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恋の相談は徒労に終わる③

噎せた月乃は手櫛で乱れた髪の毛を直した。癖のない濡烏の髪が纏りを取り戻し月乃もまた落ち着きを取り戻すとコホンと咳払いをすると鏡花に目を向けた。

「キョ、鏡ちゃん? 念のため確認するけど、私に天野くんが彼女を作れるよう協力してってことでいいんですよね?」

月乃が持つお冷やが小刻みに揺れ、動揺しているのが誰の目にも分かる。クリームソーダを啜っていた鏡花は軽く「そうだよー」と返した。

「待って鏡ちゃん! 私との約束忘れたの?」

月乃は約束を反故にされたのではないかと不安の眼差しで目の前のバカップルを見ている。どうやら自分だけその¨約束¨を知らないのだと知った壮太が¨約束¨について聞いてみた。

「約束ってなに?」

「壮太は黙ってて。私とツーちゃんとの女同士の約束だから!」

女同士と言っているが武司も知ってるようなので彼に目を向けた。けれど、彼も言う気はないようで¨教えられない¨と頭を横に振るばかりだ。

壮太は疎外感を覚え黙ることにした。グラスの中の氷をストローでクルクルとかき混ぜ二人の会話が終わるのを待った。

「もちろんツーちゃんとの約束も覚えているよ?」

「だったら……」

「だからこそだよ! 壮太の恋愛相談に協力すれば男心を知るチャンスだよ?」

「でも……」

考えながら話しているあたり鏡花が直接的な表現を避けているのは分かった。頭の回転の早い月乃はその理由も察しがついている。

壮太とA子(仮名)の恋の成就を手伝うわけじゃない。壮太に彼女ができるように協力すればいいのだ。壮太の好きな女性のタイプを知ることもできる、好きな食べ物や映画、趣味を聞くことも。あわよくば予行演習と称しデートすることだって――。一見良いこと付く目に思えるが、万一壮太に好きな人ができたら、彼の口から「A子(仮名)が好きなんだ」と聞かされる羽目になる。想像するだけで倒れてしまいそうなくらいショックなのに、その後はその恋路を応援しなくてはならない。

自分が臆病者だということは月乃自身が一番実感している。それとこんな間者みたいなことは卑怯だということも。だから、断るべきなのに……。

「高校生でいられるのもあと一年半しかないんだよ?」

鏡花の言葉が胸に突き刺さる。もうすぐ夏休みだし来年は受験でそれどころじゃないかもしれない。今までみたいに遠くから眺めているだけでは進展などありはしない。

このままただのクラスメイトで終わり後悔するか卑怯者と罵られるかもしれないけど勇気をだすか――。

「ツーちゃん、私が武司と恋人になれたのは勇気をだしたからだよ?」

鏡花の小さな手が月乃の手を握った。色彩の薄い双方の眼が正面から真っ直ぐに月乃を捉える。

「勇気……だそ?」

弱々しく逡巡していた月乃が黒い瞳に意志を宿して頷いた。

「……私も勇気だしたい! 後悔したくない」

どんな結果になるか分からない。当たり前のことだけど行動を起こさなければ何も変わらないのだ。たとえ後悔することになっても。

一人置いてきぼりにされた壮太を横目に心の中で誓いを立てる。


――絶対天野くんに彼女にしてもらいます!


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