第6話 従魔と馬車購入
次の日、朝早くからダンジョンに向かった。
初心者向けのダンジョンなので俺達でも入れる。ダンジョンの前には兵が二十人待機し、俺達がギルド証を提示するとすぐに入れてくれた。
ダンジョン内部は洞窟のようなもので内部にはヒカリゴケが薄明かりを照らしてくれるのだろうと思っていたが、ダンジョン内部には夜光石と言うものが天井にあり、蛍光灯のある室内と変わらないほどに明るかった。
ダンジョン内部は一階に俺達と同じGランクが大勢集まっており、ゴブリンと戦っていた。
ここは一~二階層がGランク、三~四階層がFランク、五階層がEランクの実力があると言われており、五階層をクリアすれば、Eランクの実力があると冒険者ギルドが認め、一気にランクアップするチャンスだそうだ。
「茜、二階層に行こう。一階層はゴブリンだけみたいだ」
「そうね。私達、ゴブリン程度の魔物なら、結構な数を斃しているから、先を急ぎましょう」
俺達は二階層に向かう途中で襲ってきた魔物は茜が瞬殺し、斃した魔物を俺がストレージに収納した。
漸く、二階層に辿り着くと、いきなりゴブリンの群れが現れた。
俺は急いでガントレットを装着し、ブーツに魔力を注ぐと素早い動きでゴブリンの群れに飛び込み、ゴブリンを殴っては斃し、殴っては斃しを繰り返した。俺も攻撃されているが、茜にもらった革鎧が防御してくれているので問題はない。
茜と一緒に三十匹ほどの群れを斃すと今度はゴブリンの上位種、ゴブリンソーサラー、ゴブリンヒーラー、ゴブリンジェネラル、ゴブリンキングが勢揃いして待ち構えていた。
「茜。ここは俺にやらせてくれないか?スキルを得るチャンスだからな」
「わかった。でも、危ないと判断したら、加勢するからね」
「ああ、頼む」
そう言うと俺はミスリルの剣を抜き、ソーサラー目掛けて走り出した。
ソーサラーが、俺に火魔法を放とうとするが、俺は構わず突進した。ソーサラーが放った魔法が俺に命中する寸前にマントで防御すると火の玉がマントに当たった瞬間に消滅した。その隙にナイフをソーサラーとジェネラルに続けざまに投擲し、立ち上がると短剣と剣の二刀流で素早く近付き、ソーサラーを切って斃し、すぐにジェネラルに駆け寄ると短剣を投げつけ、ジェネラルがナイフを回避した瞬間に剣で斬り斃した。
ヒーラーも一緒に斃したかったが、キングの後ろに隠れているため、斃すことができない。そこでキングに煙玉を投げつけ、モクモクと上がる煙にキングが怯んだ隙にヒーラーの背面に回り込み、ヒーラーの背中を切った。そして視界を奪われ、慌てるキングにそっと近付き、首を切り飛ばした。
斃したと思ったのだが、キングは斃れず、首から頭が再生しようとしている。俺は慌てて両腕、両足、腹を切断し、背中から滅多刺しにすると漸くステータスの生命力がセロになり、キングは斃れた。
「ご苦労様。ところでさぁ。キングの頭って再生しようとしなかった?」
「生命力がゼロになるまで再生スキルが働くようだ。それより、魔石を取り出さないと」
俺はゴブリン上位種の四匹を解体し、胸の辺りから魔石を取り出した。
取り出した魔石は小さな赤い宝石のようなもので、ソーサラーには火魔法、ジェネラルには従魔と剣術、ヒーラーには治癒魔法、キングには槍術と再生のスキルを持っていた。
俺は四つの魔石に集中し、『アブソーブ』を唱えた。すると魔石から、俺に赤い光が流れ込み、俺のステータスにジェネラルの魔石から従魔のスキルが、キングの魔石から再生のスキルが加わった。だが、残念なことにソーサラーの火魔法、ヒーラーの治癒魔法、ジェネラルの剣術、キングの槍術スキルを得ることはできなかった。
「どうしたの?スキルの会得に失敗したの?」
俺が考え込んでいるのが気になったのか、茜が聞いてきた。
「この魔石をみろよ。ソーサラーの火魔法スキル、ジェネラルの剣術スキル、ヒーラーの治癒魔法スキル、キングの槍術スキルが吸収できなかったんだ。だから、魔石も赤いままだろう?」
「ほんとね。ん~・・・・・・やっぱり、職業が関係しているんじゃない?だって悠太は鑑定士でしょう」
「やっぱり、茜もそう思うか」
「別にいいじゃない。剣術スキルがなくても剣は振れるんだし、そう落ち込まないで。レベルが上がれば吸収できかもしれないよ」
「じゃあ、スキルの有無で何が違うんだ?」
「そうねぇ。私の暗殺剣で言えば、力量や能力、才能や技量が最初からあるって感じかしら。まあ、私の場合は居合を習っていたから、最初から経験値はあった訳だけど、暗殺剣を使う時、技名が自然と頭に浮かぶのよね」
「その違いがスキルか。まあ、魔法の場合はスキルがないと使えないからな。茜の言う通りだな。この世界の摂理を考えたところで仕方がないか。魔石は暫く俺が持っているよ」
「わかったわ。じゃあ、このまま先に進みましょう」
俺達は三階層に行くルートを探した。このダンジョンは階層によって迷路になっていたり、直線だったり、大きな洞窟があるだけだったりと違うのだ。
俺達が三階層に到着するとそこもあったのは草原だった。
「ここは草原か。茜、魔物の気配は?」
「こっちに向かってくる魔物はいないわよ。でも、あそこを見て。誰かが戦っているようよ」
茜に教えられた方向を見ると、五人組のパーティーがダチョウに似た肉食の大型鳥のアクスビークと戦っている、と言うよりも捕まえようとしているように見える。
「あれは捕獲するつもりじゃないかな?」
「何で?捕まえてどうするの?」
「多分、従魔にするか、売るんじゃないかな。確か、アクスビークはかなり早いらしいから、馬代わりに馬車を引かせることがあるって本に書いてあった」
「じゃあ、私達も捕まえようよ。悠太の新しいスキルの従魔があれば大丈夫でしょう?」
「多分、大丈夫だと思う。従魔にできたら、馬車でも買うか」
「賛成!じゃあ、早速、捕まえましょう」
俺達はアクスビークを探した。と言っても草原なので簡単に見つかるが。
俺達が見つけたアクスビークは全身白い羽に覆われた綺麗な身体をしていた。二手に分かれ、茜が隠密スキルでゆっくりとアクスビークに近付き、アクスビークの首にロープをかけようとした瞬間、アクスビークに集中しすぎ、シルバーウルフの群れに囲まれてしまった。
俺と茜でシルバーウルフを数匹斃すとシルバーウルフの群れはすぐに逃げていった。
アクスビークも逃げたかと思いながら、振り返ってみたのだが、アクスビークは逃げずにじっと立ち止まっていた。
俺はアクスビークの前に歩いて行き、強いイメージで従魔になるように命じた。
暫く、アクスビークの目を見つめているとアクスビークが頭を下げ、俺の頭に語りかけてきた。
「≪私に名前を頂けませんか≫」
「名前か。そうだ、アクスはどうだ?」
「≪アクス・・・・・・よろしくお願いします≫」
従魔になると主人と同じ言語が理解できるようになるらしい。つまり、俺は異世界言語のスキルを持っているので従魔も異世界の言語が理解できるようになると言うことだ。また、従魔の契約を解除すると言葉が理解できなくなるとのことだ。なんとも不思議な世界だ。
「ねえ、アクスって何?」
「アクスビークの名前だよ。今、アクスビークが俺に念話で名前をつけてくれって頼むから、アクスと名付けた」
「アクスビークだから、アクスねぇ。単純だけど良いんじゃない。で、これからどうする?」
「ん~。一旦、地上に戻るか。このまま連れては行けないし、馬車も買いたいからな」
「賛成よ。四階層と五階層は明日、クリアしましょう」
俺と茜、アクスビークはダンジョンをでるとすぐに馬車を探しに向かった。馬車を売っている場所はダンジョンを護衛している兵に聞いたら、すぐに教えてくれた。
教えてもらった場所に行くとそこは広い牧場があり、馬やアクスビークが数頭いた。
俺達が牧場を見ていると年配のお爺さんが話しかけてきた。
「ふぉ~。立派なアクスビークですなぁ。魔物を売りにきたのかい」
「違います。この、アクスビークは俺の従魔になったばかりです。そこで馬車を探しにきました」
「どんな馬車がご要望ですかな。アクスビークなら、どんな馬車でも引けますよ」
「幌馬車をお願いします。四~五人が座れれば十分なんですが・・・」
「中古なら、ちょうど良いのがある。それとも新品が良いかい?」
「いえ、中古で結構です。ですが、見てから決めさせてもらってもいいですか?」
「勿論じゃ。こちらへどうぞ」
案内された場所には沢山の馬車があり、バギー、カブリオレ、キャラバン、キャリッジ、キャリオルなど種類は豊富だ。俺達の目当ての幌馬車は中古と言っても綺麗で新中古といった感じだ。馬車の木材、車輪、布など点検したが、傷んだ部分は見当たらない。
「アクア、俺はこれにしようと思うがどうだ?」
「うん。私もこれで良いと思うよ」
「アスクはどうだ?アスクが引くんだぞ」
「≪問題ありません≫」
「そうか。まだ、値段を聞いていませんでしたね。お幾らですか?」
「そうだな。中古と言ってもまだ新しいから、白金貨一枚でどうだ?」
白金貨一枚と言われても馬車の相場を知らない。取り敢えず、値切ってみるか。
「ん~、厳しいですね。大金貨五枚ならすぐに買うのですが、難しそうでね」
「なら、大金貨七枚でどうだ?」
「ん~、では追加で予備の車輪を四つ、アクスビークの馬具、予備の幌の布を付けて大金貨八枚ではどうですか?」
「ん~・・・・・・わかった。大金貨八枚で交渉成立だ」
安いか、高いのかもわからないが、交渉成立だ。
俺は大金貨八枚を支払い、その場で幌馬車、追加の車輪四つ、アクスビーク専用の馬具、幌の布を受け取った。お爺さんから、「あんた値引き交渉が上手いね」と褒められたが、本当のところはどうなのか、わからない。まあ、金は茜のお陰で不自由していないから良いけど。
「私だったら、最初の白金貨一枚で買っていたわよ。でも、車輪やアクスビーク専用の馬具、幌の布なんて良く思いついたね」
「最初に壊れそうなのが木の車輪だし、幌の布も木の枝に引っ掛けたら、破れそうだったからね。帆の布は雨除けにもなっているから高いと思ったんだ。それに幌馬車を見たら馬具がなかったから、ついでに交渉しただけだよ」
「最後の最後で色々追加させて値を上げるなんて私にはマネできないよ。でも何で四~五人が座れる幌馬車にしたの?」
「将来、コウ達クインテットと合流し、一緒に旅するかもしれないだろう。それより、俺達だけで旅するなら、従魔を増やした方が良いかも知れないな。野宿する際に二人で交替して見張りをするのは辛いだろうし、アクスビークは馬車を引っ張って疲れているだろうからな」
「確かに。私はそこまで考えてなかったよ。従魔にするなら、番犬代わりの魔物がいいわね」
「ああ、すぐに見つかると良いけど」
俺達は宿に帰り、宿の主人に追加料金を払い、アクスビークを預けた。馬車はストレージにいれてあるので魔物の世話だけを頼んだ。
今日のダンジョン攻略で俺はレベル11に、茜はレベル8に上がった。