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第1話 プロローグ

これからどうすべきかを俺は考えていた。と言うのも俺はまったく知らない異世界に幼馴染の茜に巻き込まれ、召喚されたのだ。


職業が鑑定士の俺は一人だけ、戦力外だと城から放り出された。それは数時間前の出来事だった。





高校一年のある日、俺こと真田悠太さなだ ゆうたは授業が始まるまで、教室の机で本を読みながら、寛いでいた。だが、急にクラスメイト達が騒ぎ出し、悲鳴を上げる者や慌てて廊下へ逃げようとする者達の喧騒に気付いた。


俺は慌てて本を放り投げ、周囲を確認した。すると数名の足元にだけ、何かで見たことがあるような光輝く魔法陣が浮かび上がっていたのだ。冷静に観察すると魔法陣は六人の足元だけにある。


急いで教室から逃げ出そうとしたのだが、何故か、幼馴染の斉藤茜さいとう あかねが俺のもとに駆け寄り、抱きついてきたので逃げるに逃げられない状況になった。その内に眩しい光が俺達を包み込み、目が眩んで気を失ってしまった。

そして気付いた時には見たこともない大広間に横たわっていた。


「これって、小説や漫画に出てくる異世界召喚と言う奴か?何でこんなことになった?・・・・・・そうだ!俺はあの時、茜に抱きつかれて逃げられなかったんだ」


周りを見回すと召喚されたのは神童黄雅しんどう こうが赤嶺幸助あかみね こうすけ青野英士あおの えいし鈴木桃子あおの ももこ緑矢美月みどりや みずきに幼馴染の斉藤茜と俺の七人だけだった。


最初は驚いたが、冷静になってくると現状がわかってくる。


「そうだ!俺の足元には魔法陣はなかった・・・・・・そう言えば、茜の足元には魔法陣があったような・・・・・・と言うことは、俺は茜に巻き込まれて召喚されたのか?マジかよ」


俺はあまりの出来事に途方に暮れた。

幼馴染の茜とは家が隣同士の縁で幼い頃から、親しくしていた異性の友達みたいな存在だ。茜は運動神経抜群で、学年でも三本の指に入る美少女だ。髪型はいつもショートカットで家が剣道場の娘なだけあって茜も小さい頃から、剣道をやっていた。


いつも俺に構ってくるので男子生徒達からは「なんで斉藤(茜)さんはアイツなんかと一緒にいるんだ」と白い目で見られていた。反対に俺は髪がボサボサで眼鏡をかけているせいか、クラスでも冴えない存在と認識されているのだから、無理もないだろう。


召喚された他の五人は神童黄雅、赤嶺幸助、青野英士、鈴木桃子、緑矢雫の美男美女グループでいつもクラスの中心にいる人物達だ。だから、五人のことをクラスメイト達は敬意を込めてクインテット(五重奏)と呼んでいる。また、五人とも名前に色の漢字が含まれているのでコウ、アカ、アオ、モモ、ミドリの愛称でも呼ばれていた。


コウこと神童黄雅は五人のリーダー的な存在だ。スポーツ万能で女子生徒にも一番モテる。ただ、残念なことに自信過剰でいつもクラスの皆に「茜と俺は付き合っている」と堂々と吹聴していた。まあ、茜は否定していたようだが、真実は知らない。


アカこと赤嶺幸助は百九十センチ近くもある高身長でガタイの良いスポーツマンだ。陽気で曲がったことを嫌う性格のためか、クラスの男子生徒からの人気は高い。実はモモと付き合っていると言う噂もある。


アオこと青野英士はどんな時でも動じず、冷静に物事を判断する冷静沈着な男だ。運動は苦手のようだが、いつも成績は学年トップ五に入っている。実はアオもミドリと付き合っていると言う噂がある。


モモこと鈴木桃子はいつもニコニコ笑顔で男子生徒の心を鷲掴みにするタイプだ。トレードマークのポニーテールがいっそう可愛く見えるのだろう。当然、茜やミドリと並んで人気は高い。


ミドリこと緑矢美月は読書好きの眼鏡美人だ。アオ同様、成績は学年でいつもトップ五に入る優等生だ。だ。だが、ドジっ子の面もあり、逆にそれが良いと言う男子生徒も多い。当然、茜やモモと並んで人気は高い。


やっと気が付いた茜が不安そうな顔で俺に話しかけてきた。いつもは強気な性格なのに予期せぬトラブルに弱い性格は相変わらずだ。


「ここは何処なの?」


「さあ、俺にもわからん。多分、城の大広間だと思うが・・・・・・」


「そっかぁ。・・・・・・あ、あのね、悠太。私のせいで巻き込んでごめん。私の足元に何かが現れた瞬間、・・・・・・私、恐くって。本当にごめんなさい」

茜にも俺を巻き込んだという自覚はあるようだ。


「まあ、それはいい。問題はこれからをどうするかだ。暫く、様子をみるしかないな」


「うん、わかった」


俺達全員が目を覚ました頃に漸く俺達を召喚させたであろう首謀者が、大広間へぞろぞろと数十人引き連れて、ゆっくりと歩いてきた。

部屋に入ってきたのは赤い生地に金色の刺繍が施されたマントと黄金の王冠を身に纏った人物、恐らくは国王だろう。残りのメンバーは貴族や騎士ってところかな。


「勇者諸君。ようこそ、我がラスター王国へ。余はこの国の王、グラーベル・フォン・ラスターだ。ボルデック宰相、説明を頼む」


「畏まりました。では勇者様方、私から説明させて頂きます。我々が勇者召喚を行なったのには訳があります。それは――――」


ボルデック宰相の話を簡単に説明すると魔王が約一年後に復活するので勇者に魔王を斃して欲しいと言うものだ。魔王を斃せば、元の世界に戻れると言うことらしい。まあ、よくある小説のストーリーだな。


こんな胡散臭い話には流石のクインテットも「うん」とは言わないだろうと思っていたのだが、優等生のコウが了承し、仲間のアカ、アオ、モモ、ミドリ、そして茜までも魔王を斃さなければ、元の世界に戻れないと知り、あっさりと承諾してしまった。


呆れるほど単純な連中だ。まあ、元の世界に戻る方法がそれしかないと聞かされれば、了承するしかないだろう。


「ありがとう、勇者諸君。では、これから君達にステータスカードを渡す。自分達の能力を確認し、我々に教えてくれないか」


ボルデック宰相の話によると異世界から召喚された勇者達には特別なスキルが備わっているらしい。一つは異世界言語で異世界の言葉や文字をスキルが翻訳してくれると言うものだ。次に召喚された者は強力な武術や魔法スキルを得られるとのことだ。また、生命力や魔力も初期値から、非常に高いようだ。


だが、渡されたステータスカードに表示された俺の能力は最悪なものだった。どうやら、巻き込まれた者は対象外と言うことらしい。

俺の職業は非戦闘員の鑑定士だ。生命力や魔力も残念な数値だった。茜達のステータスを鑑定したので間違いない。


茜の職業は暗殺者アサシン、スキルは影魔法、暗殺剣、隠密、察知の四つもあるのに対し、俺は一つだけ。更に生命力と魔力は俺と二桁も違う。この時点で俺は覚悟した。小説通りなら、俺のステータスを見た国王は恐らく俺を城から追い出すだろう。この状況をどうするか、この世界でどうやって生き延びていくかを急いで考えねばならない。理不尽だとか言っていられない。生きるか死ぬかの瀬戸際だ。


因みに全員のステータスを鑑定スキルで調べた結果が以下だ。


職業 スキル              生命力魔力

コウ光の勇者 光剣・限界突破・再生    600400

アカ炎の拳士 炎拳・身体能力強化・威圧    500300

アオ氷の弓士 氷矢・察知・魔力操作    500300

モモ聖女 聖魔法・治癒魔法・結界・魔力回復  200500

ミドリ賢者 火・水・風・土の四属性魔法    300500

茜暗殺者 影魔法・暗殺剣・隠密・察知    400400

悠太鑑定士 鑑定               8  7

※異世界言語を除く


参考までに鑑定は相手のステータスやアイテムなどを特定するスキルのことだ。

ボルデック宰相は一人ひとりのステータスカードを確認にして回り、「おお!神童黄雅様が光の勇者様でしたか。更に炎の拳士様に氷の弓士様、聖女様に賢者様、暗殺者様までいるとは。素晴らしい!」と喜んでいたのだが、俺のステータスカードを見た瞬間、無言になり、王様へ報告に向かった。


俺以外の皆はステータスカードを見て喜んでいるようだが、俺はそれどころではなかった。だから、六人の言葉は俺の耳には入らなかった。


そして予想通り、「後でお話があります」と言われてしまった。だが、本番はこれからだ。俺は騎士団に連れられ、国王のもとへ向かった。


「悠太よ。非戦闘員である、そちのステータスではこのまま城に滞在してもらっては困るのだ。お主には悪いがこの国を出て行ってはくれぬか」


いきなり俺の名前を呼び捨てか。それに城ではなく、この国から出て行けとは理不尽な国だ。覚悟していた事とはいえ、流石に予想以上の扱いだな。


「承知しました。但し、お願いがあります」


「なんじゃ。元の世界に帰すことはできんぞ。それとも金が欲しいのか?僅かな金なら渡してやるつもりだ」

やっぱり、元の世界へは戻してもらうのは無理か。なら、・・・・・・。


「はい、一つは王様が仰っていた通り、当面の生活費です。二つ目は護身用に剣を頂けませんか?そして最後にこの世界でも身分証のようなものがあるなら、頂けないでしょうか?できれば偽名で」


「何故この国に身分証があると知っているのじゃ?」


「はい。俺の世界でも身分を証明するものがありました。これは想像ですが、街や他国へ出入りする際、身分証が必要なのではありませんか?」

実は事前に騎士達の持ち物を詳しく鑑定しておいたのだ。


「鋭いのう。まあ、いいだろう。で、偽名はなんとする?」


「そうですねぇ。・・・・・・ネイトでお願いします。いつ頃頂けますか?」

これも事前に考えていた名前を伝えた。鑑定で騎士達の名前を調べ、可笑しくなさそうな名前にしたのだ。


「ボルデック宰相、どのくらいで準備できる?」


「そうですなぁ。一時間ほどあれば、準備できるかと」


「なら、その一時間、書物庫で調べ物をさせて頂いても宜しいでしょうか?」


「まあ、いいだろう。後のことはボルデック宰相、お前に任せたぞ。わかっているな」


「承知しました」


国王と宰相がアイコンタクトを交わし、なにやら頷き合っていた。嫌な予感がする。


俺は準備が終わるまでの一時間、書庫に篭ってこの世界について調べた。この世界の常識、言語、地図、スキル、薬草図鑑、魔物図鑑など、この世界に関する様々な本を調べた。俺もミドリ同様、結構な本好きなので速読も得意な方だが、何万、何十万冊もある本を一時間で覚えるのは流石に無理だ。


そこで、一時間で本の表紙と内容を確認し、欲しい本の中から同じような本が数冊あるものを選び出し、見張りの騎士の目を盗んでこっそりと百冊以上の本をもらっておいた。まあ、すぐに気付かれることはないだろう。だが、肝心の召喚魔法や元の世界に戻る方法が書かれた本は見当たらなかった。


それから一時間後、ボルデック宰相から、金貨十枚(およそ十万円)、護身用の剣、偽名の市民証だと言われ、渡されたのだが、城を出てから確認すると、もらった金は銀貨十枚(およそ一万円)、剣は二メートル以上もある重い剣。恐らく鍛錬用なのだろう。とても俺のステータスでは扱えそうにない代物を意図的に渡したようだ。更に市民証は偽造された偽物ときた。


恐らく、国王とボルデック宰相のアイコンタクトはこう言う意味だったのだろうと理解した。ふざけるな!と毒突きたい気分だったが、すぐに諦めた。もう何を言っても無駄だからだ。





そして現在、俺は考えた計画を実行することした。


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