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家柄

 彼には本当にレイニーが大事なのね。

 サラは内心でため息をつく。

 焦ったロイズの顔にそう書いてあるからだ……僕はレイニーが大切だよ婚約者の君以上に、って。


「レイニーがどうしたというのだ、サラ」

「お気になりますか?」

「もちろん、大事な幼馴染だ。パーティーを欠席したのもレイニーの調子が悪くなったからだと、君も知っているだろう?」

「ええ、もちろん。知っていますわ、王太子殿下」


 そこまで言うんだ。

 婚約者の目の前でよくもぬけぬけと……憎らしい。


「おまけに改まって爵位を呼ぶなどと、君らしくないな?」

「そうですか、ロイズ? すいません、貴方の打擲があまりにも酷くて、痛みで脳がおかしくなったのかもしれませんね」

「……っ!? サラ、それはどういう意味だ?」

「そのままの意味でございます、殿下」


 特大の皮肉を込めた笑顔をサラはロイズに向けてやった。

 王太子はわなわなとその手を握り締めて震えだす。


「どういう意味だと聞いている……」

「理不尽な暴力で無抵抗な婦女子をぶっておきながら、紳士だなんて偽善を振りまくあなたが婚約者だということが、私にはとても恥ずかしいのです」

「お前っ。またぶたれたいのか、まだ教育が足りないようだな……?」


 そう言い、サラに向かって再び手を振りかざそうとしてロイズは思い立った。

 いつものサラらしくない――なんだ、何を隠している?

 周囲をふと見まわしたらここは学院の片隅で、王族に近い貴族位の者しか入れないサロンなのに。

 どう見てもその場に相応しくない人物たちがいることに気づいた。

 彼らは帯剣はしていないものの、鋭い眼光と揺るぎない意志の光を放ちながら、それ以上の暴挙は許さないとばかりにサロンの少し離れた場所で二人を囲むようにして座っている。


「誰だ、あれは」

「……近衛騎士の方々ですわ、殿下」

「近衛騎士!? 王族のしかも、王宮における衛士がなぜここにいる?」

「ロイズ、貴方は御存知ないの? 我がレンドール子爵家も元は公爵家。立派な王族でございます」


 王国の王位継承権をはく奪された王族だけど。

 ロイズの目はそれを認めたくないと、細くなる。


「それも帝国皇家と血脈を持つ……没落した身ではありますが」

「そうだな、今では子爵家だ。それも裏切り者の末裔だろう?」

「それであってもロイズ、血は血。王家には既にない帝国の血も持つのは我が家だけですわ。ですから……近衛騎士を護衛にと望めば、このように駆けつけてくれますわ」

「サラ、お前……。どういうつもりだ、これは謀反だぞ!?」

「謀反? 何をもってそんな愚かな妄言を説かれるのか理解に苦しみますわ、殿下」


 サラはまぎれもない真実を見せつけてやる。

 ロイズにはなくて、サラにはあるもの。

 名ばかりの親戚という王家と、曾祖母を通じて王家とも皇帝家とも血縁関係を持つ子爵家。

 王家が欲しくてたまらないものを、サラは持っているのだ。

 それは血だけでなく、その中に含まれる――皇帝家の末端に連なる……


「貴方は王国の王位継承者。私は宗主国の王位継承権と王国の王族。ただ、それだけの差ですわ、ロイズ」

「お前には皇帝家の帝位継承権があるとでも言うのか!? あの忌まわしいアルナルドのようにか!?」


 ほら、本音が出た。

 愚かな王太子殿下はアルナルドへの対抗心だけは誰にも負けないのだから。

 爵位は低くても、家柄だけでいえば貴方には負けない。

 サラは近衛騎士を使うことにより、それを実証して見せた。


「あの、アルナルドのように……ですわ、王太子殿下」

「ふん……爵位では格下の子爵令嬢が、受け継いた資格でいえば私より上、か」


 アルナルドに頼ってもいい、父親を説得し、彼を通じて国王陛下に直訴する、そんな手もあった。

 だけどこの権威が大好きな王太子殿下に最も効果があるのは、自分以上かそれと同程度の地位にある相手に暴力を奮ったと自覚させること。

 サラの思った通り、ロイズは悔しそうに唇を噛む。

 それでも賢い判断はできたのだろう、挙げようとしたその手から力が抜け落ちるのをサラは見てしまった。


「……我が婚約者殿。何が望みだ……」

「特に何も。ただ、申し上げることは先ほどのことだけです。レイニー様、いいえ。レイニーが恋人のオペラ歌手と共に我が家に来ましたわ」

「何? いつのことだ? 私はそんなことは聞いていないぞ」

「あの夜のことです。殿下は私におっしゃいましたよね? レイニーの体調が悪く心配だから今夜は行けないと」

「そうだが、それは本当か?」

「事実です。招待客の多くがめにしています。彼女はとても明るく、陽気でお酒に酔ったようにして我が家にいらしましたわ。招待していないと告げると、さんざん、私を罵って帰宅したと家人から報告を受けましたけど」

「馬鹿な、レイニーはあれからすぐに私が見舞いに行き、確かに大人しく寝ていた……」


 本当に彼女の遊び癖を知らない?

 そんなはずはないでしょ、ロイズ。だって、そのオペラ歌手と引き合わせたのは貴方なのだから。

 あくまでも幼馴染の悪行に目を瞑るらしい王太子に、サラは執事から聞きつけ、父親と共に調べさせたたもう一つの事実を告げることにした。


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