夏休み明けの体育祭とか辛い⑤
体育祭の練習が本格的に始まった。通常の競技は体育の授業を使って練習しているが、毎年恒例になっているダンスだけは放課後に練習をしている。
マメが潰れ硬くなった手にリードされ月乃が回る。回転する景色のなかで一瞬だけ見える鏡花と武司のペア。そして益川久美と天野壮太とのペア。
ショックのあまり崩れそうになる。
「っと、大丈夫?」
「ご、めんなさい。足……もつれちゃって」
転倒しそうになったが長谷川に腕を引かれたことで態勢を立て直しリズムに体を委ねる。
「それにしても月乃さんが僕を選んでくれるなんてね」
「違いますから! 私は天野くんと踊りたかったけど先を越されたって言いましたよね?」
あの日、自販機の前でモタモタしていた月乃に代わり壮太を呼び止めたのは益川久美だった。月乃が言えなかった¨踊って下さい¨の一言も絞りだし、こうしてダンスのパートナーの地位を得た。
一方の月乃はと言えば、踊りたい相手を失い体育祭に対するモチベーションを完全に失っていた。それでも立候補したのに辞退するという無責任なことはしたくなかったので、鏡花に協力してもらい長谷川と踊る手筈を整えた。他の人に迷惑をかけずに済んだのは良かったが、長谷川に事情を説明する際に想い人がバレたのは誤算だったが……。
「あははは。冗談だよ! まあ、月乃さんが天野狙いだって言うのには驚いたけど」
「鏡ちゃんや武司くんにも同じこと言われましたけど、私が天野くんに惚れているのってそんなに変でしょうか?」
曲が終わり繋いでいた手を放す。長谷川の体温が残る手は汗ばみシットリとしている。長谷川も汗をかいた手を体操服で拭く。
「ほら、天野って良くも悪くも普通で目立たないだろ? だから、月乃さんがって聞くと意外に感じる」
「そう、ですね。確かに天野くんは勉強も運動も秀でてはいないですね……でも、そんな事どうでもいいんです」
三年生のリーダーが練習の反省を述べるのを、片耳で聞いていた長谷川が小声で話す。
「じゃあ壮太の容姿が好みだった……とか?」
「それも違います。私が強かった天野くんに惚れたのは……」
口を開いた月乃だけど、その後の言葉を口にするのは思いとどまった。口を閉じて頬笑む。
「やっぱり、秘密です!」
長谷川が残念そうな顔をする。リーダーが男子に帰るように指示をだした。この後は女子だけが披露するダンスの練習を行う。三年生が中心となり創作したダンスをアイドルの曲に合わせ踊る。月乃の出番はその二曲目だ。
荷物を持って男子が続々と帰っていく。その中にある壮太の姿を熱の籠った瞳に捉え続けた。




