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亡命

 人通りの少ない夜。港に近い王都の街路を往く質素な辻馬車が一台。

 それでも対面で向かい合わせに座れる箱型のそれは、貴族や裕福な商人が利用できるものだ。

 ランタン――角型の手提げランプを室内に吊るしたそこには、一組の男女と、連れの侍女が二人座っていた。


「一年、もつでしょうか?」

「分からないわ。でも出す必要はないわね。出産すればそのまま子爵家の正子として育てるように。お父様とラグラージ侯爵様はそれで納得するでしょう」

「……なさいますかな? じいには少しばかり謎めいておりますが」


 サラと執事、そしてサラの信頼のおける侍女たち。

 四人はこの夜更けにどこかに向けて馬車を走らせていた。


「王家と子爵家の約束。第三王子であるロイズの正妃として子爵家の女がその責任を果たすという、これはレイニーが代わりにしてくれるわ。ロイズにしても、最愛の女性が妻になるなら、文句はないでしょう? レイニーの実家のラグラージ侯爵家は政治的発言が増すし、お父様は既に公爵位。それも帝国に認められた存在だから、その身内から王子妃を出すと言えば……」

「誰も文句は言えない、そういうことですか」

「……そうね、形としては。それに陛下も納得されていたし、帝室と血のつながりがあればそれで文句はなかったようね」

「ラグラージ侯爵様とレンドール子爵、いいえ、今は公爵様でした。お二人はそれぞれ大臣の要職にあり、国内の有力貴族も文句を言えない、と。そこまでは理解できますが、お嬢様。宜しかったのですか?」

「何が、じいや?」

「王国内には王家とレンドール公爵家という、二大勢力が出来てしまいました。片方は帝国の血が流れず、片方は帝国の血を持つ。その間の架け橋になるレイニー様の御子様は……帝国の血を引いておられない」

「良いのよ。どうせ、レイニーの子供は子爵家の跡継ぎになるか、それともどこかに養子に出されるか。もしくは……」

「殺される、か。ですか」


 そうね、とサラは夜空をふと見上げ返事に困ってしまった。

 自分の本音を吐露してもいいものか、と。じいやは死ぬまでその思いを秘密にしてくれるだろうけど、彼を困らせていいものかと。数少ない理解者のことを思うと、つい言葉に詰まってしまったのだ。


「……私の報復は完ぺきなの」

「といいますと……?」


 サラは指折り数えて執事に説明する。

 隣に座る侍女たちも興味深そうに耳を傾けていた。


「王家が望むものを与えない。更に、レイニーの子供は庶民の血筋。それを王家に混ぜることでロイズがした暴力への仕返し、それと……愛してくれなかった両親への恨みでもあるわ」

「難しい内容ですな。王家は一番欲しがっていた帝国の血が手に入らないのですから」

「そうね、でも皇帝陛下は――反対される気は無さそうよ、じいや」

「やはり、この話題はこの場にいる者だけの胸の内に秘めましょう。しかし、驚きましたな。帝室すらも後ろ盾になるほどの動きを見せるとは。やはり……」

「そうね。ひいおばあ様の一件が半世紀以上の時間をかけて尾を引いた、ということじゃないかしら。じいやは知っていたのでしょう? 当時から、帝国はこの王家との縁を切りたがっていた、と」


 言えない現実もあるものですよ、と執事は嘆息する。

 サラは新たな人生を始めようとしていた。



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