第1話 そうしてまたここから始まるのね
――ああ……また死んだのね、私。
真っ暗で微睡みにも似た重い意識の中、今はもう聞けるはずのない侍女の声が私を呼んでいることに気付いて、私は自分がまた戻ってきたのだと実感した。
私はイシュタル。
エデルラント国のゴーデンバーグ公爵家の娘。
こんなことを言うと、頭のおかしな女と思われるかも知れませんが、私は死んで過去に戻ってきているのです。
しかも、一度や二度ではなく、これで5回目……つまり、4回死んだということです。
一度目は毒、二度目は衰弱、三度目は魔物、四度目は断罪となかなかにレパートリーに富んでいると思いませんか?
えっ?なんでそんなに落ち着いているのかって?
私も途中で心が折れましたが、しょげていても仕方ありませんし、いっそやり直せるんだから前向きにやっていこうと思いまして。
そうと決まれば、これまでの失敗と培った知識や経験を糧にもっと良い未来を掴み取って、これまでよりも長生きしてあわよくば幸せに……なんて。
そんな未来を勝ち取るのに必要なのは、公爵領の発展とそこに住む人たちの幸せ。
私はやるぞ!と決心したところで、そろそろ起きようかしら。
私を呼ぶ大好きな侍女は怒らせるととても怖いから。
……そうだ!
今回は彼女のことも助けられないかしら。
確か、お母様と一緒に流行り病で亡くなってしまうのよね。
「お嬢様!いい加減、起きてください!」
――はいはい。そんなに言わなくても起きますよ。
体を起こした私はベッド上から侍女に朝の挨拶をする。
「おはよう、サラ」
「おはようございます。お嬢様」
私の身支度はサラによってテキパキとすまされ、朝食を取るために私は広間へと向かう。
――今回もラハル様との婚約話が出るんだろうなぁ……
過去、4回全ての生において10歳のこの日、私はエデルラント国の王子であるラハル様と婚約する話が持ち上がる。
――まあ、別に受けても断っても逃げても流しても、死ぬことには変わりなかったから、適当でいいかな。
次また死んで帰ってこられる保証はどこにもありません。
しかし、人間はいつか死ぬものです。
そう考えれば気も楽になるというもの。
だから、私は開き直ってこう考えました。
―どうせ、死ぬんだから好きにやらしてもらいます―