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夏休み明けの体育祭とか辛い①

夏休みが終わり始業式の朝を迎えた。

夏休み前と同じウンザリするような暑さだけど、以前のような蒸し暑さはなくなり空っと乾いた空気になっている。壮太は不規則な生活に慣れた体に鞭を打ち電車に乗った。

電車の揺れに合わせ欠伸を繰り返す。連休だからといって夜遅くまでゲームをするのは止めようと思うのは毎年のこと。歴史は繰り返すものなのだと身を持って実感しているとブレーキがかかり電車の速度が落ちる。徐行運転になった窓の外にはホームに並んだ人の列。その中で一際輝いているのが豊城月乃。

ただ今日の彼女は少し翳っているように見えた。見慣れてきたとはいえ月乃の容姿はド派手に煌めく太陽とは真逆の控えめだけど満月のように皆が憧れるような美しさだ。《竹取物語》然り、沢山の人がその流麗な輝きに夢を視てきたが今の豊城月乃はどうだろう……。やつれ曇った顔はその魅力を半減させてしまっている。

鏡花から海外で過ごすと聞いたのを思い出したところで、月乃のは隣の女性専用車両に乗っていった。


教室に着くなり囲まれる月乃。夏休みに何をしていたのかなど質問責めに合い対応に追われている。

「相変わらず凄い人気だよな?」

鞄を机に置いた壮太は武司の机に借りていたCDを謝礼の言葉と共に置いた。

「おっ! ついに壮太も月乃さんの魅力に負けたか」

「ちげーよ! よくもまぁ毎日毎日集まるよなーって」

月乃の机を取り囲むようにクラスの男子から別のクラスの男子まで集まっている。

「そりゃあこの学校で一番の美少女ですからな! 夏休みどー過ごしたか気になるんじゃね?」

夏休み月乃を誘おうとして玉砕した男どもにとって、月乃が誰と夏休みを過ごしたかは確認しなくてはいけない重要事項。その答え次第では男の影が見えてしまうのだから。

「確か……ずっと海外にいたんだっけ?」

「鏡花が遊びに誘ったらそう返信があったらしい」

同じ解答を月乃から貰っている男たちに歓喜の声があがる。親のところにいたとなれば男の存在は限りなく低いだろうし、普段日本にいる月乃が海外で男を作っているとも思えない。

始業式の開始の時間になり武司が欠伸をして立ち上がった。教室を出る瞬間に合掌をする。

「御愁傷様。必死になったところでお前らの恋は叶いませんよ?」

月乃が想いを寄せている人を知っている武司が蜜に群がる虫を嗤う。その甘い蜜を唯一、吸うことを許された壮太が思い出したように口を開いた。

「そういや、豊城さん好きな人がいるんだっけ?」

「いるぞ。猛アタックしてるけど全然振り向いてもらえてないみたいだけど、な」

「はぁー。あのレベルの美少女を相手にしないとかとんだ傲慢男がいたものだなー」

呑気な壮太の言葉に「それはお前のことだ!」とツッコミたい衝動に刈られた武司だが、好意を伝えるのは月乃自身がやらねばいけないこと。

「そうだな。でも、その傲慢男が体育祭でどう出るかは見ものだよな?」

「ああ! 社交ダンスな」

紅白に分かれ点数を競う体育祭だけど社交ダンスだけは違う。アメフトで言うところの¨ハーフタイムショー¨だ。クラスから三人の女子が選別され一学年十二人、計三十六人が昼飯の後にダンスを披露する。その最後にあるのが社交ダンス。

「豊城さん、その傲慢男を指名するつもりなの?」

ダンスのとき一緒に踊るパートナーは女子が男子を誘うというシステムが取られている。元々は女子がダンスを披露し最後に社交ダンスを披露するというものだったが、回数を重ねるうちに今のスタイルになった。それに併せ生まれたのが《一緒に踊ると生涯を共にできる》という根も葉もない言い伝え。

男からしてみれば体育祭までの期間は¨声をかけられるんじゃないか?¨とバレンタインに似た期待にやきもきしながら過ごすことになり、女子は女子とて¨ことわられるかも¨という不安と公の場で告白紛いの行為をしなくてはならないというプレッシャーに挟まれ過ごすことになる。

「さあな? 去年は出場するの拒否したし、今年もするかもしれないけど……出たらまあ指名するだろうな」

月乃が出場するつもりなのかどうかは武司も知らない。けど、言い伝えがある以上出場したら壮太以外を指名するわけにもいかない。


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