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俺は新世界の神に、以下略

暗い。暗い。どこまでも暗い道。黒い壁のような物で周りには何も見えない。けれど、ほんの一瞬、微かに一方から光のようなものが見えた気がした。


気がつくと俺は全身に包帯を巻きつけられていた。

「ご、ごめんなさーーい」

笑い声なのか泣き声なのか区別のつかない女の高い声が頭に響く。

そして呆れた男の声が、途切れ度切れに聞こえる。

「また☓☓しましたね」



明るい。雲一つない、真っ青な空が見える。

「まぶ…しい……」

「神よ。お目覚めになりましたか」


視線をずらすと横には、長ったらしい邪魔そうな服を来た人物が、美しい遺跡の背景の中に一人立っていた。

ベッドというには硬すぎる石の上で、

俺はギシギシなる上半身を可能な限り持ち上げて話しかけた。

「アンタ達、だれ?」

男「神よ。私をお忘れですか?」

質問に質問で返されるのはあまり気分がよくない。

「だーかーらーアンタ誰?!ここどこ??なんで俺ここにいんの?!」

俺は少し強い口調で目の前の長身の男に向かって怒鳴りつけた。

男「神。私たちは貴方にお使えする神官です」

女「あーん、動いちゃダメー!えっえー?

私のことも覚えてないの??おバカさん?」

いつの間にか現れた女のほうは、俺の額と髪を何度もヨシヨシしながら子供に語りかけるように俺に話しかけた。正直初対面のちょっと可愛いくらいの顔の女にそんなことされても嬉しく無い。断じて無い。


「・・・」

「神です」神官とか名乗った男は、顔色一つ変えずその言葉を繰り返す。

「だからそれ何?!神って?カミサマ??はぁ?誰が?」

「貴方が、神なのです」

男のキッパリとした物言いに、偽りや冗談は感じない。

「あーなに?そういう、なんか劇?テレビ?ドッキリ?俺まさか俳優にでもなって新世界の神にでもなっ…イテっ……」

俺は何を言っているんだろう。どこかで見た映像が一瞬一瞬流れて、知らない言葉がポロポロ溢れていく。そして映像が映るたび、頭がズキズキ痛い。マジで痛い。


「ここは神が住まう楽園です。貴方は神に選ばれた。ただそれだけのことです」

男の神官は冷たく言い放つと、急用があるとか言ってさっさとどこかに行ってしまった。


女の神官はさっきからずっと俺の頭を撫でている。

「神ちゃま。あたま大丈夫?」

「触んな!」

そろそろ子供扱いはやめにしてほしい。


「お前、誰?あー女神官だっけ?名前は?」

俺はとりあえず、この事態を素直に受け入れることにした。

「え?」

「名前。女神官って役職だろ?」

「リーナ。名前はね、リーナだよ」

「ふーん……似合ってる」

男子校出身の俺の口から出た最上級の褒めことば。

リーナは一瞬目を見開いた

「へへっ……やっぱり嬉しいなぁ」

少し恥ずかしそうに頬を染めるリーナは、神官というより、天使に近い気がした。



俺の傷だらけの汚い体は、石の上で寝ているだけで少しずつ治っていった。包帯箇所が体の半分になった頃、リーナに連れられ、楽園を案内すると言われ連れ回された。

綺麗に整備された遺跡のような場所。それが俺の楽園への第一印象だった。リーナともう一人の男の神官の部屋は別にあり、日が登れば俺の元にきて身の回りの世話をし、日が暮れると帰る生活だった。楽園にはトイレがなかった。リーナがもってくる食べ物をいくらたべても排泄されない体は、便利なようでどこか気持ちが悪い。


「ここから地下ダンジョンに入るの!」

リーナの案内で、楽園の中心にある巨大な宮殿のような建物の中の秘密の部屋を通り、階段を見つける。

「地下ダンジョン?」俺はおそる暗い地下の階段の先に視線を向ける。先の方は漆黒の闇しか見えない。

「そう。神ちゃまは昔、人間界にいたんだけど、この地下ダンジョンを抜けて楽園に来たんだって言い伝えられてる」

「何で急にRPGみたいに……」ああ、また俺の頭が痛くなる。


「神ちゃま。絶対にここには入らないでね。また☓☓しちゃうから」


リーナの最後の言葉は地下ダンジョンから響く風の音でうまく聞き取れなかった。



それからどれくらい経ったのだろうか。

神の仕事はリーナたちがもってくる貢物を食べるばかりで、いっこうに仕事らしい仕事はなかった。傷も治り、包帯がすべてとれたころ、俺はあまりの代わり映えのしない生活に嫌気がさしてきた。


「ニートってそんなに続けられるもんじゃねーのな……」ニートってなんだっけ?

どうやら、俺には神の記憶ではない、別の記憶が混ざっていることを感じていた。

男の神官は「神に前世などありえません」

とキッパリスッキリ断言してくれたが、リーナは「私は信じるよ」と言ってれた。

「ありがとな」頭をそっと撫でてやるとリーナは嬉しそうに微笑んでくれる。

「わたし、今の神ちゃま大好き!」

リーナは楽園で唯一の俺の天使だ。



「鍵を、見ませんでしたか?」

ある朝、少し焦ったように男の神官が話しかけてきた。

こんなふうに表情を変えることは珍しい。

首をふって「知らない」と答えると男の神官は落胆したような表情で「そうですか」と小さくいい、足早に去った。


「鍵ってこれのことだろうなぁ」

布に大事そうにくるまれた古びた銅の鍵。

神殿の宝物庫から盗み出したのはつい先日のことだ。

俺、いや、我は、神である。神は、万能なのである。というつもりは毛頭ないが、前世での謎の鍵あけ技術を思い出した俺に、開けられない部屋はない。最初は小さな宝箱から挑戦して、今や宝物庫の扉くらいなら開けられる。まあ、まさか中に、入っていたのが鍵の入った宝箱一つとはだれも思わないだろうけど。


最後にとせっかく開けたリーナの部屋には、リーナの姿はなく、彼女は夜、男の神官の部屋にいた。

俺は座り慣れた硬い石の上に、

【神、やめます】と書いた石版を雑に置いてきた。


いかんせんこの楽園には人がいなさすぎる。

神官二人に崇められても、正直つまらない。

つまらないなら、他の方法を考えるしかない。

そう、つまり、地下ダンジョン!

あそこを攻略して人間界に行けば、俺ってばもっとモテモテ…いやいや、人間から崇めてもらえるんじゃないか?!あ、でも神やめたんだった。

だが、最初にわざわざリーナがこのダンジョンを案内したのは、ストーリーを先に進んでほしいからだと俺は完全に理解した。


だから、なんの疑いもなく、俺は地下ダンジョンに足を踏み入れた。

そんな装備で大丈夫なのか、正直まよったが、

元・神なわけだから、なんとかなるだろう。

ダンジョンといっても化け物の姿はなく

最初は洞窟。最深部にまでいくと2階への汚い石の階段があった。いくつもの岩の部屋をすり抜けると3階への階段が見えてきた。

俺の視界にだけ存在していないだけで、何かの気配は、ダンジョンに入ったときからずっとしていた。

扉の先からはうっすら光が漏れている。

「このさきが、人間界?」 

俺の独り言に答えたのは意外な人物だった。

「その先は絶対に行かせない」

「リーナ……え?」

突然現れたリーナが、問答無用とばかりに手にした鎌のようなもので切りかかってきた。

ボタボタと目の上に降ってきた何かで俺の視界はすべて真っ赤になる。



「生まれ変わったら、何になりたい?」

昔誰かに聞かれたことがある。

「神様になって理不尽な目にあっている人を助けたい」

偉いなぁ小さい俺。

俺はせっかく神になったのに、誰も助けられずまた逃げるだけなのか……?




気がつくと俺は石の台座の上て全身に包帯を巻きつけられていた。「ご、ごめんなさーーい」リーナの声が頭に響く。

そして呆れた男の神官の声が聞こえる。

「また殺りましたね」


たしかに、鍵を盗んだのは俺だけど、

だからって神を半殺しにしなくてもいいんじゃないか??





レッツ、リトライ?(たぶん続きます)

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