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横暴

 

 でも待ってと一緒、思いとどまる。

 後ろに控えている近衛騎士を見るロイズの視線に何かを感じてしまった。

 王族を守るのが使命の彼らは、確証が発言を見過ごすだろうか? 聞き洩らすだろうか? あくまで主は国王陛下であってサラではないのだから。

 レイニーの素行不良をロイズが知らないのは何故? 

 あんなに目をかけていたのに。それが不思議だった。


「殿下、教えていただけますでしょうか。レイニーの遊び癖を本当に知らないと?」

「いや、それは……お前には関係ないだろう」

「婚約者にも話せない関係とか、そのような意味ですか? レイニーを側室にされるなら、相談してくださいとは言いませんが、せめて一言くらいは教えてくださいませ。場合によってはあの子が正室、私が側室ということもありえます。それとも、陛下の一存ですか?」

「そういうことではない、陛下は関係ないぞサラ……。変なことを言うな」


 そう言い、きょどきょどと目をそらすその様は嘘をついているか、それとも他に警戒しなければならない何かがいるか――この場合は、近衛騎士から父親へと報告がいくことだろうとサラは思う。

 それなら……


「四十、いいえ五十回かしら」

「何の――ことだ?」

「レイニーに邪魔された貴方との二人だけの時間を作る予定の回数です。それだけあれば、私もロイズ、貴方だっていまはもっと違った関係になれたかもしれない。こんなお互いを貶めあうようなことを、しなくて済んだのに」

「分かりあえる時間が減ったということを言いたいのか?」

「ある意味はそうですが、現実は殿下がレイニーを優先することで二人の時間が減りました。そう思うとあの子が疎ましくて仕方がないの」

「疎ましいなどと、お前……あれに何をするつもりだ……」


 今までに隠れていたサラの意外な一面を見せつけられて、ロイズは焦っているようにサラには見えた。

 横暴を押し貫いてきた彼は、自分が逆の立場になることはなかったのだろう。

 甘やかされ、好きな相手にだけは慈愛の心を向けてそれ以外には優しさの片鱗も抱かない。

 こんな男は誰にも愛されないし、君主にも向かない。

 育ててきた家族もそうなのかもしれないと思うと、サラは背筋に寒気を覚えた。

 

「何も致しません」

「何も望まない? そんなはずはない。お前はあれに対して少なからず、怒りを覚えているはずだ」

「ええ、そうね。そうかもしれません、でもそれはすべてとは言いませんが、殿下がレイニーを優先したからではありませんか」

「それは幼馴染だから大事だと……」

「婚約者の私を差し置いてですか? ですから、お伺いしたのです。レイニーをいずれ妻に迎える気があるのですか、と」

「私にはそんな気はないぞ。愛しているのはお前だけだ。妻をどうするかは私には発言権がない」


 今更ですか、殿下。

 その発言はあまりにも遅すぎますよ。


「私だっていま近衛騎士の方々がいなければ、こうして殿下にご意見などできませんから。何より、不敬があればこの場で捕まるのは私です。近衛騎士はあくまで王国の王族に仕えるのですから……王族に対して不利な発言など出来ません」

「そうか……それもそうだな。しかし、それは私も――同じ立場という訳か。なんとも皮肉なものだ。だがそうまでしてただこんな会話を望むのはおかしいな、サラ」

「……確かめたかったの、ロイズ。貴方が本当に私を愛してくれているかどうかを」

「どういう意味かな? それはいま告げただろう? 婚約者として教育してきたつもりだが?」


 サラはその言葉に対してさっき張られて腫れている頬を突き出した。

 口元からはうっすらと血が見て取れるそれは、赤く色黒く腫れ始めていた。


「こんな仕打ちをしてもですか? お尻や手の甲に鞭うたれるならまだ、隠せます。貴方が婦女子に対して手を挙げたと噂にならないようにすることもできます。でも、こうもあからさまにされたのでは、隠しようがありません。家族には愚か者呼ばわりされ、将来を伴にする不安におののく私を貴方は笑って見ていた。そんな二年間をもって本当に愛していると言われるの?」

「……私の教育に過ちはない」

「御自身が同じ目に遭ったとしても、同じことを言えますか、ロイズ。馬や牛のように鞭うたれ、打たれて愛もされないとしても?」

「わっ、私はそんな仕打ちをした覚えはないっ!」

「この怪我を見てまだそんなことを言えるんですね……。では貴族令嬢として相応しくない行いをすれば……貴方の幼馴染であっても同じ扱いをするというの?」

「もし――そうなのであれば……特別扱いはしない。その証拠があるのならな」

「証拠以前になぜそうまでレイニーを大事にしておいて、知らないの……ロイズ」

「あれには信頼を置いている。どう行動しようが、どんな噂が立とうが私はあれを信じるまでだ」

「まあ……!?」


 つまり、知っているけど見逃してきた。そういうことなのね、ロイズ?

 貴方は本当に卑怯な人。彼女の行いの多くを見逃してきたから、その範囲内なら許すってことなんだ?

 じゃあ……教えてあげる。知りたくないことを――。

 


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