夏休み明けの体育祭とか辛い⑨
昼食を終えた月乃と鏡花が更衣室でTシャツに着替えた。ダンスのために支給された服。手芸部により多少アレンジされているものの、予算の都合上素材のTシャツは安価なものだ。それでも月乃が着ると華やかさがでてくる。
「益川さん、告白したのかな?」
同じ更衣室で着替えている益川をみた。彼女の姿は月乃の目にも鏡花の目にも何も変わらないように見える。
「どうでしょう? 特段変わらないように見えます」
二人は益川とそこまで友情を築いていない。敵対している訳でも嫌われている訳でもないが特別絡むようなこともなかった。鏡花が益川の好きな人を知らなかったのもそのためで、表情の違いを読みとることなど到底叶わない。けど、それは益川も同じはずだ。月乃が壮太を想っていることも気持ちを伝えると決めたことも知らない。着替えが終わると月乃を警戒する素振りすら見せず出て行ってしまった。
「私たちも行きましょうか?」
「そう、だね。ツーちゃん……本当に良いんだね?」
扉に手をかけた月乃が止まる。親からはぐれてしまった子供のように不安に押し潰されそうだけど、騎士のように強い意志で声を紡ぐ。
「うん。もう決めたから」
月乃が出ていき鏡花が続く。ほどなくしてグラウンドが音楽で埋めつくされた。
体育祭が終わった。順調に得点を伸ばした赤組が勝ち壮太たちの白組は大差で負けた。それが悔しいかと言われれば、そうでもなく寧ろやっと終わったという感じの方が強い。
壮太が校門へ赴くと影の中に美しく花が咲いていた。壮太は迷わずその花のところへ向かう。
「豊城さん早いね。武司たちはまだ?」
長い髪が左右に振れた。俯いたままだった月乃が顔をあげる。
「ごめんなさい、天野くん。今日二人は来ません。私が二人にお願いして二人キリにしてもらったんです」
「どうゆうこと?」
「天野くん、お話があります。一緒に帰ってくれませんか?」
勇気を出した月乃の言葉に壮太が頷く。茜の空の下、月乃が先に歩き出し壮太が後を追って歩き出した。




