まずは声をかけよう②
蒸し暑い体育館に歓声が木霊する。半面を男子がバスケで使用し、残りの半面を女子がバレーで使用している。歓声をあげたのは男子と女子両方だが、どちらかといえば男子の方が多い。バスケの試合などそっちのけでバレーをしている豊城月乃に視線を向けていた。
長い髪は犬に尻尾のようにポニーテールで縛り月乃の動きに合わせ嬉しそうに揺れている。細くスラリと伸びた脚で高く跳ぶと小気味の良い音と共にスパイクを決めてみせる。その流れる動作が訓練の賜物ではなく、授業やお遊び程度身につけたものだというのだから人生はあまりに不平等だ。
バレー部の面目までも床に叩きつける一発はチームの勝利に繋がったようで、チームメイトとハイタッチを交わす。勝利の喜びを分かち合う月乃は流した汗さえも輝かせ羨望の眼差しを一身に集めている。コートから出た月乃は床に腰を下ろし水筒に口?つける。中身の麦茶が冷たい……けど、それ以上に冷ややかな視線が月乃に注がれていた。
¨もう六限目だぞ! もうすぐ下校だぞ!¨
そう視線で訴えているのは武司だ。壮太に肩を並べ¨朝の意気込みはどうしたんだ¨という念を送りながらバレーを見ていた。
「こうして見ると月乃さんもただの女子高生だよな
ぁ」
「鏡花に怒られるぞー」
¨人の苦労も知らないで¨とちょっとイラっとした武司はとりあえずチョップをかました。壮太が他の男子同様ミーハーだったら、何も問題なかった。さっさと告らせくっつけてお役後免で済んだのだ。
「で、壮太くんや。¨彼女を作るのに協力¨とはいったい何をすれば良いんでっしゃろ?」
「さあ? それも含めて協力してくれ」
「無茶苦茶だな。先ずは好きな人を作れ」
「好きな人って言われてもな……」
直ぐ名前を挙げない点は月乃にもまだ光明がある。壮太が好きな人を隠している可能性もあるが協力まで仰いでいるのだ。いないと判断しても差し支えない。
「ところで今日バイトだったよな?」
「そーだが?」
「遊びに行くから」
「邪魔だから来なくていい」
拒否されたが武司は行く気マンマンだ。このままではあのヘタレ美少女は想い人を眺めるだけで今日を終えてしまう。ペナルティはないが鏡花が課したノルマそれに朝の意気込みを無駄にしないためにも月乃には頑張って頂くことにした。