターニャの強烈な薙ぎ払いを受け、体勢を崩された騎士の首元に剣が突きつけられ、呆気ないほど早く終わったのを見て、さすがに不憫に思って処罰は取りやめることにした。

 彼女の背後にいるベルナルドから憤怒を孕んだ闘気が立ち昇っているのがわかる。きっと、イシュタルが手を下すまでも無く、彼には制裁が下ることだろう。


 次の試合はマルクスだ。彼は右手に短めの十字槍、左手に片手剣という少し変わった二刀流スタイルで戦うようだ。

 開始してから決着がつくまで終始、マルクスの優勢だった。圧倒的な手数で相手に攻撃の隙を与えずに押し切る戦い方は、見ていて圧巻ものだ。


 ――マルクスはまだ11歳なのにすごいなぁ。……まあ、私も10歳の時に両手に斧を持って巨蛇の魔物と戦ったけど。


 自分の過去はさておき、マルクスの才能は素晴らしいものがある。イシュタルは前世の記憶を頼りに、彼を勧誘した自分を褒めた。


 その後も順調に試合は進み、最終戦はラハルとマルクスの戦いとなった。

 この一つ前、ラハルとアイザックの試合で、アイザックの剣がラハルに弾かれた拍子にイシュタル目掛けて飛んでいき、カペラ、アリエッタ、マリエッタの三人が彼女の前に立って盾となる構えを取り、サラはイシュタルを抱いて守ろうとする中、ベルナルドが拳で剣を叩き落して事なきを得た。


 そのアイザックは今、観客席のこちらから見える場所でずっと正座している。

 ベルナルドが射殺すような目で見張っているため、姿勢を緩めることもできない。


 ――アイザック、ご愁傷様。そして、ベルナルド、貴方は一体何者なのよ?


 ラハルとマルクスの最終試合が始まった。

 お互いに譲らない激しい攻防を繰り広げる。

 マルクスの両腕から繰り出される連撃をラハルは直剣と盾を使って巧みに捌き、隙を突いて攻撃を差し込む。だがそれも、マルクスの体捌きによって躱され、とても12歳と11歳の戦いとは思えない大人顔負けの内容だ。


「若いな。だが、つくづく才能とは恐ろしい」


 ベルナルドが二人の戦いを見て不意にそんな言葉を漏らした。

 どうやら、二人が戦いの中で何か言い争っているのが、彼にはわかっているようだ。

 だが、イシュタルはそれどころではなかった。激しさを増す二人の戦いに、どちらもケガをしないか心配で仕方が無かったのだ。


 そんな激しい打ち合いの末、二人の武器を封じてある鞘が威力に耐え切れずに砕け散った。

 しかし、お互い攻防の最中にある二人は止まることができない。

 このままでは下手をすれば――イシュタルが二人を制止しようとした時だった。

 突然、ラハルとマルクスの間にベルナルドが現れ、地面を強く踏み付けると、練兵場全体が大きく揺らいだ。その刹那、重心の居所を失い、威力が分散した二人の武器を瞬く間に叩き落した。


「やれやれ、全く歳は取りたくないものですな」


 ――ベルナルド……本当に何者なの。


 何事も無かったかのように振る舞うベルナルドを見て、イシュタルの頭には彼に対する疑問が湧くばかりだった。

 模擬戦はベルナルドによる強制中断ということで、優勝者無しで終わる。


「そういえば、試合の時に何を話されていたのですか?」


 短い帰り道の馬車の中で、正面に座るラハルとマルクスにイシュタルが問いかける。

 だが、二人は彼女の問いに答えることはできなかった。

 イシュタルを守るための覚悟だとか、彼女をどれだけ好きなのかとか、そんなことだったからだ。


「今はどっちが強くて、この先どっちがもっと強くなれるかって話だよ」


 ラハルは苦し紛れに誤魔化した。

 イシュタルは、「そうですか」と納得したようなしていないような、そんな曖昧な返事をする。


 馬車が公爵邸に着いた。

 使用人の手によって扉が開かれ、イシュタルをエスコートするために先に外へ出ようとすると、二人の腕を引っ張って彼女が止めた。

 ラハルとマルクスが驚いてイシュタルへと顔を向けた瞬間、それぞれの頬に彼女がキスをする。


「頑張った勇者様たちにご褒美です」


 イシュタルは悪戯っぽく二人に微笑むと、先に馬車から出て邸へと走って行く。

 その背中を二人は馬車の中から、しばらく呆然と見つめていた。

やられると弱いのです。

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