第2話 幼馴染との再会と冒険者ギルド登録
最初に向かったのは古着屋だ。今、着ている服は学生服なので非常に目立つ。それに古着はとても安く、殆ど銅貨一枚(およそ百円)で買えるから便利だ。それにお金を節約したかったからね。なにせ、銀貨十枚(約一万円)しかないのだから。それに古着屋と言っても古い服以外にも身に付けるものなら何でもあって鞄や帽子、靴、古い宝石まであるのでとても便利だ。
少しでもマシな服を探そうと暫く、古着の山と格闘していると鑑定スキルが反応した。見つけたのは魔法付与が施されたフード付きの黒いマントだ。他にもないかと探していると今度は茶色のブーツを見つけた。幸運にもマントには魔法防御、ブーツは俊足が付与されている。
恐らく、古い物なので知らずに古着屋に売ってしまったのだろう。鑑定スキルのお陰だな。
それ以外は面白いものを見つけられなかったので茶系の服とズボン、荷物を入れる布袋を購入した。
服は直ぐに古着屋で着替えさせてもらった。
次はポーションがある薬品店だ。目当てのポーションは二つある。
探していたのは瞳の色を変えてくれるポーションと髪の色を変えるポーションだ。街を歩く人を観察していると、どうやら俺のような黒髪黒目の人はいないので目立つと考えたのだ。ポーションについては書庫で調べた知識だ。どれもこの世界ではメジャーな商品で目と髪を変えるポーションは一ヶ月程で、もとの色に戻るそうだ。だが、ポーション四本だけで銀貨四枚も使ってしまい、残金が銀貨五枚、銅貨四枚と直ぐに稼がないと今夜泊まる宿もとれない。
ポーションを飲んだ結果、瞳の色は青に髪の色は青みがかったシルバーの髪に変わった。
他にも傷を癒す下級ポーションや魔力を回復する下級ポーションも欲しかったのだが、金がないので諦めた。
次の目的地へ向かう前に昼食を食べようとあちこちの屋台を見て回り、肉串、スープ、野菜炒めなどを購入し、木陰で腰を下ろして食べ始めようとしたその時、俺の影が揺らめきだし、影の中から、ある人物が音もなくスーッと現れた。
「!?・・・・・・茜?」
「そうよ。驚いた?」
「当たり前だろう。茜が何でこんなところにいる?城にコウ達と一緒にいるはずだろう」
「だって、悠太が王様に呼ばれた時、私、心配で、心配で・・・・・・だから、こっそりと悠太の影に隠れていたの。案の定、悠太は城から追い出されることになってしまった。私のせいでこの世界に召喚されたのに放ってはおけないもの。だから、私も城から出てきたの」
茜らしいのだが、俺のステータスを考えると怒るに怒れない。
「でもなぁ、城にいれば生活は保障されるぞ。俺と来たって生活できるかどうかもわからない。それに今頃、城では茜を探していると思うぞ」
「私、帰らないわよ。魔王となんか戦いたくないし、コウがうっとうしいから嫌よ!それに生活費なら安心して。城からお金や服、武器や防具を盗んでおいたから」
「盗んだって・・・・・・幾ら?」
「ん~とね。これだけもらったよ」
そう言って茜が影から取り出した金額は白金貨百枚も入った小袋が十つ、大金貨百枚の入った小袋が十つ、金貨百枚の入った小袋が十つ、銀貨百枚の入った小袋が十つだった。日本円で十億円以上もの大金だ。
茜は影魔法で自分の影に盗んだ金などを収納していたようだ。便利な魔法だ。
本や街での物価を調べた結果、白金貨一枚が百万円、大金貨一枚が十万円、金貨一枚が一万円、銀貨一枚が千円、銅貨一枚が百円くらいだと思う。ただ、服などは変わらないが、食料品は安いよう思う。特に野菜が安く、キャベツのような野菜が五玉でたったの銅貨一枚(百円)で買えるのだから、安い。逆に糖度の高い果物ほど高く、林檎が一個銀貨二枚(二千円)もするのだから、単純な円換算はできない世界だ。
「やるなぁ。城から十億円以上もの金を盗むとは。流石、茜だ。でも、俺が宰相からもらった金は銀貨十枚しかなかったから助かったよ」
「!?十億円・・・・・・まあ、悠太が助かったのなら良いけど・・・でも、ボルデック宰相は悠太に金貨十枚と言って銀貨十枚しか渡してなかったなんて、あのクソ爺!・・・・・・私ね、念のために悠太が書物庫で本を読んでいる間に金庫室からお金を盗んでおいたの。でも、盗んでおいて正解だったわね」
やっぱり、価値も知らずに盗んできたのか。これが知れたら・・・・・・やっぱり、まずいよな。しかし、簡単に金庫室から盗めるものなか?それより、これからどうするかだが、取敢えず、腹が減ったので屋台の店で買ったものを一口食べ・・・・・・美味しくない。と言うか味が薄すぎて不味い。試しに他の料理も食べてみたが、どれも調味料が塩だけしか使っていないためか、味覚が違うからか、とにかくどれも薄味で美味しいとはとても言えない。あ~ぁ、異世界の料理に期待していたのに、残念でしょうがない。
「どうしたの?」
「ハァ~、異世界の料理ってどれも美味しくないのな。茜も食べてみるか?」
茜も料理を食べ始めたが、すぐに食べるのを止めた。
「何これ!どれも薄味で美味しくない。これが異世界の料理なの?」
「そのようだな。料理は自分達でつくるしかないな」
「私、こうみえても料理はできないわよ。悠太はできるの?」
「俺は普段から料理をしていたから、問題はない。だが、調味料を何とかしないとなぁ・・・・・・それより、茜もこれを飲んでくれ」
「あ、それ知っているわよ。瞳と髪の色を変えるポーションでしょう」
茜がポーションを飲み干すと瞳は深い緑、髪は緑がかったシルバーの髪に変わった。なるほど、同じポーションでも色の変化には個人差があると言う訳か。だが、意外と悪くない。それに一見、茜とはわからないだろう。
「意外と似合うじゃないか」
「そ、そう。悠太も似合っているわよ。コホン!で、これからどうするの?」
「冒険者ギルドに行って登録をする。そうすれば、身分証も手に入るし、俺のレベルも上げられる。俺のステータスカードを見てくれ」
「!?・・・・・・何これ、酷過ぎる。何でこんなに低いの?悠太が勇者召喚に巻き込まれたから?だったら、悠太のレベル上げに私も協力する」
茜は俺のステータスカードを見て、絶句した。まあ、当然だろう。
「ああ、頼むよ。一人では厳戒があるからな」
そんな話をしながら、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドは五階建ての建物で一階には受付や依頼ボード、飲食店などがあり、二階以上は何があるのか不明だが、恐らくギルドマスターの部屋とか資料室などがあるのだろう。
冒険者ギルドに入ると俺達と言うより、茜に視線が集まった。いつも男子生徒からの視線に晒されている茜は何も感じないようだ。
そんな視線を無視して俺達は受付嬢のお姉さんに登録をお願いした。
「僕達二人の冒険者登録をお願いします」
「はい。承知しました。では、この紙に名前とスキルをお書きください」
俺は名前をもう一つの偽名としてクロード、スキルは鑑定と書くわけにはいかないので、剣術と書いた。茜の偽名はルビー、スキルは剣術と書いておいた。茜の偽名は本人の希望だ。ルビーって名前はどうかと思うが、所詮は偽名なのでよしとした。
「冒険者ギルドについて説明させて頂きます。先ずはランクですが、最高ランクのSSSから、SS、S、A、B、C、D、E、F、Gの十ランクがあります。注意事項ですが、他の冒険者の獲物の横取り、冒険者同士の殺生は禁止しています。最後にお二人はGランクからのスタートとなりますが、基本的に一つ上のFランクの依頼まで受けられます。依頼は一ヶ月に一度、必ず受けてください。身分証代わりに冒険者登録をされる方が多いのでその対策です。依頼はあちらの依頼ボードを確認してください。最後にギルドバンクをご利用しませんか?」
この世界にも銀行システムのようなものがあるのか。
「メリットとデメリットを教えてください」
「そうですねぇ。メリットはギルドバンクできちんと貴方のお金を管理し、ギルド加盟の冒険者ギルド、商業ギルド、薬品ギルドなどどこでもお金を下ろせますよ。更に店でもギルドバンクカードで支配ができます。デメリットは特に御座いません。如何ですか?」
デメリットは特に御座いませんときたか。
「そうですか。でも、俺達は手持ちの金が少ないので、今度にさせてください」
「そうですか。では、ギルドバンクの登録をお待ちしています」
「ところで他の街に行く馬車ってありませんか?」
「はい。定期便の乗合馬車が御座いますよ。時刻表は此方をご確認ください」
「ありがとう。行くぞ、ルビー」
ギルド証を受け取り、ルビーと呼ばれ、キョトンとしている茜の服を引っ張って時刻表の確認に向かった。
目的の場所へ出発する馬車は朝九時と昼一時の二便あり、後一時間ほどで出発するようだ。目的地はキンドルと言う街でキンドル、モントリー、ベルンの街を経由しないと、この国(ラスター王国)に一番近い、ブリュン帝国へは行けない。
書物庫で調べたところ、ラスラー王国は小さな国で四つの大国に囲まれている。ここラスター王国の王都から、一番近いのがブリュン帝国なのだ。
俺は馬車の待ち時間に武器防具の店に向かおうとしたのだが・・・・・・。
「何を買うの?今日中にキンドルの街に着くのだから、向こうで買えばいいじゃない?」
「そうなのだが、盗賊や魔物に襲われた際に備えて、俺でも扱える武器を探そうと思ってな。一応、護身用に剣はもらったけど滅茶苦茶重いし、俺にはスキルがないから、とても扱えそうにない。だから買っておこうかなと」
「悠太に扱える武器って何?」
「そうだなぁ。・・・・・・思いつかない」
「じゃあ、取り敢えずは、私が盗んだ剣を使えば?防具もあるわよ」
「それもそうか。じゃあ、頼む」
茜から薄い緑色のミスリルの剣とドラゴンの黒い革鎧、ミスリルの胸当てをもたい、装着した。流石に城にあったものだけあって良いものばかりだ。
「悠太。ところでそのマント、どうしたの?」
「このマントには魔法防御が付与されているんだ。それとこのブーツにも俊足が付与されている。良いものをたった銅貨二枚で手に入った。ラッキーだったよ」
「安ッ!・・・・・・でも、そのマント、なかなか似合っているわよ」
「そうか?・・・・・・ところで茜のスキルだけど、影魔法って誰かの影に茜と一緒に俺も入れるのか?」
「やったことはないけど、今のレベルだと多分無理ね。なんとなくだけど、わかるのよ」
「そうか。なら、茜は次の街まで俺の影に隠れていてくれ。城で茜がいないことが、知られれば、騒ぎになっている可能性が高いからな。髪や瞳の色を変えているとは言え、街に出入りする際の検問でチェックされると不味い」
「やっぱり、そうよね。わかったわ。でも、盗賊や魔物がでたら、私も戦うわよ」
茜は俺の提案に納得してくれたので安心した。茜には可能性が高いと言ったが、絶対に検問でチェックされるはずだ。
「そうか。ところで影の中ってどんな感じだ?」
「ん~とねぇ、真っ暗ってわけじゃないけど、暗い小さな部屋って感じかなぁ。ただ、声は聴こえるし、そこが何処なのかも不思議とわかるって感じ。こんな説明でわかる?」
「なるほど。スキルって不思議な力だな。俺からも茜に言っておくことがある。実は俺のスキルは鑑定だけじゃないんだ」
「嘘!でもステータスカードには鑑定しかなかったのでしょう?」
「ああ、でも俺の鑑定スキルで自分を鑑定するとスキルとは別にユニークスキルと言うものがあるんだ。そのユニークスキルにはストレージ、アブソーブ、ピュリフィケーションの三つあって、そのスキルを簡単に説明するとストレージは無限収納のことで、アブソーブはスキルを吸収する能力。ただ、吸収するには条件があって自分で斃した魔物に魔石があることだ。そして最後のピュリフィケーションは浄化や精製の魔法だな」
「じゃあ、何でそのことを王様に言わなかったのよ。そしたら、城を追い出されずにすんだかもしれないのに」
「あの時、茜を含めた六人全員が、元の世界に戻るためならと、魔王を斃すことに賛成しただろう。だったら、俺一人だけでも他に帰る方法がないか、調べようと思ったのさ」
「なるほどね。流石、悠太。でも、当てでもあるの?」
「書物庫でも調べてみたが、それらしい書物はなかった。恐らく転移系か召喚の魔法が鍵だと思うのだが、確証はない。そこで、相談なのだが、俺達のレベルが上がったら、もう一度、この国の城へ侵入し、転移や召喚魔法について調べようと思っているのだが、どう思う」
「だったら、今から城に潜り込もうよ」
「いや、今はレベルが低いから、危険だ。それに他国でラスター王国が勇者召喚したことを知っているのか、色々と調べたいことがあるんだ。それにこの国が勇者召喚した本当の理由が知りたい」
「それなら」
「確かに魔王を斃すことも狙いの一つなのかもしれない。だとするなら、一国の問題ではなく、人族全体の問題だろう。なのに、勇者召喚したのはこんな他国に囲まれた小さな国のラスター王国だ。変じゃないか?どうせ、勇者召喚するなら、国同士が協力し合うんじゃないかな。なのに、召喚したのは一国だけ。本当に魔王は一年後に復活するのか?実は魔王以外にも狙いがあるんじゃないのかと疑いたくなる。これは俺の想像だけど、この国はいつも他国の脅威に晒されている可能性がある。だから、他国への牽制の意味もあるんじゃないかなぁ。だとしたら、コウ達の扱いが気にならないか?」
「なるほど。コウ達を戦争の道具にする可能性があるってことね。でも、そう言うことはアオ君も気付くんじゃない?」
「多分な。だとしたら、密かにアオ達との情報交換も必要になるだろうな」
「国の中と外の情報交換ね。確かにそうね。ところで私にもユニークスキルってあるの?」
「実は茜にもある。茜にはミラージュとイミテイトの二つだ。ミラージュは幻を作り出せる魔法でイミテイトは他者の技術を真似られるスキルのことだ」
「へぇ~、私にもあるんだ。でも、悠太にも特別な力があって安心したよ」
「心配してくれてありがとう。それと、これは城から盗んでおいたスキルについて詳しく書かれた本だ。自分のスキルでどんなことができるか調べておいてくれ」
茜に渡したのはスキルの書と言う本でスキルの種類やレベルが上がるとどんなことができるかが、詳しく書かれた本だ。ただ、ユニークスキルについては書かれていない。書物庫でも探したが、見つけられなかった。恐らく、ユニークスキル自体がこの世界に存在しないのかもしれない。
「わかったって、悠太も盗んでたの?」
「当然だろう。戦闘系スキルのない俺がこの世界で生き抜くためには情報が重要だと考えていたからな。だから、百冊ほど盗んでストレージに入れておいた」
「百冊も!」
「この世界の本って高いからな。だから、俺も茜と同罪ってことさ」
馬車が来るまで茜とスキルや今後の計画を話し合った。
一時間後、俺(茜は俺の影に隠れている)は乗合馬車に乗ってキンドルの街へ出発した。
馬車の運賃は銀貨四枚(約四千円)とバスに比べるとかなり高いが、歩くと三日もかかるらしいので仕方がない。