神は神でも破壊神
男神官に言われて、俺は崩れかけた神殿の最北部にある文殿へ向かった。
そこには、地下ダンジョンにいる化け物との戦闘でもあったかのような、大きな爪痕が多くあった。ここに来るまでに、欠損している石像がいくつもあったが、地震にでもあったのだろうか。
床にはいくつもの散らばった書物。
その中でやっと読める本を一冊見つけたが、
中身の文字は箇条書きのような、日記のような走り書きだ。たぶん前世の俺だったらこんな象形文字読めなかったね。さすが俺、神ってる。
「えーと、勇者、破壊神を楽園に封印す。人間の生贄を神官とし、門の番人とす」
………は? 破壊神?
「いやまあ、神だけど、神じゃないってか、神の一種だけど、亜種的な敵の裏ボスみたいなやつで、それって、もしかしなくても、つまりは
俺かああああああああああい!?」
「破壊神ちゃま」
リーナが壊れかけの本棚の上から
こちらを見下ろしていた。
「ふふふっ。だから言ったでしょ?
人間界には絶対に行かせないって♪」
地下ダンジョンの扉の前で俺を殺そうとした時、リーナにそんなことを言われた気がする。
華麗に伏線回収したなぁ、オイ。
「俺は、もう破壊神じゃない」
ちょっと格好良く言えた気がする。
どんな神だったにしろ、俺は神サマ卒業。
おめでとうございます、今後のご活躍を期待しています、くらい欲しい。
「アンタは破壊神。いつでもアタシが嬲り殺してあげる」
おかしいな、かわいい天使のリーナさん性格設定替わっていませんか。
いま、アンタとかアタシとかって言いませんでしたか?わかったこれ、バグだよ、絶対。
「これで、少しは私共の立場もわかっていただけましたか?」
半開きを通り越して、半壊している扉から男神官が現れた。
「夜の刻限です。おやすみになりませんと。リーナ、行きますよ!」
「わかってますよーだ」アッカンベーをしてから、リーナは、高い本棚の上から身軽に降りてきて、俺を振り返った。
「神ちゃま! アタシだってね、こんな所いたくなんてない。でも、運命には逆らえないの!!」
慌ただしくも最後にはいつものように神に拝礼をして去る神官たちを、俺はただ見つめるしかなかった、わけではない。
こっそり二人の跡をつけた。
たぶん、この後俺は不純異性交遊を目撃するだろう。その時、今から楽園は恋愛禁止令を発令することを神の口から神官に伝えなければならない。
これもまた何かの運命なのかも知れない。
男神官の部屋の前までくるころには、楽園は闇の中に沈んでいた。今日は珍しく空に星が一つもでていない。そして、至るところに霧がでてきたせいで、嫌な足止めをくらう。
男神官の部屋の扉が半開きになっていた。
何かあった?
リーナと男神官は石のベッドに座り
「石化してる」
思わず声にでていたが、問題はなさそうだ。
俺しかいないし。
「男神官さーん、リーナさーん、不純異性交遊は今から禁止ですよ。じゃっ、そういう事で。おやすみなさーい」
神殿の寝所に向かう俺の心臓がバクバク動いているのがわかる。
もし、夜が明けても二人が石化のままだったら。一人で逃げられるかもしれない。
「俺は……どうしたい?」
最初の宝箱からでた薬のような瓶を、
俺はまだ使っていなかったはずだ。
急いで神殿の寝所から神官の部屋にもどり、
隠していた薬を二人に半分ずつかけた。
「……神、神よ。お目覚めください」
男神官の声がする。
薬が二人分なかったせいか、石化はすぐに解除はされず、少しずつ石化した肌が鱗のように一枚一枚剥がれ落ちていった。その様子を徹夜で観察していたはずが、途中にどうやら俺は眠ってしまったようだ。
「このような最高級の魔法薬を私共にお使いくださるなんて……!!」
大の大人が涙ぐむ姿は若干異常だ。
「リーナは?」
「ダンジョンから瘴気が漏れていたようです。朝一番に対処に向かいました」
あれだけバクバクしていた胸の苦しさも、今はもう消えていた。
結局その日はゴキゲンな男神官と二人きりになってしまった。話題もつきたころ、ふと聞いておこうと思った。
「お前と、リーナの関係って……」
リーナはどう見てもまだ10代で、コイツは20代か30代はいってるだろう。
「リーナは、私の遠い親戚ですね」
「親戚?恋人じゃない?」
「それはありえませんね。彼女は、私が楽園に来たときには存在していました」
聞くと男神官の血統は代々神官を輩出してきた家系だった。
本来は門番は一人なのだが、リーナは生き残っていたという。ああ見えて、100年以上は生きている。
「オバぁ……いやなんでもない。生き残るって、なに?ここそんなにヤバい?」
俺がきくと、男神官は満面の笑みで答えた。
「神と話ができることは、稀なことです。この奇跡に立ち会えたことに、私は心から感謝いたします」
それってつまり俺がヤバい奴の意味なのか、、、?
「私はこれから、リーナを迎えに行きます。
神は、お休みください」
「名前、何ていうんだっけ?」
ふと、男神官の名前は、知らなかったなぁと思いだす。
「セヘジュとでも、お呼びください」
なんだか、一歩下がっているように感じる。
「リーナはなんて呼んでるんだ?」
「………セジュです」少し悩んだあと、顔が少し赤くなった気がした
「セジュ!決定。これからよろしくな、セジュ」
「神……わかりました」
セジュは相変わらずだ。
「神っていうのなし。俺の名前はーーー」
前世の名前を使うのもなんだかなぁとおもったので、よくRPGゲームにつけていた勇者の名前にした。
「ネオ。言ってみ?」
「神の名を口にだすなど、恐れ多いことです」
あー真面目君だーまだ当分フレンドリーにはなれないわあ。前途は多難だが、この一件で、わかったことがある。
俺は、この場所に囚われていたのは、自分だけだと思っていた。
だから、神官もやめていいことにしよう。
「なぁ!セジュとリーナも俺と一緒に人間界行こーぜ?」
あからさまに明るい声で勧誘してみたが、
どうやら逆効果だったらしい。
「お戯れが過ぎます」
セジュは時々、超冷酷な笑みをすることがわかった。