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第四話(ヨシュア視点)

 クソッ、クソッ、クソッ、もっと従順な女だと思っていたがムカつく奴だ。

 何が「勝手に私を捨ててエレナを婚約者にした」だ! だからエレナが性悪だと教えてくれれば別れないでやったって事が分からんのか、畜生! 


 後ろに護衛がいるから強気なんだな。

 こうなったら分からせてやる。俺の本気の怒りの恐ろしさを……!

 俺はアリシアの頬を思いきり叩いてやろうと手を振り上げた。


 だが、その手はいつの間にか俺の手を掴んでいたアリシアの護衛の一人に阻まれる。


「退け! 俺を誰だと心得る!?」


 こいつ、馬鹿な奴だな。俺の身分を知らずに反抗してきたらしい。

 さっさと手を離せ。さもなくば、お前は仕事を無くすことになるぞ。

 

「貴様こそ、アリシア様に無礼は許さん! 何としても彼女を守れ……! これはアルフォンス殿下より授かった私たちの使命だ!」

「あ、あ、アルフォンス殿下ぁ……?」


 な、な、な、な、なんでアルフォンス殿下の名前が出てくるんだ?

 意味が分からないが、腕に込められた力が強すぎて骨が折れてしまいそうになる。

 こ、こいつ、何者だ。本当にアルフォンス殿下の護衛なのか……。


「アリシア様のことをご存知ないのなら、教えてやる。ヨシュア・チャルスキー、よく覚えておけ。この方はアルフォンス殿下の婚約者であらせられる。手を上げるなど言語道断!」


「あ、アリシアが婚約者……? アルフォンス殿下の……? ば、馬鹿なことを言うな! こいつは最近まで俺と婚約していたんだぞ!」


 今にも俺を殺しそうな程の迫力で護衛の男は、アリシアがアルフォンス殿下の婚約者などという荒唐無稽を述べる。

 馬鹿も休み休み言え。確かにアルフォンス殿下にはずっと婚約者はいなかったが、それは秘密にしているだけだと思っていた。

 少なくとも唐突にアリシアと婚約するはずがない。


「アルフォンス殿下にも事情があるのだ。さっきの暴言と暴行未遂は知らぬことだとしても許されぬ。殿下には報告させてもらうからな」


「な、なんだとお前……! たかがアリシアの護衛のくせにエラソーに……!」


 ふふーん、なるほどね。分かったぞ。

 こいつ、ハッタリをかましているんだ。俺を怯えさせて、アリシアに攻撃させないように。

 アルフォンス殿下の婚約者なんて大層な嘘をつきやがって。

 まぁ、無理もないか。俺はこのチャルスキー侯爵家の跡取りなんだからな。

 王族の名前を出さないと動じないと踏んだか。


「謝罪もしないのか。この男、不敬であるとも報告せねばならんらしい」


「あはははは、そんなハッタリで俺を誤魔化せるものか! どうしても謝らせたいのなら、アルフォンス殿下を連れてくるが良い。出来るのならばな……」


「良いのか? そんなことを言っても……。アルフォンス殿下は必ず来るぞ。今度は侯爵殿が在宅中に――」


 見ろ、アリシアはずっと黙って心配そうな顔をしているではないか。

 父上がいるときにアルフォンス殿下がやって来る? 引っ込みがつかなくなったからって冗談きついぞ。


 はい、ハッタリ確定でーーーす。

 覚えてろよ、アリシアの護衛よ。お前、もうおしまいデスッッッッッ!


 ◆ ◆ ◆


「で、ヨシュアくんだっけ? 僕の婚約者を殴ろうとしたと聞いたが」


「愚息がとんだ粗相を! 貴様! エレナに続き、アリシアまで! チャルスキー家の恥晒しめ!」


 ど、ど、どうしてこうなったーーーーっ!?

 先日、アリシアの護衛が生意気なことを抜かしたので、締めてやろうと思ったら……。

 本当にアルフォンス殿下が出てきやがっただと!?

 

 ――は、ハッタリって顔していたじゃん!


 そりゃ、一貴族の護衛としてはきっちりした格好をしていたし、只者じゃない雰囲気はしていたけど、アルフォンス殿下の婚約者にあんな数日でなるはずないって思うじゃないか。


 意味が分からない。誰かが俺を嵌めようとしているとしか思えない……。


「何か言わんか! 頭を下げろ! 親にこんなことを言わせるな!」


「……え、えっと、ほ、本当にアルフォンス殿下ですか? ほ、本物……?」


「貴様、何を訳のわからんこと言っとる! この馬鹿息子が!」


「痛っ!」


 あまりに現実味がなくて、俺はついアルフォンス殿下が本物かどうか聞いてしまった。

 すると、親父は怒って杖で俺を殴る。


 いや、だってさ。本当に殿下が文句言いに来るなんて思えないじゃんか。


「僕の顔を覚えていないのか? まぁ、偽物だと思っているなら、そう思っていても構わないよ」


「い、いえ、本物の殿下です。間違いなく」


「当たり前だ! バカタレ!」


「痛っ!」


 くっそーーーー! アリシアの護衛のやつ、アルフォンス殿下に告げ口しやがって。

 権力を盾に脅してくるなんて最低じゃないか、こんちくしょう!


「チャルスキー侯爵、あなたは彼を跡取りだと考えているらしいが……」


「は、はぁ……。確かに前々から軽率な態度が目立っていましたが如何せん一人息子だったものですから、つい甘やかしてしまいました」


 くっ……、殿下にお叱りを受けるのは痛いが、この家は俺しか継ぐ者がいないんだ。

 俺には妹はいるが、この家には男子は俺しか居ない。

 父上も結局のところ――


「こうなったら養子を取るしかないと決心がつきました。この男だけはチャルスキー家を継がせてはならぬと、ワシも心を鬼にします」


「へっ……? ち、父上……?」


 はぁ! はぁァァァァ! はぁァァァァァァァァァァァァ!!

 よ、よ、養子だと!? 息子がちゃんといるのに養子って言ったか!? このクソ親父!

 てか、このクソ親父……そもそもエレナの腹黒にも気付かなかったよな!?

 意味が分からん! どうしてこうなったんだ……?


「……エレナのせいだ」


「なんか言ったか!?」


「い、いえ何も……」


 そ、そうだ。こうなったのも、全部エレナのせいだ!

 あの腹黒性悪女を締めて、全ての悪事を吐かせてやる!

 父上もエレナが自らの悪事を告白したら、俺に同情して廃嫡宣言を取り消してくれるだろうし……。


 見てろ、エレナ! お前のこと、絶対に許さないからな!


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