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第三話

 何だか現実味が湧きません。

 あのアルフォンス殿下が私のことをあんなにも長く想ってくれていたなんて。

 

 あの後、怒られて泣いていた記憶しかないことを正直に告げますと、アルフォンス殿下は笑って許してくれます。


『僕の方こそごめん。そうだよね、思い返してみれば君はずっと泣いていた。とても僕の言葉を聞ける余裕はなかったのに、勝手に舞い上がってしまって……。恥ずかしいよ』


 私が忘れていたというより、きちんとアルフォンス殿下の言葉を聞いていなかったが為に、彼には十年もの間、待ちぼうけをさせてしまったのに――逆に謝られてしまって、申し訳ない気持ちが込み上げてきました。

 

 しかし、アルフォンス殿下は私の手を握り、別れる間際に――。


『十年なんてどうってことないさ。これから君と同じ時を過ごす数十年を考えれば、ね』


 勿体ないお言葉をかけて頂き、私の胸の鼓動は一気に跳ね上がります。

 これからアルフォンス殿下と結婚して上手くやっていけるか、の心配よりも彼との生活が待ち遠しいという気持ちが遥かに上回ったのでした。



「アリシア、ようやったのう! あのアルフォンス殿下との縁談を成立させるとは! さすがは自慢の娘だ!」


 ヨシュア様との婚約が決まった日にも同じことを仰っていたような気がしますが、父が調子が良いのは今に始まったことではありませんので、気にしません。


 私が心配しているのは、エレナのことでした。

 あの子、侯爵家の嫡男であるヨシュア様が私と釣り合っていないと言っていましたが、第二王子である彼との婚約を聞けば何を言い出すのやら、不安でなりません。


「あ、あのう。お父様、エレナにこの話は……」


「おおっ! さっき、お前が来る前にヨシュア殿のところから戻ってきたのでな。朗報だと伝えたよ。結果的にお前の婚約者を奪った形になったし、気に病んでいると思ったからな!」


 ――すでに伝わっていましたか。

 まぁ、隠していた所ですぐにバレることですから。どうにもならないのですが。


 とはいえ、ヨシュア様と婚約しているエレナが何かするとも思えませんし、そこまで警戒しなくても良いのかもしれません。



「アリシア姉様、聞きましたよ。今度はアルフォンス殿下と婚約されたとか」


「……そうですね。あなたのおかげで二度も婚約をすることになりました」


「ふふ、そんなに目くじら立てなくてもよろしいではありませんか。ヨシュア様よりもアルフォンス殿下のほうが格上なのですから。寧ろ感謝して頂きたいものです」


「格とか、そういう問題ではありません。品性の話をしているのです……!」


 悪びれもせずに、自分のおかげでアルフォンス殿下と婚約できたというような言い方をするエレナに私は不快感を抱きます。

 この子は本当に微塵も私に悪いことをしたと思っていないのでしょうか?


「ヨシュア様って、本当におバカさんなんですよぉ。ちょっと挑発したら、侯爵様が見ている前で私のこと叩いて、怒られて……愉快な方でしたわ」


「あ、あなた、一体何を――?」


 間もなくのことでした。

 私がヨシュア様に呼び出されたのは――。

 まさか、エレナの本性が彼にバレているなんて。


 ◆ ◆ ◆


 アルフォンス殿下に元婚約者であるヨシュア様が私を呼び出したことを伝えると、自らの護衛を私につけてくれました。


「その日は都合がつかないから、同行出来なくてごめん。でも、僕の護衛は優秀だから君を必ず守るよ」


 彼はそう告げて、ヨシュア様の元に向かうことを許してくれたのです。 

 妹が不穏なことを口にしていましたから、どうしてもそれが気になった私はアルフォンス殿下に感謝して、侯爵家に向かいました。


 どうやら、ヨシュア様の父である侯爵様はいらっしゃらないみたいです。

 あえて、この日を指定したのは侯爵様に聞かれたくない話があるからでしょうか?


「やっと来たか! 待たせやがって! この不義理者が!」


「不義理者……?」


 テーブルに足を置いて、怒りの形相を見せながらヨシュア様は私を睨みつけます。

 不義理者という言い回しは気になりますね……。

 婚約者を簡単に乗り換えたヨシュア様こそ不義理者なのではありませんか……?


「なんだ、エラソーに護衛なんか連れてきて。たかが伯爵家の護衛がこの俺に手出し出来ると思っているのか!? 気に入らない……!」


 そして、私の背後にいるアルフォンス殿下の護衛を一瞥して、ヨシュア様は更に暴言を吐きます。

 一体、何がここまで彼を怒らせているのでしょう。

 やはり、妹が何かしたのでしょうか……。


「あの、ヨシュア様。今日、私を呼んだ用件というのは?」


「お前の妹のことに決まっているだろ!? よくも、あんな性悪な最低女を紹介しやがったな! あいつのせいで俺は父上にどれだけ叱られたか――」


 ここからヨシュア様は妹のエレナが馬車で自分の悪口を言っていた事から始まって、それを追求すると彼女が開き直ったことや自分の父である侯爵様に泣きついた事などを話しました。


 そして、最終的にエレナの挑発的な態度に怒って、彼女を打ったらしいです。


「あんな女だと知っていたら婚約などしなかったのに! お前、なんであのとき教えてくれなかったんだ!? 話すチャンスは沢山あっただろう!?」


 どうやらヨシュア様の中で私は悪者に仕立て上げられているようでした。

 エレナと婚約する前に彼女の本性を話していれば――と言われていますが、それを言おうとしたとき彼が自分で遮ったことを覚えていないらしいです。


「知りませんよ。あなたが勝手に私を捨ててエレナを婚約者にしたのではないですか」


 私は自分勝手なヨシュア様に怒りを覚えましたが、どうにか堪えてそれだけ伝えました。

 今さら、私に出来ることもありませんし……。


「なんだと! お前もクソ女かよ! うぐっ……!」


 血走った目で私を見たヨシュア様は、立ち上がって私を殴ろうとします。

 しかし、目にも止まらぬスピードで前に出てこられた護衛たちによって彼の腕は止まります。


「退け! 俺を誰だと心得る!?」

「貴様こそ、アリシア様に無礼は許さん! 何としても彼女を守れ……! これはアルフォンス殿下より授かった私たちの使命だ!」

「あ、あ、アルフォンス殿下ぁ……?」


 殿下の名前を聞いたヨシュア様はへなへなと力の抜けた声をだしました――。

 

  

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